国際連合食糧農業機関(FAO)の最新データ(2024年7月更新)によると、オーストリアにおける羊肉の生産量は1961年の1,763トンから2023年の6,800トンへと着実に増加しています。ただし、生産量は長期的に増加傾向を示している一方で、2000年代以降は一部の年で若干の変動が見られるなど、一定の安定性を欠いている部分もあります。このような推移はオーストリアにおける食肉需要の変化、農業政策、環境要因などが影響していると考えられます。
オーストリアの羊肉生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
---|---|---|
2023年 | 6,800 |
4.78% ↑
|
2022年 | 6,490 |
-3.85% ↓
|
2021年 | 6,750 |
3.05% ↑
|
2020年 | 6,550 |
-6.7% ↓
|
2019年 | 7,020 |
5.25% ↑
|
2018年 | 6,670 |
10.96% ↑
|
2017年 | 6,011 |
-4.08% ↓
|
2016年 | 6,267 |
1.85% ↑
|
2015年 | 6,153 |
-13.73% ↓
|
2014年 | 7,132 |
-1.33% ↓
|
2013年 | 7,228 |
9.45% ↑
|
2012年 | 6,604 |
-0.68% ↓
|
2011年 | 6,649 |
8.64% ↑
|
2010年 | 6,120 |
-6.51% ↓
|
2009年 | 6,546 |
-9.8% ↓
|
2008年 | 7,257 |
27.47% ↑
|
2007年 | 5,693 |
-21.17% ↓
|
2006年 | 7,222 |
9.34% ↑
|
2005年 | 6,605 |
0.3% ↑
|
2004年 | 6,585 |
-5.73% ↓
|
2003年 | 6,985 |
0.07% ↑
|
2002年 | 6,980 |
-3.42% ↓
|
2001年 | 7,227 |
-3.6% ↓
|
2000年 | 7,497 |
25.89% ↑
|
1999年 | 5,955 |
-11.17% ↓
|
1998年 | 6,704 |
0.66% ↑
|
1997年 | 6,660 |
4.29% ↑
|
1996年 | 6,386 |
6.11% ↑
|
1995年 | 6,018 |
3.9% ↑
|
1994年 | 5,792 |
8.46% ↑
|
1993年 | 5,340 |
-8.44% ↓
|
1992年 | 5,832 |
5.4% ↑
|
1991年 | 5,533 |
1.63% ↑
|
1990年 | 5,444 |
7.36% ↑
|
1989年 | 5,071 |
13.83% ↑
|
1988年 | 4,455 |
-1.2% ↓
|
1987年 | 4,509 |
19.29% ↑
|
1986年 | 3,780 |
18.31% ↑
|
1985年 | 3,195 |
-7.79% ↓
|
1984年 | 3,465 |
18.91% ↑
|
1983年 | 2,914 |
10.5% ↑
|
1982年 | 2,637 |
-9.07% ↓
|
1981年 | 2,900 |
3.39% ↑
|
1980年 | 2,805 |
-2.26% ↓
|
1979年 | 2,870 |
34.3% ↑
|
1978年 | 2,137 |
15.95% ↑
|
1977年 | 1,843 |
3.83% ↑
|
1976年 | 1,775 |
15.71% ↑
|
1975年 | 1,534 |
8.18% ↑
|
1974年 | 1,418 |
15.47% ↑
|
1973年 | 1,228 |
12.45% ↑
|
1972年 | 1,092 |
4.9% ↑
|
1971年 | 1,041 |
-14.95% ↓
|
1970年 | 1,224 |
1.75% ↑
|
1969年 | 1,203 |
-1.64% ↓
|
1968年 | 1,223 |
-16.58% ↓
|
1967年 | 1,466 |
2.16% ↑
|
1966年 | 1,435 |
-4.46% ↓
|
1965年 | 1,502 |
8.21% ↑
|
1964年 | 1,388 |
-13.2% ↓
|
1963年 | 1,599 |
-13.8% ↓
|
1962年 | 1,855 |
5.22% ↑
|
1961年 | 1,763 | - |
1961年以来、オーストリアの羊肉生産はゆるやかな増加傾向を見せ、特に1980年代から1990年代にかけて飛躍的な伸びを記録しました。1980年の2,805トンから1995年の6,018トンまでの増加ペースは非常に顕著で、この背景にはいくつかの要因が挙げられます。まず、オーストリア国内における農業の近代化と効率化が進んだこと、そして中欧地域での羊肉需要が高まり、輸出の機会が広がったことが影響しています。さらにEU加盟後の農業政策の支援もこの増加を下支えしました。
しかし2000年代以降、生産量の年ごとの変動が増え始めています。例えば2000年には7,497トンに達したものの、2007年には5,693トンと大幅に減少しました。その後も回復を見せつつあるものの、2023年までを通じて生産量は6,000~7,000トン台で推移しています。この変動は、例えば2007年の減少では農業労働人口の減少や、家畜育成環境における気候変動の影響が考えられます。また2010年代にはオーストリア国内でビーガン・ベジタリアンの消費スタイルが注目されたことで、肉類全般の消費が緩やかに変わる中で羊肉の需要にも変化が見られました。
さらに、新型コロナウイルス感染症の拡大による供給チェーンの混乱も近年の生産量変動に影響を与えました。特に2020年の6,550トンという数値は、前後の年と比較して減少していますが、これはパンデミックが消費と物流の両面に制約を与えた結果と考えられます。
今後の課題として挙げられるのは、環境負荷を抑えながら持続可能な食肉生産を達成するための施策の導入です。羊肉生産は、草地管理や炭素隔離といった点で持続可能な農業生産と高い親和性を持っています。しかし、気温の上昇や干ばつリスクが農業従事者に与える負担も無視できません。オーストリアは地政学的にリスクが比較的低い位置にありますが、近年のヨーロッパ全体の気候変動の影響から完全に免れることはできません。
具体的な対策として、高付加価値商品の開発を通じて国内生産の利益率を向上させること、また輸出先の多様化を含むマーケティング戦略の強化が推奨されます。たとえば、近隣のドイツやフランスといった消費規模の大きな市場に向けて、厳しい環境基準を満たすプレミアム品質の羊肉を積極的に売り込むことが挙げられます。さらに、国内の農業従事者に対して技術支援を行うプログラムの充実や、気候変動への適応技術の普及も重要なポイントです。
結論として、オーストリアの羊肉生産は長期的には堅調に推移していますが、今後は持続可能性を意識した新たな取り組みや輸出市場の強化が不可欠です。政府や国際機関は、これらの方向性を支えるため、農業政策の再検討や地域間協力の枠組みの構築を進めるとともに、バリューチェーン全体での環境負荷低減に取り組む姿勢が求められます。これにより、オーストリアはヨーロッパにおける高品質羊肉の主要輸出国としての地位をさらに高めることが可能になるでしょう。