国際連合食糧農業機関(FAO)の最新データ(2024年7月更新)によれば、カザフスタンの羊肉生産量は1992年のピークである235,000トンを記録した後、1990年代後半に急激に減少しました。その後、2000年代から徐々に回復を見せ、2022年には155,670トンに達しましたが、2023年には再び約137,061トンと減少しました。この推移は、経済構造の変化、農業政策、消費者需要、自然環境などさまざまな要因が影響しています。
カザフスタンの羊肉生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
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2023年 | 137,061 |
-11.95% ↓
|
2022年 | 155,670 |
0.17% ↑
|
2021年 | 155,403 |
1.62% ↑
|
2020年 | 152,922 |
0.65% ↑
|
2019年 | 151,932 |
0.78% ↑
|
2018年 | 150,763 |
-0.4% ↓
|
2017年 | 151,364 |
1.75% ↑
|
2016年 | 148,761 |
3.21% ↑
|
2015年 | 144,140 |
2.14% ↑
|
2014年 | 141,117 |
4.23% ↑
|
2013年 | 135,389 |
1.81% ↑
|
2012年 | 132,986 |
2.6% ↑
|
2011年 | 129,614 |
5.72% ↑
|
2010年 | 122,601 |
5.52% ↑
|
2009年 | 116,182 |
5.27% ↑
|
2008年 | 110,364 |
5.82% ↑
|
2007年 | 104,295 |
5.83% ↑
|
2006年 | 98,545 |
5.28% ↑
|
2005年 | 93,600 |
3.08% ↑
|
2004年 | 90,800 |
4.37% ↑
|
2003年 | 87,000 |
-7.35% ↓
|
2002年 | 93,900 |
2.4% ↑
|
2001年 | 91,700 |
0.55% ↑
|
2000年 | 91,200 |
-3.7% ↓
|
1999年 | 94,700 |
-17.08% ↓
|
1998年 | 114,200 |
-19.97% ↓
|
1997年 | 142,700 |
-11.91% ↓
|
1996年 | 162,000 |
-19% ↓
|
1995年 | 200,000 |
-18.63% ↓
|
1994年 | 245,800 |
-8.04% ↓
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1993年 | 267,300 |
13.74% ↑
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1992年 | 235,000 | - |
カザフスタンの羊肉生産量は、多くの要因により長期的に変動してきました。1992年の生産量は235,000トンと非常に高い水準でしたが、1990年代中頃から1999年にかけて急激な減少が見られ、最も低い水準である94,700トンを記録しました。この背景には、旧ソビエト連邦の崩壊に伴う経済混乱、農業部門への国家支援の縮小、小規模農家の経済困難などが直接的な原因として挙げられます。同時に、多くの農村地域でインフラ整備の遅れや都市部への人口流出も、羊の飼育頭数と生産量の減少に拍車をかけた要因です。
2000年以降、羊肉生産量は非常に緩やかに回復していく傾向を示し、2007年あたりから顕著な上昇に転じました。これは、新しい農業政策の策定、羊肉輸出の新市場開拓、また国内外の羊肉需要の増加が背景にあると考えられます。特に中国や中東諸国への輸出拡大は、カザフスタンの羊肉産業にとって重要な成長要因となっています。その結果、2022年には約155,670トンに達し、1990年代後半の最も低い時期から約65%の増加となりました。
しかし2023年に入り、生産量は再び減少し、137,061トンを記録しました。この減少の原因として、気候変動に伴う干ばつや飼料不足、2020年以降の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響による物流や労働力の問題が挙げられます。また、農業従事者の高齢化や若年層の都市部移住も、農業経営における大きな課題として浮上しています。
地政学的にもカザフスタンは中央アジアという位置にあり、周辺国の紛争や国際貿易制限が影響を及ぼしやすい地域です。特にロシア・ウクライナ問題の影響により、ロシアとの取引を通じた肥料や飼料輸入のコスト増加、また天然ガス価格の高騰が、生産コストを押し上げた可能性があります。これらの外部要因は、今後も安定した羊肉生産に課題をもたらす要因と考えられます。
カザフスタンの羊肉生産を今後さらに安定させるためには、生産体制の強化が必要です。たとえば、農業従事者への財政的支援や技術研修プログラムの拡充は、小規模農家の生産効率を向上させるために有効です。また、飼料供給の安定を目的とした旱魃対策など、気候変動に対応できる農業手法の導入も急務です。さらに、輸出市場の多様化を図り、羊肉産業が特定の国への依存を避けられるよう、政府主導で貿易協定を結ぶことが求められます。
また、データの示す通り長期的な人口移動は農業への深刻な影響を与えています。若い世代を農業に取り込むためには、農村部での医療や教育、インフラの整備を進め、居住環境を改善することが鍵となります。他国の例を参考にするならば、ドイツのように農家の集約化や規模拡大、あるいは日本が進めた農村部のIT化のような取り組みも有益かもしれません。
カザフスタンの羊肉産業は、国内における重要なタンパク源の供給だけでなく、国際市場でもカザフスタンの競争力を示す重要な象徴となっています。データが指し示す傾向を踏まえ、持続可能な農業政策を通じて、地域経済の活性化および国際市場での地位向上を目指すことが重要であると言えるでしょう。