国際連合食糧農業機関(FAO)が2024年7月に発表したデータによると、エリトリアの羊肉生産量は1993年の4,800トンから、2023年には6,721トンへと増加しました。この30年間を通じて、生産量はおおむね上昇傾向を示しており、特に1998年や2003年には顕著な増加がありました。しかし、直近の数年間では生産量の伸びが鈍化している傾向が見られます。この推移は、エリトリアの食糧事情や畜産業の発展状況を理解する上で重要な指標となります。
エリトリアの羊肉生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
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2023年 | 6,721 |
-0.26% ↓
|
2022年 | 6,739 |
0.04% ↑
|
2021年 | 6,736 |
0.05% ↑
|
2020年 | 6,733 |
-0.76% ↓
|
2019年 | 6,785 |
1.4% ↑
|
2018年 | 6,691 |
0.95% ↑
|
2017年 | 6,627 |
1.03% ↑
|
2016年 | 6,560 |
1.2% ↑
|
2015年 | 6,482 |
1.04% ↑
|
2014年 | 6,416 |
-1.3% ↓
|
2013年 | 6,500 | - |
2012年 | 6,500 |
1.09% ↑
|
2011年 | 6,430 |
0.47% ↑
|
2010年 | 6,400 |
0.16% ↑
|
2009年 | 6,390 |
-5.26% ↓
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2008年 | 6,745 |
0.6% ↑
|
2007年 | 6,705 |
3.31% ↑
|
2006年 | 6,490 |
-0.15% ↓
|
2005年 | 6,500 | - |
2004年 | 6,500 |
-4.41% ↓
|
2003年 | 6,800 |
11.48% ↑
|
2002年 | 6,100 |
-4.39% ↓
|
2001年 | 6,380 | - |
2000年 | 6,380 |
11.93% ↑
|
1999年 | 5,700 |
-5% ↓
|
1998年 | 6,000 |
13.85% ↑
|
1997年 | 5,270 |
0.57% ↑
|
1996年 | 5,240 |
0.77% ↑
|
1995年 | 5,200 |
0.58% ↑
|
1994年 | 5,170 |
7.71% ↑
|
1993年 | 4,800 | - |
エリトリアの羊肉生産量は、1993年から2023年にかけて増加傾向を示しています。1993年の4,800トンに対し、1998年には大幅に跳ね上がり6,000トンに達し、2000年には6,380トン前後の水準に安定しました。その後、年間ごとの変動は見られるものの、2010年代後半からは緩やかな拡大傾向が続いています。ただし、2020年代に入ると年ごとの増加幅は縮小し、2023年では6,721トンとやや減少しています。この全体の推移には、複数の背景要因が関与しています。
エリトリアは主に農牧業を中心とした経済基盤を持つ国であり、羊の飼育は国内の重要な産業の一つです。羊肉は国内消費だけでなく、近隣国への輸出でも需要が高く、食料安全保障や経済活動を支える柱といえます。しかし、エリトリアは乾燥した気候と限られた農業資源に直面しており、家畜飼育に必要な餌や水資源の確保が一貫した課題とされています。2000年代初頭の生産量の伸びは、新技術や品種改良の導入が進んだこと、さらに政府や国際機関による支援が一部役立ったとの考えが示されています。しかし、2010年以降の微増傾向は、気候変動の影響を受け、深刻化する干ばつや土地の荒廃による生産コストの増加が抑制要因になっていると見られます。
このデータを他国と比較すると、エリトリアの羊肉生産量は日本や韓国のような羊肉需要の限られた国に比べて遥かに多い一方で、中国やインド、オーストラリアといった羊肉大国とは大きな差があります。エリトリアの生産量が一貫して伸び悩んでいることは、国内資源の利用効率が十分に向上していないこと、並びに食肉加工や冷蔵保存といった供給ネットワークの整備が不十分であることも原因と考えられます。現在の生産量は地元需要を辛うじて支えるものの、輸出市場開拓をさらに進めて競争力を高めるには、インフラや技術開発へのさらなる投資が求められます。
エリトリアの属する紅海沿岸地域では、地政学的なリスクも羊肉生産の安定に影響を与えています。一部隣国との緊張状態や政治的な不安定さは、畜産業を含む輸送・物流への影響を引き起こし得ます。また、国全体が気候変動の影響を受けやすい地理的位置にあるため、今後の生産力維持において気候適応型の農業や牧畜技術の導入が一層重要になります。
将来的には、エリトリア政府や国際機関による支援の下、以下のような具体的な対策が提案できます。一つ目に、乾燥耐性のある牧草品種の導入や、効率的な給水技術の普及など、現地環境に適応した畜産基盤の改善が挙げられます。二つ目に、輸出向けの羊肉加工施設や冷蔵物流網の整備を通じて、輸送時の品質保持と輸出市場の拡大を目指すべきです。三つ目に、地域間協力の枠組みを強化し、隣接国との経済・農業協力を促進して地政学的リスクの影響を軽減すべきです。さらに、畜産業に関する教育・訓練プログラムを拡充して、現地農民や生産者自身の能力向上を図ることも不可欠です。
データの推移を踏まえると、エリトリアの羊肉生産は成長傾向にあるものの、環境制約やインフラ未整備による課題が解決されない限り、持続的な拡大は難しいと言えます。国際社会がエリトリアの独特な地政学的・経済的条件に目を向けた支援策を講じることが、生産量拡大と地域の安定化に寄与すると考えます。