国際連合食糧農業機関(FAO)が発表した最新データによると、1961年から2023年にかけて、チリの羊肉生産量は大きな変動を見せています。1960年代後半には年間26,000トンを超える時期がありましたが、その後減少に転じ、直近の2023年には8,221トンと、過去のピーク時に比べ約3分の1まで縮小しています。このデータはチリの農業政策や経済的要因、気候変動などさまざまな要因と関連しており、今後の政策設計に重要な示唆を含んでいます。
チリの羊肉生産量推移(1961年~2023年)
| 年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
|---|---|---|
| 2023年 | 8,221 |
-1.56% ↓
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| 2022年 | 8,351 |
1.72% ↑
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| 2021年 | 8,210 |
-8.78% ↓
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| 2020年 | 9,000 |
2.52% ↑
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| 2019年 | 8,779 |
-10.21% ↓
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| 2018年 | 9,778 |
10.65% ↑
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| 2017年 | 8,836 |
6.91% ↑
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| 2016年 | 8,265 |
-8.74% ↓
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| 2015年 | 9,056 |
-9.75% ↓
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| 2014年 | 10,034 |
11.7% ↑
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| 2013年 | 8,983 |
-6.54% ↓
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| 2012年 | 9,612 |
-13.99% ↓
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| 2011年 | 11,176 |
5.98% ↑
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| 2010年 | 10,545 |
-1.43% ↓
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| 2009年 | 10,698 |
-3.1% ↓
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| 2008年 | 11,040 |
7.07% ↑
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| 2007年 | 10,311 |
-7.36% ↓
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| 2006年 | 11,130 |
20.62% ↑
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| 2005年 | 9,227 |
-3.27% ↓
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| 2004年 | 9,539 |
-0.89% ↓
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| 2003年 | 9,625 |
-2.35% ↓
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| 2002年 | 9,857 |
-9.44% ↓
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| 2001年 | 10,884 |
-2.31% ↓
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| 2000年 | 11,141 |
-12.64% ↓
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| 1999年 | 12,753 |
12.51% ↑
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| 1998年 | 11,335 |
15.53% ↑
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| 1997年 | 9,811 |
11.64% ↑
|
| 1996年 | 8,788 |
-14.09% ↓
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| 1995年 | 10,229 |
-16.02% ↓
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| 1994年 | 12,180 |
-8.91% ↓
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| 1993年 | 13,372 |
3.87% ↑
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| 1992年 | 12,874 |
-4.29% ↓
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| 1991年 | 13,451 |
-9.6% ↓
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| 1990年 | 14,880 |
14.52% ↑
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| 1989年 | 12,993 |
-7.61% ↓
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| 1988年 | 14,063 |
-2.73% ↓
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| 1987年 | 14,458 |
10.16% ↑
|
| 1986年 | 13,124 |
-2.53% ↓
|
| 1985年 | 13,465 |
13.27% ↑
|
| 1984年 | 11,888 |
-10.66% ↓
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| 1983年 | 13,307 |
-10.55% ↓
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| 1982年 | 14,876 |
-4.64% ↓
|
| 1981年 | 15,600 |
0.92% ↑
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| 1980年 | 15,458 |
-12.53% ↓
|
| 1979年 | 17,673 |
15.46% ↑
|
| 1978年 | 15,307 |
-5.86% ↓
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| 1977年 | 16,260 |
0.41% ↑
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| 1976年 | 16,193 |
-10.46% ↓
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| 1975年 | 18,085 |
11.95% ↑
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| 1974年 | 16,155 |
31.22% ↑
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| 1973年 | 12,311 |
-23.57% ↓
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| 1972年 | 16,108 |
-35.21% ↓
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| 1971年 | 24,862 |
11.11% ↑
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| 1970年 | 22,377 |
-14.36% ↓
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| 1969年 | 26,130 |
-1.68% ↓
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| 1968年 | 26,576 |
18.82% ↑
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| 1967年 | 22,367 |
12.09% ↑
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| 1966年 | 19,955 |
-2.11% ↓
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| 1965年 | 20,385 |
20.46% ↑
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| 1964年 | 16,923 |
-19.59% ↓
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| 1963年 | 21,045 |
3.99% ↑
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| 1962年 | 20,238 |
-4.76% ↓
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| 1961年 | 21,249 | - |
チリの羊肉生産量の推移を見ると、まず1960年代後半から1970年代初頭にかけて20,000~26,000トンと比較的高い水準を維持していました。しかし、その後は減少が始まり、1980年代には15,000トン前後、1990年代後半以降は10,000トンを下回る年も増えています。そして、2023年には8,221トンという低水準に留まりました。この長期的な減少傾向の背景にはいくつかの要因が考えられます。
一つ目は、チリ国内の畜産業の競争環境です。チリでは牛や豚など他の肉の需要が相対的に増加しており、羊肉は次第に生産の優先順位が低くなった可能性があります。また、輸入牛肉や豚肉が国内市場に入り込むことで競争が激化し、生産コストが比較的高い羊肉の国内生産が停滞したことが推測されます。
二つ目の要因は、国内の気候や土地利用の変化です。羊飼育に適した土地が他の用途に転用されたり、気候変動の影響で牧草地が減少したりした可能性があります。チリは南北に長く、多様な地理的条件を持ちますが、特に人口が集中する中央部では都市化が進み、農村地帯での活動が減ったことが影響しているかもしれません。
三つ目は、国際的な羊肉市場の影響です。オーストラリアやニュージーランドは世界的な羊肉生産と輸出において有名であり、これらの国々と比べると、チリのような中規模生産国はコストや品質面で競争力を維持するのが難しい状況にあります。輸出競争力が低いため、国内生産量が内需に依存し、さらに縮小を招く結果となったようです。
未来の課題としては、生産の安定性を回復するための基盤整備が挙げられます。具体的には、政府が持続可能な畜産業の支援策を強化する必要があります。例えば、羊の飼育を環境に優しい形で含むアグロエコロジーの導入を促進することや、地元の生産者を保護するための市場政策が有効です。また、羊肉の品質向上やブランド作りを通じて国内外の需要を喚起し、輸出市場への参入障壁を低減する施策も考えられます。
加えて、地政学的なリスクや気候変動の影響も懸念されます。チリは地震多発国であり、そのたびに農業と畜産業に甚大な影響を受けます。また、干ばつや洪水といった異常気象が牧草地の衰退を加速させ、生産基盤を揺るがしています。これらのために、気候変動への適応策の開発、例えば耐干ばつ性のある牧草の栽培や、水資源の効率的利用を含む持続可能な畜産運営の推進が重要です。
さらに、羊肉需要の地域的な取り組みも見直されるべきです。例えば、日本や韓国は輸入羊肉市場の成長が著しい国であり、これらのアジア市場へのアクセス強化がチリの羊肉生産復興のカギを握る可能性があります。地元生産を促進する輸出指向の政策と、消費者へのプロモーションを組み合わせることで、新たな市場開拓が期待されます。
結論として、チリの羊肉生産は過去60年以上にわたり、栄枯盛衰を経験しました。現状の低水準から脱するには、地元農業の基盤強化、気候対応策の導入、新しい市場開拓という三本柱が重要です。国や国際機関が協力してこうした施策を進めることで、持続可能な畜産業の未来が切り開かれるでしょう。