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ブルガリアの羊肉生産量推移(1961年~2023年)

国際連合食糧農業機関が提供する最新データによると、ブルガリアの羊肉生産量は、1960年代から1980年代にかけてピークに達し、最も高い生産量を記録した1985年には88,908トンに達しました。しかし1990年代初頭から生産量は急激に減少し、2000年代には減少がさらに顕著になっています。2023年の生産量は8,110トンで、ピーク時と比較して約1割未満にまで落ち込みました。この減少傾向には、経済的、政策的要因、および地政学的背景が複雑に絡み合っていると考えられます。

年度 生産量(トン) 増減率
2023年 8,110
15.2% ↑
2022年 7,040
-18.99% ↓
2021年 8,690
34.73% ↑
2020年 6,450
-16.12% ↓
2019年 7,690
10.33% ↑
2018年 6,970
-21.49% ↓
2017年 8,878
-9.39% ↓
2016年 9,798
-1.1% ↓
2015年 9,907
-7.22% ↓
2014年 10,678
0.75% ↑
2013年 10,599
-23.17% ↓
2012年 13,796
16.81% ↑
2011年 11,811
-11.33% ↓
2010年 13,320
0.23% ↑
2009年 13,289
-15.72% ↓
2008年 15,768
2.14% ↑
2007年 15,437
-15.11% ↓
2006年 18,185
2.57% ↑
2005年 17,729
24.34% ↑
2004年 14,259
12.67% ↑
2003年 12,656
-11.39% ↓
2002年 14,283
-5.52% ↓
2001年 15,117
-70.53% ↓
2000年 51,300
2.6% ↑
1999年 50,000
9.41% ↑
1998年 45,700
2.81% ↑
1997年 44,449
-8.93% ↓
1996年 48,808
22.34% ↑
1995年 39,895
-1.03% ↓
1994年 40,310
-21.32% ↓
1993年 51,235
-8.6% ↓
1992年 56,056
-19.51% ↓
1991年 69,643
15.7% ↑
1990年 60,193
-10.07% ↓
1989年 66,933
2.41% ↑
1988年 65,358
-11.89% ↓
1987年 74,179
-10.92% ↓
1986年 83,274
-6.34% ↓
1985年 88,908
12.46% ↑
1984年 79,056
7.19% ↑
1983年 73,756
2.08% ↑
1982年 72,253
5.24% ↑
1981年 68,653
13.63% ↑
1980年 60,416
2.27% ↑
1979年 59,074
-5.85% ↓
1978年 62,746
2.96% ↑
1977年 60,940
-16.4% ↓
1976年 72,891
12.02% ↑
1975年 65,069
-16.1% ↓
1974年 77,558
5.63% ↑
1973年 73,424
1.05% ↑
1972年 72,658
-1.11% ↓
1971年 73,472
9.61% ↑
1970年 67,033
-7.41% ↓
1969年 72,395
0.26% ↑
1968年 72,206
1.94% ↑
1967年 70,834
4.21% ↑
1966年 67,970
8.69% ↑
1965年 62,538
0.88% ↑
1964年 61,991
17.16% ↑
1963年 52,913
-6.08% ↓
1962年 56,339
20.23% ↑
1961年 46,858 -

ブルガリアの羊肉生産量は、1960年代から1980年代にかけて右肩上がりに増加し、1985年の88,908トンで最盛期を迎えました。この時期は、冷戦期における東欧諸国の農業政策として、集団農場(コルホーズ)や国営農場による集中管理が推進されていた背景があります。大量生産を重視する政策のもとで、安定して羊肉の生産が行われました。しかし、1989年の東欧革命とそれに伴う社会主義体制の崩壊後、ブルガリアを含む多くの東欧諸国では、農業構造の大幅な変革が起こり、農業生産能力が低下しました。また、資本主義への移行に伴い、国際競争力の低下や畜産業における小規模化、投入資源の不足が問題として浮かび上がりました。

1990年代以降、ブルガリアの羊肉生産量は急激な低下を示しており、1994年には40,310トンまで減少しています。その後も減少基調は続き、2001年には15,117トンと、1985年のピークの約6分の1にまで落ち込みました。この背景には、国内需要の低迷に加え、貿易の自由化により安価な輸入肉が市場に流入したことが挙げられます。また、都市化の進行により農村部の人口減少が進み、労働力不足や牧畜に従事する若年層の不足も深刻な問題です。このような状況に合わせて、農地や放牧地が放置されるケースが増加した点も生産の減少要因といえるでしょう。

さらに、2000年代以降、羊肉生産量の低迷が持続していますが、この間にはEU加盟(2007年)による規制強化が影響を与えています。EUの食品安全基準への適合が義務づけられ、小規模農家が市場から撤退する事例が相次ぎました。これにより特に地方部の牧畜業は大きな打撃を受けたといえます。2023年の生産量は8,110トンとやや回復の兆しが見られますが、依然として低水準に留まっています。

ブルガリアの羊肉産業を取り巻く課題は多岐にわたりますが、食品安全基準の順守、施設設備の近代化、十分な投資の確保、そして若年労働力の確保が重要なポイントです。また、気候変動が地域の農業に与える影響も無視できません。ブルガリアにおける干ばつや気温上昇が草地の品質低下を招き、羊の飼育環境に悪影響を及ぼしている可能性があります。

この現状を打開する具体的提案としては、EUからの地域支援金を活用し、生産設備の改善と環境に優しい牧畜業の推進を行うことが必要です。一例として、放牧地の再整備や効率化技術を用いた飼育システムの導入が考えられます。また、地元産品としての羊肉のブランド価値を高め、国内外での需要を喚起するキャンペーンを展開することも効果的です。都市部と農村部を結びつける新たな物流システムの構築も、生産者の利益向上に寄与する可能性があります。さらに、教育・職業訓練の場を提供し、若者が牧畜業に従事する魅力を感じられる仕組みを作ることが急務でしょう。

結論として、ブルガリアの羊肉生産能力を回復し、持続可能な基盤を構築するためには、政策的介入と民間主導の取り組みを組み合わせた包括的な戦略が求められます。再び羊肉生産を振興産業の一つとして位置づけるためには、地域経済全般の強化や国際市場でのブランド化にも目を向ける必要があります。