Skip to main content

ウクライナの羊飼養数推移(1961-2022)

FAO(国際連合食糧農業機関)が発表した2024年7月の最新データによれば、1992年においてウクライナ国内の羊の飼養数は7,259,100匹と非常に高い数値で推移していました。しかし、その後急激に減少し、2001年以降は100万匹以下で横ばいの状況が続くようになりました。2022年時点では607,100匹まで減少し、30年間でおよそ92%もの大幅な減少率を記録しています。この傾向は、ウクライナの農業構造の変化や社会経済的な要因、また地政学的リスクなどが影響していると考えられます。

年度 飼養数(匹)
2022年 607,100
2021年 621,000
2020年 658,800
2019年 698,500
2018年 727,200
2017年 718,900
2016年 743,900
2015年 785,800
2014年 859,400
2013年 1,073,400
2012年 1,093,200
2011年 1,100,500
2010年 1,197,000
2009年 1,095,700
2008年 1,033,800
2007年 924,700
2006年 872,200
2005年 875,200
2004年 893,400
2003年 950,100
2002年 967,100
2001年 963,100
2000年 1,059,500
1999年 1,198,400
1998年 1,539,600
1997年 2,193,200
1996年 3,209,300
1995年 4,792,300
1994年 6,117,900
1993年 6,596,500
1992年 7,259,100

ウクライナはかつて、豊富な農業資源と広大な牧草地を生かした畜産業が重要な収入源となっていました。その中でも羊の飼養は、ウールや肉の需要の高まりとともに、特に1980年代から1990年代にかけて国内および周辺国での市場を支える中心的な役割を果たしていました。しかし、1992年を頂点に羊飼養数は急激に減少し、2022年には約607,100匹にまで落ち込みました。30年間で約92%もの減少となった理由として、以下の背景が挙げられます。

まず、ソビエト連邦の崩壊後、ウクライナは市場経済の移行とともに農業政策を大幅に見直しました。この過程で国家による集団的な畜産支援が終了し、個人農家や小規模経営体が中心となったことが羊飼養数の減少に影響を及ぼしました。特に羊の飼養は効率より労力がかかるため、多くの農家が利益率の高い作物や他の家畜へ転換したとも推測されます。また、ウールの国際市場価格の低迷や合成繊維の台頭により、ウクライナ産羊毛の需要が減少したことも見逃せません。このように、経済的要因が大きな圧力をかけました。

さらに、地政学的リスクも羊飼養数に大きく影響を与えたと考えられます。近年のクリミアの併合や東部地域の紛争、そして2022年のロシアによる大規模侵攻は、ウクライナ国内の農業・畜産業に壊滅的な影響を及ぼしました。飼養地が戦闘地域に含まれることも増え、安全保障上の理由から羊飼養が困難になった地域も存在します。戦争によるインフラの損壊や飼料供給の途絶、農業労働力の流出なども羊の飼養環境をさらに厳しくした要因でしょう。

健康や環境に関する課題も無視できません。家畜からの温室効果ガス排出に対する国際的な規制強化もあり、羊の飼養が広範囲で見直されています。ただし、比較対象となる他国を見ると、たとえば羊飼養が盛んなニュージーランドやオーストラリアでは、適切な政策を通じて環境負荷を軽減しながら産業を維持しています。この点で、ウクライナも新しい持続可能なモデルの導入を検討する必要があります。

この著しい減少をふまえ、ウクライナにおいて羊飼養数の回復や維持を目指すためには、多角的な対応策が必要です。一つは国際市場での競争力強化を図るための技術革新と支援モデルの整備です。近代的な羊毛加工施設の導入や高品質肉のブランド化を支援する政策が求められます。また、小規模農家を対象に羊の育種技術やアグリビジネスの研修を提供し、低コストで効率的に飼養できる環境を整えることも重要です。

もう一つは地政学的な安定化の回復です。現在の紛争終了後には、農業インフラの復旧だけでなく、戦闘地域での畜産復興計画を早期に策定し、地域間の協力体制を強化することが重要となります。例えば、加盟国間で協力を促進するEUや国際連合の農業プログラムを活用し、専門技術サポートの提供を求めることが挙げられます。

結論として、ウクライナの羊飼養数の大幅な減少は、経済、環境、地政学といった複数の要因が複雑に絡み合った結果であり、単一の解決策では対応しきれません。ただし、他国の成功事例を参考にしつつ、戦争復興の動きと環境保全を両立させる新しい農業支援政策を打ち出すことで、この分野における未来を切り拓くことが可能です。それには、多国間協力を強化し長期的な視点で計画を練ることが求められるでしょう。