国際連合食糧農業機関(FAO)が2024年7月に更新したデータによると、スペインの羊飼養数は1961年の22,622,192匹をピークとして、近年では減少傾向にあります。2022年には14,452,590匹と、1961年から約36%の減少を記録しています。一方で1980年代から1990年代前半には一時的に増加する時期が見られ、最も多かった1992年には24,625,000匹に達していました。しかし、2008年以降は急速な減少傾向にあり、2020年代には1,500万匹程度の水準に収まっています。
スペインの羊飼養数推移(1961-2022)
年度 | 飼養数(匹) |
---|---|
2022年 | 14,452,590 |
2021年 | 15,081,350 |
2020年 | 15,439,220 |
2019年 | 15,478,620 |
2018年 | 15,852,530 |
2017年 | 15,963,106 |
2016年 | 15,962,892 |
2015年 | 16,522,956 |
2014年 | 15,431,800 |
2013年 | 16,118,590 |
2012年 | 16,339,370 |
2011年 | 17,002,700 |
2010年 | 18,551,600 |
2009年 | 19,718,200 |
2008年 | 19,952,300 |
2007年 | 22,194,256 |
2006年 | 22,451,628 |
2005年 | 22,749,484 |
2004年 | 22,909,668 |
2003年 | 23,485,948 |
2002年 | 23,813,172 |
2001年 | 24,400,000 |
2000年 | 23,965,000 |
1999年 | 24,190,000 |
1998年 | 24,857,000 |
1997年 | 23,982,000 |
1996年 | 21,323,000 |
1995年 | 23,058,000 |
1994年 | 23,872,000 |
1993年 | 24,615,000 |
1992年 | 24,625,000 |
1991年 | 24,037,000 |
1990年 | 22,739,000 |
1989年 | 23,064,000 |
1988年 | 22,994,000 |
1987年 | 17,641,000 |
1986年 | 17,894,000 |
1985年 | 17,520,000 |
1984年 | 17,554,000 |
1983年 | 17,464,000 |
1982年 | 17,130,000 |
1981年 | 14,887,000 |
1980年 | 14,547,000 |
1979年 | 14,728,000 |
1978年 | 15,403,000 |
1977年 | 15,590,000 |
1976年 | 15,745,396 |
1975年 | 16,257,324 |
1974年 | 16,306,349 |
1973年 | 17,190,528 |
1972年 | 17,862,496 |
1971年 | 18,443,008 |
1970年 | 18,729,280 |
1969年 | 18,962,272 |
1968年 | 18,642,000 |
1967年 | 18,716,384 |
1966年 | 18,785,008 |
1965年 | 20,327,008 |
1964年 | 19,868,128 |
1963年 | 20,098,864 |
1962年 | 21,360,000 |
1961年 | 22,622,192 |
スペインは伝統的に欧州でも有数の羊飼育国であり、羊は食肉や乳製品、羊毛といった重要資源の供給源として国内外で広く利用されています。今回提示された1961年から2022年にかけてのデータは、羊飼養数の長期的な変化を示しており、その背景には地政学的、経済的、社会的な要因が絡んでいると考えられます。
1961年から1970年代前半にかけて、羊飼養数は一貫して減少しています。この時期の減少は、スペインの農業の工業化の進展や、より収益性の高い作物や家畜への移行が影響したと考えられます。都市部への人口移動が進む中で農村部の労働力が減少し、羊飼育に従事する人々も減少していきました。また、欧州全体ではこの頃、羊毛の需要が徐々に減少しはじめていたことも背景にあります。
1980年代から1990年代前半にかけては、一時的に羊飼養数が回復する傾向が見られます。この増加は、農業政策や食肉産業の拡大、輸出市場の需要増加が影響した可能性があります。特に1992年には24,625,000匹と過去の最高数値を記録しています。しかし1990年代後半から再び減少が始まり、この傾向は2008年以降、特に顕著になります。
2008年以降の急激な減少は、世界金融危機の影響を受けたものと推測されます。この経済的混乱により、多くの畜産農家が運営コストの上昇や市場価格の下落に直面しました。また、気候変動による牧草地の減少や水資源の確保問題も、飼養数の減少に寄与していると考えられます。近年では、羊肉や羊乳製品の消費傾向が変化しており、特に若い世代の間では他の代替タンパク質の消費が増えていることも一因と見られます。さらに、農畜産業における労働力不足と、継続的な農村人口の減少も重要な要因の一つです。
これらの状況から、スペインの羊飼育業は今後いくつかの課題に直面すると予想されます。第一に、伝統的な農村コミュニティが減少する一方で、持続可能な羊飼育のための支援や技術の普及が進む必要があります。たとえば、牧草地の適正な管理や水資源の効率的利用を促進する新技術の採用が求められます。また、特に若者向けに羊肉や乳製品の価値を見直し、新しいマーケティングやプロモーションを展開することも重要です。
さらに、気候変動に対応するためには長期的な農業政策が必要不可欠です。その一環として、農家への補助金や助成策の充実が考えられます。例えば、ヨーロッパの他国で採用されているように、地域間の協力を促す枠組みや、家畜管理の国際的なベストプラクティスの導入などが挙げられます。農村部での雇用を生むため、観光業や文化活動を畜産業と連動させる創造的な取り組みも検討すべきポイントです。
地政学的リスクや国際市場動向も無視できない要素です。スペインは輸出市場としてのEU加盟国との関係を維持しつつ、新興経済国(ブラジルや中国など)との羊製品取引を拡大することが有望です。羊肉や乳製品の輸出は、スペインの経済における地域経済の復興にも寄与する可能性を秘めています。
結論として、スペインの羊飼養数の減少は複数の要因が重なった結果であり、今後の持続可能な対策には経済、環境、社会の観点を同時に考慮する必要があります。食品需要の多様化に応じて新しい市場を開拓しつつ、農村地域支援の強化と環境対応型の生産モデルを育成することが鍵となるでしょう。この取り組みを成功させるためには、農業従事者や消費者、政策立案者の間での協力が欠かせません。