国際連合食糧農業機関(FAO)が2024年7月に更新したデータによると、ブータンの羊飼養数は1961年の8,500匹から、1985年には23,000匹に増加しましたが、その後急激に変動を見せました。特に1987年の39,235匹、1989年の48,044匹というピークを迎えた後、下降傾向に転じ、2022年には10,024匹と大幅に減少しました。このような推移は、農業や経済、環境の変化における複合的な要因を反映しています。
ブータンの羊飼養数推移(1961年~2023年)
年度 | 飼養数(匹) | 増減率 |
---|---|---|
2023年 | 9,411 |
-6.12% ↓
|
2022年 | 10,024 |
-6.27% ↓
|
2021年 | 10,694 |
-0.92% ↓
|
2020年 | 10,793 |
-5.87% ↓
|
2019年 | 11,466 |
5.6% ↑
|
2018年 | 10,858 |
3.96% ↑
|
2017年 | 10,444 |
-7.39% ↓
|
2016年 | 11,277 |
-1.17% ↓
|
2015年 | 11,410 |
5.86% ↑
|
2014年 | 10,778 |
8.68% ↑
|
2013年 | 9,917 |
-8.03% ↓
|
2012年 | 10,783 |
-13.45% ↓
|
2011年 | 12,459 |
-1.89% ↓
|
2010年 | 12,699 |
3.28% ↑
|
2009年 | 12,296 |
-6.2% ↓
|
2008年 | 13,109 |
5.59% ↑
|
2007年 | 12,415 |
-17.69% ↓
|
2006年 | 15,084 |
-14.35% ↓
|
2005年 | 17,612 |
-15.34% ↓
|
2004年 | 20,803 |
-15.14% ↓
|
2003年 | 24,515 |
21.97% ↑
|
2002年 | 20,099 |
-9.54% ↓
|
2001年 | 22,219 |
-2.89% ↓
|
2000年 | 22,880 |
-7.89% ↓
|
1999年 | 24,840 |
-22.86% ↓
|
1998年 | 32,200 |
-6.57% ↓
|
1997年 | 34,465 | - |
1996年 | 34,465 |
0.08% ↑
|
1995年 | 34,438 |
8.02% ↑
|
1994年 | 31,882 |
-0.37% ↓
|
1993年 | 32,000 |
-0.38% ↓
|
1992年 | 32,123 |
-15.24% ↓
|
1991年 | 37,900 |
-13.27% ↓
|
1990年 | 43,698 |
-9.05% ↓
|
1989年 | 48,044 |
2.8% ↑
|
1988年 | 46,734 |
19.11% ↑
|
1987年 | 39,235 |
148.32% ↑
|
1986年 | 15,800 |
-31.3% ↓
|
1985年 | 23,000 |
21.05% ↑
|
1984年 | 19,000 |
26.67% ↑
|
1983年 | 15,000 |
15.38% ↑
|
1982年 | 13,000 |
30% ↑
|
1981年 | 10,000 | - |
1980年 | 10,000 |
2.04% ↑
|
1979年 | 9,800 |
1.03% ↑
|
1978年 | 9,700 |
2.11% ↑
|
1977年 | 9,500 | - |
1976年 | 9,500 |
1.06% ↑
|
1975年 | 9,400 | - |
1974年 | 9,400 |
1.08% ↑
|
1973年 | 9,300 | - |
1972年 | 9,300 |
0.54% ↑
|
1971年 | 9,250 |
0.54% ↑
|
1970年 | 9,200 |
1.1% ↑
|
1969年 | 9,100 | - |
1968年 | 9,100 |
0.55% ↑
|
1967年 | 9,050 |
0.56% ↑
|
1966年 | 9,000 | - |
1965年 | 9,000 | - |
1964年 | 9,000 |
2.27% ↑
|
1963年 | 8,800 |
2.33% ↑
|
1962年 | 8,600 |
1.18% ↑
|
1961年 | 8,500 | - |
ブータンの羊飼養数の推移を時系列で見ると、1960年代から1980年代前半にかけて、緩やかに増加しています。この期間は、農村経済が中心で、羊毛や肉、乳製品が重要な資源として活用されていたことが理由の一つと考えられます。1970年以後の増加は、伝統的な放牧業の恩恵を受けた結果とも言えます。しかし、1980年代後半から非常に急激な変動が見られるようになりました。
特に1987年から1989年にかけての急増は異常値とも言えるもので、これが単なる統計上のエラーや記録方法の違いに起因している可能性を考慮する必要があります。1985年の23,000匹から1987年の39,235匹への増加、さらに1989年の48,044匹という数値は、現実的には地元経済や政策の急激な変化、あるいは市場の変動に関連しているかもしれません。一方で、1990年以降は大幅な減少傾向が始まりました。これは急増した羊の過放牧による資源の枯渇、農村部での生活スタイルの変化、さらには気候変動や都市化の進行と関連があると考えられます。
2000年代以降、羊飼養数は10,000匹台前後で推移し、近年では10,000匹をやや下回る数値となっています。この持続的な減少には、ブータンにおける経済構造の変化が影響していると言えます。特に、観光業や水力発電産業の成長によって、農業及び牧畜の重要度が相対的に低下していることが挙げられます。また、若い世代が都市部に移住する動きも影響を与えています。さらに、過去数十年で進行した気候変動により、高地での牧草地の質が低下した可能性もあります。
しかし、羊飼養業が低迷していることは、全体的に課題とされています。ゆっくりとしたが持続的な減少は、畜産部門に依存する農村地域の生活に影響を及ぼします。具体的には、羊毛や乳製品の生産量が落ち込むことで、地元の経済が圧力を受ける可能性が高いです。ブータンのような土地の特殊な地形・気候条件に適応した羊畜産業は、持続可能な生計手段の一環としての可能性を秘めています。
将来的な課題としては、まず農村部での適切な畜産業の支援が必要です。例えば、牧草地の持続可能な管理システムの導入や、羊の健康状態を保つための獣医サービスの拡充が求められます。また、都市化による人口減少に対処するため、現地の文化や伝統に根ざした産業振興政策が必要です。例えば、羊毛を活用した地元特産品や工芸品の制作を支援することで、国内外市場に参入できる可能性があります。
加えて、環境的な対策の一環として、気候変動の影響を緩和するための政策が考慮されるべきです。森林保護や水資源管理に併せた新たな畜産技術の導入が有効と言えます。さらに、地域間での協力や国際機関との連携を通じ、ブータン牧畜業の未来を支える包括的なアプローチが重要です。
結論として、ブータンの羊飼養数は歴史的な変遷を経て現在に至りますが、減少傾向が示す意味は深刻です。この状況を改善するためには、綿密な戦略の実施と地元コミュニティの意識喚起が不可欠です。特に、持続可能性と経済成長を両立させるための実践的な政策が必要不可欠だと考えられます。