Food and Agriculture Organization(国際連合食糧農業機関)が2024年7月に更新した最新データによると、オーストリアの羊飼養数は過去60年間で大きく増減を繰り返してきました。1961年には175,153匹でしたが、それ以降1970年代前半までに減少、その後は安定的に増加傾向に転じ、2022年時点では400,660匹を記録しています。この長期的な変動には農業政策、畜産業の経済的要因、地域的な地政学的影響が複雑に絡んでいると考えられます。
オーストリアの羊飼養数推移(1961-2022)
年度 | 飼養数(匹) |
---|---|
2022年 | 400,660 |
2021年 | 402,350 |
2020年 | 393,760 |
2019年 | 402,660 |
2018年 | 406,340 |
2017年 | 378,381 |
2016年 | 353,710 |
2015年 | 349,087 |
2014年 | 357,440 |
2013年 | 364,645 |
2012年 | 361,183 |
2011年 | 358,415 |
2010年 | 344,709 |
2009年 | 333,181 |
2008年 | 351,329 |
2007年 | 312,375 |
2006年 | 325,728 |
2005年 | 327,163 |
2004年 | 325,495 |
2003年 | 304,364 |
2002年 | 320,467 |
2001年 | 339,238 |
2000年 | 352,277 |
1999年 | 360,812 |
1998年 | 383,655 |
1997年 | 380,861 |
1996年 | 365,250 |
1995年 | 342,144 |
1994年 | 333,835 |
1993年 | 312,041 |
1992年 | 326,083 |
1991年 | 309,312 |
1990年 | 286,870 |
1989年 | 255,623 |
1988年 | 260,595 |
1987年 | 255,708 |
1986年 | 242,947 |
1985年 | 220,159 |
1984年 | 215,775 |
1983年 | 198,971 |
1982年 | 194,390 |
1981年 | 190,819 |
1980年 | 195,413 |
1979年 | 191,933 |
1978年 | 180,998 |
1977年 | 174,323 |
1976年 | 169,486 |
1975年 | 154,271 |
1974年 | 135,718 |
1973年 | 118,777 |
1972年 | 112,134 |
1971年 | 113,192 |
1970年 | 121,191 |
1969年 | 126,346 |
1968年 | 129,570 |
1967年 | 137,711 |
1966年 | 141,951 |
1965年 | 147,339 |
1964年 | 144,764 |
1963年 | 153,253 |
1962年 | 168,771 |
1961年 | 175,153 |
オーストリアの羊飼養数の推移を詳細に分析すると、以下のような特徴が見られます。1960年代、初期段階では飼養数が縮小傾向にあり、1970年代の初めに底を打ちました。この時期には、第二次世界大戦後の農村部の過疎化や経済の工業化の進展、他の畜産品(例えば牛乳や豚肉)への需要の増大が背景にあったと考えられます。しかし、1974年以降、急激に飼養数が増加する傾向が見られ、この増加は1980年代後半から1990年代半ばにかけて加速しました。
特に1990年代以降の増加については、EU加盟による農業補助金政策の影響が考えられます。この時期、EU共通農業政策(CAP)の一環として、エコロジカルな農業または小規模農業の維持を目的とした支援が実施されました。この政策が羊を含む家畜飼育の継続に寄与したと推測されます。
2000年代以降になると、再び飼養数の増減が目立ちます。ここで重要なのは、地政学的影響や疫病、気候変動の影響です。例えば、2001年のBSE(牛海綿状脳症)危機により、消費者の間で羊肉などの代替畜産品に注目が集まり、飼養数が一時的に増加しました。しかし、その後、エコロジカルな農業への規制や、家畜飼育に関連した環境負荷の議論が再び現れ、安定的な増加は見られなくなっています。
2018年以降、大きく増加し、406,340匹と過去半世紀で最も高い飼養数を記録したのは特筆すべき点です。この背景には地元消費の促進や観光セクターにおける伝統的な農業への関心が高まったことが一因だと考えられます。しかし、新型コロナウイルス感染症の世界的な広がりが影響を与え、生産チェーンの混乱や消費構造の変化が2020年以降の減少傾向を部分的に説明することができます。
さらに注意すべきなのは、気候変動の影響です。オーストリアの中山間地域は羊牧畜に適しているものの、近年の異常気象は牧草地の質や水資源に影響を与える可能性が議論されています。また、地域衝突や国際的な物流問題も羊飼養産業に長期的な影響を与えうる要因として挙げられるでしょう。
将来的な課題としては、農業と環境規制、消費者需要の変動、気候変動に対処しながら、持続可能な形で羊飼養を維持する必要があります。具体的な政策提言として、小規模農業への経済的支援を拡充することが重要です。また、地域間およびEU内での協力による新たな物流体制の構築や牧草地の保護に向けた取り組みが必須です。さらに、地域ブランド化や観光産業を活用したプロモーション活動も、羊飼養の価値向上に寄与する可能性を秘めています。
総じて、オーストリアの羊飼養数の推移は経済、政策、環境、地政学的要因が混在する複雑な現象といえます。こうした多様な要因を考慮しつつ、持続可能な農業と地域経済の発展を図ることが今後の鍵となるでしょう。