Food and Agriculture Organization(国際連合食糧農業機関)の最新データによると、オーストラリアの羊の飼養数は1960年代に急激な増加を遂げ、1970年に約1億8,000万匹でピークに達しました。しかしその後は変動が見られ、2000年前後から2020年代にかけては全体的に減少傾向が顕著になっています。2022年の飼養数は約7,020万匹で、このピーク時から半分以下の水準にあります。
オーストラリアの羊飼養数推移(1961-2022)
年度 | 飼養数(匹) |
---|---|
2022年 | 70,234,655 |
2021年 | 68,047,402 |
2020年 | 63,529,366 |
2019年 | 65,755,408 |
2018年 | 70,067,316 |
2017年 | 72,125,334 |
2016年 | 67,543,092 |
2015年 | 70,909,812 |
2014年 | 72,612,000 |
2013年 | 75,547,848 |
2012年 | 74,721,552 |
2011年 | 73,098,760 |
2010年 | 68,085,496 |
2009年 | 72,739,696 |
2008年 | 76,938,000 |
2007年 | 85,711,184 |
2006年 | 91,028,408 |
2005年 | 101,124,888 |
2004年 | 101,287,440 |
2003年 | 99,252,376 |
2002年 | 106,166,000 |
2001年 | 110,900,000 |
2000年 | 118,552,000 |
1999年 | 115,456,000 |
1998年 | 117,491,000 |
1997年 | 120,228,000 |
1996年 | 121,116,064 |
1995年 | 120,862,000 |
1994年 | 132,569,000 |
1993年 | 138,102,064 |
1992年 | 148,202,896 |
1991年 | 163,237,568 |
1990年 | 170,296,576 |
1989年 | 161,603,376 |
1988年 | 152,443,152 |
1987年 | 149,157,136 |
1986年 | 146,776,000 |
1985年 | 149,746,576 |
1984年 | 139,241,584 |
1983年 | 133,236,960 |
1982年 | 137,976,400 |
1981年 | 134,407,248 |
1980年 | 135,984,960 |
1979年 | 134,221,888 |
1978年 | 131,445,392 |
1977年 | 135,360,000 |
1976年 | 148,643,008 |
1975年 | 151,653,216 |
1974年 | 145,175,312 |
1973年 | 140,028,576 |
1972年 | 162,910,384 |
1971年 | 177,792,048 |
1970年 | 180,079,584 |
1969年 | 174,602,400 |
1968年 | 166,912,000 |
1967年 | 164,236,880 |
1966年 | 157,563,168 |
1965年 | 170,621,488 |
1964年 | 164,980,864 |
1963年 | 158,626,288 |
1962年 | 157,712,336 |
1961年 | 152,678,576 |
オーストラリアは長らく世界有数の羊業大国として知られ、羊毛の生産と輸出は国の経済と農業産業を支える重要な柱となってきました。特に1960年代から1970年代にかけて、飼養数は毎年増加し、1970年には約1億8,000万匹に達しました。これは、世界的にも最大規模の羊の生産国としての地位を確立していたことを示しています。この時期の成長は、高騰する羊毛の価格や、広大な放牧地を背景とする持続可能な農業形態によるものでした。
しかし、時代が進むにつれ、いくつかの要因が羊の飼養数に影響を及ぼしました。まず、1980年代初頭からは羊毛価格の国際市場における低迷が産業に打撃を与えました。それによって、多くの農家が羊の飼養から手を引くか、より収益性の高い作物や牛肉の生産に切り替える状況が見られました。さらに、1980年代の干ばつや降水量の低下も羊の飼育を困難にし、生産性の減少を招きました。
1990年代以降、減少傾向は一層顕著となり、特に2000年代初頭に約1億1,000万匹から7,000万匹程度にまで縮小しています。この時期における主な下落の要因は、気候変動に伴う極端な干ばつや水不足が挙げられます。また、国際的な羊肉および羊毛市場の変化も影響しました。一方で、オーストラリア国内における農業労働力の減少や若手の後継者不足も飼養数の減少要因の一つといえるでしょう。加えて、同時期には家畜伝染病への懸念や生物多様性保護の観点から、羊の放牧地利用が制限されたことも影響を与えました。
2010年代に入ると、羊飼養数の安定化が進みましたが、依然として1960~1970年代のピーク時の数字には遠く及びませんでした。一時的に水準が上昇する年もありましたが、長期的には減少が継続しました。この結果、水資源や土地をより効率的に活用する必要性が認識されています。
2020年代においては、新型コロナウイルス感染症の世界的流行による物流の停滞や国際市場の混乱が、羊肉と羊毛の供給チェーンに影響を与えました。ただし、2021年以降は一部の回復が見られ、飼養数も約7,020万匹に持ち直しています。
オーストラリアの将来に向けてはいくつかの課題と提言が考えられます。まず、持続可能な放牧管理が重要です。気候変動や干ばつのリスクに備えるためには、水資源の節約や土地の回復力向上が必要です。また、テクノロジーの活用を通じて、羊産業の効率性向上が期待されます。家畜追跡システムの導入や、畜産データを活用した生産計画の最適化は、その実現に寄与するでしょう。
さらに、国際市場への依存度を減らし、地元消費の拡大を図る取り組みも望まれます。具体的には、地域の食文化に羊肉を取り入れる促進策や、高品質な羊毛製品を国内製造するプロジェクトなどが挙げられます。これにより、国内市場向けにも安定した収益基盤を構築できる可能性があります。
また、労働力不足を解消するには移民政策の見直しや若手農業従事者の育成も急務です。農業教育の強化や、農村部での生活インフラ整備などが、若年世代の参入を促すきっかけになると考えられます。
最終的には、こうした取り組みを通じて羊産業が新しい形で安定し、自然環境との調和や地域経済の活性化を目指して進化することで、オーストラリアの農業全体へのポジティブな影響を与えることができるでしょう。このように、過去から学び、未来に適応することで、羊産業は新たな可能性を切り開くと期待されています。