国際連合食糧農業機関(FAO)が2024年7月に更新した最新データによると、パレスチナ国の羊飼養数は1994年から2022年にかけて一定の推移を見せています。この期間全体での羊の飼養数を見ると、1994年には約52万匹だったものが、2022年には約77万匹に増加しています。一時的な減少傾向を示した時期もありましたが、2010年代後半以降は増加を続けています。特に2000年代初期には急激な増加が見られた一方で、2007年から2009年にかけて顕著な減少傾向が記録されています。
パレスチナ国の羊飼養数推移(1961-2022)
年度 | 飼養数(匹) |
---|---|
2022年 | 777,883 |
2021年 | 771,168 |
2020年 | 768,695 |
2019年 | 764,581 |
2018年 | 761,347 |
2017年 | 756,836 |
2016年 | 750,081 |
2015年 | 739,151 |
2014年 | 728,000 |
2013年 | 730,894 |
2012年 | 736,000 |
2011年 | 732,399 |
2010年 | 567,236 |
2009年 | 610,000 |
2008年 | 688,899 |
2007年 | 744,764 |
2006年 | 793,874 |
2005年 | 803,165 |
2004年 | 811,864 |
2003年 | 828,678 |
2002年 | 758,293 |
2001年 | 615,838 |
2000年 | 566,409 |
1999年 | 504,078 |
1998年 | 537,998 |
1997年 | 504,903 |
1996年 | 634,489 |
1995年 | 445,151 |
1994年 | 521,685 |
パレスチナ国の羊飼養数データは、この地域の食糧安全保障や畜産業の動向、さらに農村経済における重要な位置を占める羊の役割を明らかにする上で貴重な情報を提供しています。1994年から2022年の間で、羊飼養数が大きく減少した1995年や大幅に増加した1996年、そして2000年代初期の急激な増加など、動向にばらつきが見られるのが特徴です。
例えば、1995年には飼養数が44万5151匹と急激に減少しました。これは、第一次オスロ合意に基づく統治移行の時期であり、社会不安や経済的混乱に影響を受けた結果と考えられます。その後、2000年以降に飼養数が大幅に増加し、2003年には82万8678匹に達しました。この増加の背景には、農業や畜産物生産が国内経済を支える主要な産業となり、羊肉や乳製品の需要が伸びたことが挙げられます。しかしながら、2007年から2009年にかけて再び飼養数が減少し、2009年には61万匹にまで減少しました。この時期には、政治的不安定や経済封鎖の影響、さらには旱魃(かんばつ)などの自然災害の影響も指摘されています。
その後、2010年代後半からは徐々に回復傾向を見せました。最新データである2022年には77万7883匹と、過去の最高値に迫る数値が記録されています。この回復傾向には、持続可能な農畜産業の振興政策が影響していると考えられます。農家の技術力向上や飼料供給の安定化、生育環境の整備が寄与している一方で、地域紛争のリスク低下などの外的要因も絡んでいます。
一方で、現在の増加傾向が将来的にも続くとは限りません。羊畜産業は地政学的影響や気候変動の影響を直接受ける分野であるため、今後の産業安定化に向けた課題も残されています。たとえば、牧草地や水資源の確保は緊急の課題です。パレスチナの地理的制約や土地利用政策の影響から、牧畜業の持続可能性を確保するためには、より効率的で環境負荷の少ない飼育技術を導入する必要があります。
特に、急速に進む気候変動は降水パターンを乱し、旱魃のリスクを高めます。そのため、灌漑技術の向上や乾燥地対応型の牧草の開発が地域を支える重要な政策課題となっています。また、羊肉や乳製品の国内外需要が拡大する一方で、価格競争による農家の収益低下も懸念されます。地場産業の競争力を強化し、地域内外の市場アクセスを改善するために、農家への経済的支援や輸出体制の整備といった具体的な対策が求められています。
さらに、地政学的背景を考慮すると、地域紛争の影響が羊飼養数動態に及ぼすリスクは無視できません。仮に新たな衝突が発生した場合、家畜の飼料供給や市場流通が混乱し、再び大幅な減少に直面する可能性があります。そのため、安定した環境を確保するために、周辺地域との経済協力や国際機関を通じた支援の強化が重要となります。
結論として、パレスチナ国の羊飼養数は過去に大きな変動を経験しましたが、現在は回復基調にあります。この動向が持続可能なものとなるためには、農業技術のさらなる向上、気候変動への対応、地政学リスクに備えた政策が不可欠です。国際機関や周辺国と連携し、農畜産業を次世代に向けてより安定的かつ持続可能に発展させる取り組みを強化することが求められています。