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ブルガリアの羊飼養数推移(1961年~2023年)

国際連合食糧農業機関(FAO)が2024年7月に公開した最新データによると、ブルガリアの羊飼養数は背景にある経済・社会変動を反映し、大幅な長期減少トレンドを示しています。1961年の約933万匹というピーク時に比べると、2022年には約110万匹と大幅な減少を記録しています。この変化はヨーロッパ全体の畜産動向やブルガリア国内の農業政策、人口動態の影響を含む複合的な要因によるものです。

年度 飼養数(匹) 増減率
2023年 1,072,770
-2.16% ↓
2022年 1,096,400
-8.6% ↓
2021年 1,199,550
-8.28% ↓
2020年 1,307,770
2.09% ↑
2019年 1,280,980
-5.11% ↓
2018年 1,350,030
-0.74% ↓
2017年 1,360,087
2.12% ↑
2016年 1,331,894
-0.25% ↓
2015年 1,335,283
-2.5% ↓
2014年 1,369,578
0.59% ↑
2013年 1,361,545
-6.4% ↓
2012年 1,454,617
6.33% ↑
2011年 1,367,987
-2.3% ↓
2010年 1,400,252
-5.06% ↓
2009年 1,474,845
-3.38% ↓
2008年 1,526,392
-6.67% ↓
2007年 1,635,410
2.07% ↑
2006年 1,602,255
-5.33% ↓
2005年 1,692,507
5.88% ↑
2004年 1,598,556
-7.51% ↓
2003年 1,728,358
9.99% ↑
2002年 1,571,410
-31.27% ↓
2001年 2,286,400
-10.3% ↓
2000年 2,548,884
-8.11% ↓
1999年 2,773,702
-2.59% ↓
1998年 2,847,529
-5.7% ↓
1997年 3,019,600
-10.74% ↓
1996年 3,383,034
-0.43% ↓
1995年 3,397,610
-9.72% ↓
1994年 3,763,210
-21.83% ↓
1993年 4,814,300
-28.18% ↓
1992年 6,703,372
-15.55% ↓
1991年 7,938,056
-2.36% ↓
1990年 8,130,305
-5.56% ↓
1989年 8,608,988
-3.12% ↓
1988年 8,885,863
-7.08% ↓
1987年 9,563,298
-1.65% ↓
1986年 9,723,731
-7.4% ↓
1985年 10,500,658
-4.35% ↓
1984年 10,978,289
2.02% ↑
1983年 10,761,395
0.33% ↑
1982年 10,725,518
2.81% ↑
1981年 10,432,646
-0.98% ↓
1980年 10,535,673
4.26% ↑
1979年 10,104,847
-0.38% ↓
1978年 10,143,511
4.32% ↑
1977年 9,723,475
-2.9% ↓
1976年 10,014,027
2.27% ↑
1975年 9,791,336
0.27% ↑
1974年 9,765,454
-1.57% ↓
1973年 9,920,943
-2.03% ↓
1972年 10,127,007
4.64% ↑
1971年 9,677,998
4.93% ↑
1970年 9,223,079
-4.44% ↓
1969年 9,651,912
-2.55% ↓
1968年 9,904,864
-0.93% ↓
1967年 9,997,905
-3.05% ↓
1966年 10,312,347
-1.23% ↓
1965年 10,440,291
1.29% ↑
1964年 10,307,555
1.99% ↑
1963年 10,106,558
-0.54% ↓
1962年 10,161,204
8.88% ↑
1961年 9,332,583 -

ブルガリアの羊飼養数の推移は、同国の社会経済的背景や地域的特性を反映しています。1960年代から1980年代中盤にかけて、ブルガリアの羊飼養数は安定した増加傾向を示し、1984年には過去最高の約1097万匹に達しました。これは当時のブルガリアが、農業と畜産業を国の重要な産業の1つとして位置づけていたことと深く関連しています。この時期、農業政策は国有農場での生産に重点を置き、畜産業全体が集約的に管理されていました。

しかし、1989年から1990年代にかけての東欧諸国での政治的・経済的移行期、いわゆる社会主義崩壊は、ブルガリアの牧畜業にも大きな影響を及ぼしました。この過程で国有農場は解体され、畜産業は急速に分散化され、効率が低下しました。この急激な転換期を経て、1990年代初頭には羊飼養数が大幅に減少し、1993年には約480万匹、1995年には約340万匹にまで落ち込みました。

2000年代以降も減少傾向は続きましたが、環境への配慮、EU加盟(2007年)後の規制順守、そして経済的な競争力の欠如などが畜産業全般の制約要因となりました。特に、EU加盟によって課せられた厳格な環境基準や衛生規制は、中小規模の羊飼いが運営を続けるのを困難にしました。さらに、若年層の人口減少や都市部への移動によって、多くの農村地域が労働力不足に陥ったことも羊の飼養数減少の一因と言えます。

2010年代後半以降にはさらに減少が加速しており、特に2022年には約110万匹と、過去最低水準を記録しました。この急激な低下の背景には、経済的な不確実性、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが地域経済に与えた影響などが含まれています。パンデミックにより物流や供給チェーンの問題が発生し、羊肉や羊乳の需要が減少したことが影響しました。また、地球温暖化に伴う気候変動も、放牧環境の悪化や牧草の生産量減少を招くリスク要因となっています。

ブルガリアの羊飼養数減少は同国だけの問題ではなく、ヨーロッパ全体でも類似の傾向が見られます。例えば、比較的大規模な畜産業を有しているドイツやフランスでも、農業従事者の高齢化や都市部への労働力流失が同様の課題を引き起こしています。一方で、国際市場に積極的に進出しているニュージーランドやオーストラリアなどの国々は、高付加価値の製品展開によって競争力を維持しています。このようなグローバル展開や農業技術の導入は、ブルガリアの羊産業にも示唆を与える可能性があります。

ブルガリアの羊飼養数減少には、いくつかの具体的な課題が伴います。まず、伝統的な農村コミュニティが失われるリスクが高く、このことは農村人口の減少と生物多様性の喪失に直結します。また、羊肉や乳製品の輸入依存が増加することにより、国内の農業自給率にも影響を与えかねません。

将来的な対策として、まず若い世代に対する農業教育の強化や、都市部から農村部への移住を促進する政策が挙げられます。さらに、スマート農業技術を活用し、効率的な生産体制を構築することが必要です。例えば、自動給餌装置やリモートモニタリングシステムの導入は、人員不足の解消に寄与するでしょう。また、ブルガリア独自の高品質な羊製品(羊乳チーズや羊毛製品など)をプレミアムブランドとして国際市場に展開することで、農業生産者の収益向上を目指すことができます。

結論として、ブルガリアの羊飼養数の減少は歴史的背景や地政学的要因によって大きく影響されています。今後、この傾向を食い止め、持続可能な牧畜業を再構築するためには、農業技術の導入、国内外市場の戦略的拡大、農村における生活環境の改善といった多岐にわたる対策を実施する必要があります。これにより、農村経済の活性化だけでなく、環境保全や食料自給率の向上といった複数の目標を同時に達成できると考えられます。