FAO(国際連合食糧農業機関)が発表した最新データによると、ブータンのヤギ肉生産量は、過去60年以上にわたり変動を繰り返しながら推移してきました。特に1960年代は70トンに満たない低水準でしたが、1980年代には拡大を見せ、一時200トンを超える生産量を記録しています。2018年には299トンと過去最高を達成し、直近の2023年も231トンと安定した高水準が見られます。一方で、生産量には激しい変動もあり、例えば1987年から1992年にかけて急増と急減がみられたほか、2021年には162トンと急激な低下が観測されました。このような変動の背景には、国内需要の変化、地理的条件、政策の影響など複数の要因が考えられます。
ブータンのヤギ肉生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
---|---|---|
2023年 | 231 |
32.82% ↑
|
2022年 | 174 |
7.4% ↑
|
2021年 | 162 |
-45.36% ↓
|
2020年 | 296 |
5.34% ↑
|
2019年 | 281 |
-6.02% ↓
|
2018年 | 299 |
31.47% ↑
|
2017年 | 227 |
42.14% ↑
|
2016年 | 160 |
-5.88% ↓
|
2015年 | 170 |
-16.52% ↓
|
2014年 | 204 |
16.48% ↑
|
2013年 | 175 |
1.28% ↑
|
2012年 | 173 |
5.84% ↑
|
2011年 | 163 |
3.86% ↑
|
2010年 | 157 |
5.74% ↑
|
2009年 | 149 |
3.13% ↑
|
2008年 | 144 | - |
2007年 | 144 |
3.23% ↑
|
2006年 | 140 |
3.33% ↑
|
2005年 | 135 | - |
2004年 | 135 | - |
2003年 | 135 |
-6.25% ↓
|
2002年 | 144 |
-15.79% ↓
|
2001年 | 171 |
11.76% ↑
|
2000年 | 153 |
-10.53% ↓
|
1999年 | 171 |
-5% ↓
|
1998年 | 180 |
5.26% ↑
|
1997年 | 171 | - |
1996年 | 171 |
5.56% ↑
|
1995年 | 162 |
28.57% ↑
|
1994年 | 126 |
40% ↑
|
1993年 | 90 |
42.86% ↑
|
1992年 | 63 |
-41.67% ↓
|
1991年 | 108 |
-22.58% ↓
|
1990年 | 140 |
3.33% ↑
|
1989年 | 135 |
-6.25% ↓
|
1988年 | 144 |
-11.11% ↓
|
1987年 | 162 |
80% ↑
|
1986年 | 90 |
-23.08% ↓
|
1985年 | 117 |
2.36% ↑
|
1984年 | 114 |
12.39% ↑
|
1983年 | 102 |
20.21% ↑
|
1982年 | 85 |
10.59% ↑
|
1981年 | 77 |
3.03% ↑
|
1980年 | 74 |
1.23% ↑
|
1979年 | 73 |
0.62% ↑
|
1978年 | 73 |
1.25% ↑
|
1977年 | 72 | - |
1976年 | 72 |
0.63% ↑
|
1975年 | 72 |
0.63% ↑
|
1974年 | 71 |
0.64% ↑
|
1973年 | 71 |
0.64% ↑
|
1972年 | 70 | - |
1971年 | 70 |
0.65% ↑
|
1970年 | 70 | - |
1969年 | 70 |
0.65% ↑
|
1968年 | 69 |
-0.65% ↓
|
1967年 | 70 |
0.65% ↑
|
1966年 | 69 |
1.32% ↑
|
1965年 | 68 |
1.33% ↑
|
1964年 | 68 |
-2.6% ↓
|
1963年 | 69 |
2.67% ↑
|
1962年 | 68 | - |
1961年 | 68 | - |
ブータンのヤギ肉生産量を長年にわたって観察すると、1961年の68トンから2023年の231トンへと着実な増加傾向が見られる一方で、急激な変動が随所で発生しています。特に注目すべきは、1980年代から1990年代にかけて見られる大幅な拡大と収縮です。1983年から1987年にかけての急激な上昇は、農村地域での畜産業の発展やヤギ肉が重要なタンパク源として認識され始めたことが要因と考えられます。一方、その直後に1992年に63トンまで生産量が急落した背景には、政策変更や需給のバランスが崩れた可能性がありそうです。
2018年には299トンと過去最高を記録しており、この時期の増加は、国内需要の高まりや国際的な畜産技術の導入が影響したと推察されます。しかしその後の変動には、新型コロナウイルスのパンデミックが生産体制やサプライチェーンの安定性に悪影響を及ぼしたことが含まれていると予測されます。2021年の生産量が再び162トンまで減少したことは、この影響の一例といえるでしょう。
地政学的に見ると、ブータンはインドや中国と国境を接した内陸国であり、物流や国際市場へのアクセスが容易ではありません。この地理的制約は、畜産業全般における生産性や市場展開を制約する要因となっています。そのため、ヤギ肉生産の規模を拡大するうえで、国内市場の需要に依存せざるを得ない状況にあります。
また、ヤギ肉はブータンの文化的背景において重要な位置を占めており、特別な儀式や行事で使用されることが多いため、その需要は季節や宗教的行事によって変動する可能性が高いです。さらに、ブータン政府の環境政策も生産動態に影響を与えています。国全体が環境保護を重視しているため、過剰な土地利用や過放牧を防ぐ規制が畜産業の発展に影響することがあります。
未来への課題としては、まず、供給と需要のバランスをより安定させる仕組みの構築が必要です。たとえば、国内需要の予測精度を向上させるデータ収集の強化や、輸送インフラを改善することで地元畜産業者の収益性を向上させる努力が考えられます。また、近隣国であるインドとの経済協力を通じて、輸出市場の拡大を視野に入れることも一策です。
さらに、ヤギ肉生産の持続可能性を高めるための教育や研修も有効です。具体的には、家畜の健康管理や飼料の効率的な利用、環境に配慮した飼育手法の普及を進めることで、土地資源を保全しながら生産量を安定化させることが可能です。
結論として、ブータンのヤギ肉生産は長期的には増加傾向にありますが、政策や外部要因による変動がその発展を制約しています。今後は、地域的・国際的な協力を強化し、持続可能で安定的な生産体制を築くことが求められます。特に、環境保全と経済発展を両立させる形での畜産業の発展が、ブータンの特殊な地理的・文化的条件に適した解決策となるでしょう。