国際連合食糧農業機関(FAO)が発表した最新データによると、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)のヤギ肉生産量は、1960年代から急激に増加し、特に1990年代中盤には急激な変動が見られました。その後2000年代にかけて安定した増加傾向を示しましたが、2010年代の半ば以降、生産量は停滞または若干の減少を見せています。2023年の生産量は14,055トンで、直近のピークである2011年の15,000トンに比べるとやや減少しています。この長期間の動向は、北朝鮮の経済状況、農業政策、そして自然災害や国際的制裁などの地政学的要因が複雑に絡み合っていることを示唆しています。
朝鮮民主主義人民共和国のヤギ肉生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
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2023年 | 14,055 |
-1.79% ↓
|
2022年 | 14,311 |
3.13% ↑
|
2021年 | 13,877 |
0.23% ↑
|
2020年 | 13,846 |
0.47% ↑
|
2019年 | 13,781 |
1.21% ↑
|
2018年 | 13,616 |
-2.13% ↓
|
2017年 | 13,913 |
-0.86% ↓
|
2016年 | 14,033 |
-0.73% ↓
|
2015年 | 14,136 |
-1.17% ↓
|
2014年 | 14,304 |
-2.7% ↓
|
2013年 | 14,700 | - |
2012年 | 14,700 |
-2% ↓
|
2011年 | 15,000 |
2.46% ↑
|
2010年 | 14,640 |
0.1% ↑
|
2009年 | 14,625 |
3.72% ↑
|
2008年 | 14,100 |
5.62% ↑
|
2007年 | 13,350 |
5.45% ↑
|
2006年 | 12,660 |
6.57% ↑
|
2005年 | 11,880 |
6.02% ↑
|
2004年 | 11,205 |
0.81% ↑
|
2003年 | 11,115 |
0.82% ↑
|
2002年 | 11,025 |
5% ↑
|
2001年 | 10,500 |
2.94% ↑
|
2000年 | 10,200 |
19.3% ↑
|
1999年 | 8,550 |
26.11% ↑
|
1998年 | 6,780 |
39.94% ↑
|
1997年 | 4,845 |
50.93% ↑
|
1996年 | 3,210 |
0.47% ↑
|
1995年 | 3,195 |
-50.47% ↓
|
1994年 | 6,450 |
59.26% ↑
|
1993年 | 4,050 |
20% ↑
|
1992年 | 3,375 |
13.64% ↑
|
1991年 | 2,970 |
1.54% ↑
|
1990年 | 2,925 |
1.56% ↑
|
1989年 | 2,880 |
1.59% ↑
|
1988年 | 2,835 |
1.61% ↑
|
1987年 | 2,790 |
1.64% ↑
|
1986年 | 2,745 |
1.67% ↑
|
1985年 | 2,700 |
3.45% ↑
|
1984年 | 2,610 |
3.57% ↑
|
1983年 | 2,520 |
3.7% ↑
|
1982年 | 2,430 |
5.88% ↑
|
1981年 | 2,295 |
4.08% ↑
|
1980年 | 2,205 |
4.26% ↑
|
1979年 | 2,115 |
4.44% ↑
|
1978年 | 2,025 |
2.27% ↑
|
1977年 | 1,980 |
4.76% ↑
|
1976年 | 1,890 |
5% ↑
|
1975年 | 1,800 |
2.56% ↑
|
1974年 | 1,755 |
8.33% ↑
|
1973年 | 1,620 |
5.88% ↑
|
1972年 | 1,530 |
9.68% ↑
|
1971年 | 1,395 |
6.9% ↑
|
1970年 | 1,305 |
11.54% ↑
|
1969年 | 1,170 |
10.64% ↑
|
1968年 | 1,058 |
9.3% ↑
|
1967年 | 968 |
7.5% ↑
|
1966年 | 900 |
11.11% ↑
|
1965年 | 810 |
15.38% ↑
|
1964年 | 702 |
22.83% ↑
|
1963年 | 572 |
29.59% ↑
|
1962年 | 441 |
24.05% ↑
|
1961年 | 356 | - |
朝鮮民主主義人民共和国におけるヤギ肉生産量の推移は、同国の農業政策や経済状況、そして地政学的な要因を反映しています。1961年には356トンだった生産量が2023年には14,055トンへと増加しており、この期間中に約40倍もの成長が見られます。しかし、この成長曲線にはいくつかの特徴的なパターンが見られます。
まず、1960年代から1980年代末にかけて、ヤギ肉生産量は徐々に増加し、安定的な成長を示しています。これは、集団農業体制の導入と農業の機械化など、北朝鮮政府による計画的な食料増産政策に起因していると考えられます。ただし、1990年代に入ると生産量が急激に変動し、1994年に6,450トンまで増加した後、翌年には3,195トンに大幅に減少しています。この時期は北朝鮮の「苦難の行軍」と呼ばれる深刻な経済危機および食糧不足の時代で、多くの農業インフラが破壊され、生産体制が混乱したことが原因と見られます。
2000年代以降、ヤギ肉の生産量は再び増加傾向に入り、2009年には14,625トン、2011年には15,000トンに達しました。この増加は、ヤギが飼育しやすい家畜であり、特に困難な経済状況下でも飼料の消費が少なく、地域住民や農場での持続可能な生産方法として適しているためであると考えられます。しかし、2012年以降、ヤギ肉の生産量は安定化した後、若干の減少傾向を示しています。この変化は、北朝鮮全体の持続的な農業資源の不足や、国際的な制裁による物資不足、さらには近年の気候変動や自然災害が影響している可能性があります。
北朝鮮では家畜としてのヤギが非常に重要な役割を果たしており、特に国際的な孤立の中で自己完結型の農業を目指す同国において、ヤギ肉の需要は高いと推定されます。しかし、2023年時点での生産量が15,000トンのピークをやや下回るという現状は、同国が抱える課題の深刻さを反映しています。このような状況からは、以下のような課題と対策が浮かび上がります。
現在の課題としては、気候変動や洪水、干ばつなどの自然災害が農業活動に大きく影響を与えていることが挙げられます。また、国際制裁によって飼料や農業機械の輸入が制限され、持続可能な農牧業を維持するための基礎的なインフラが十分に整備されていないことも問題です。さらに、ヤギ肉生産を含む農業生産のデータは、不確実性が高いため、正確な統計データに基づいた政策立案が難しいという点も見逃せません。
今後の対策としては、ヤギの飼育環境を改善し、品種改良や飼料の効率化を図ることが重要です。また、国際的な協力の枠組みを利用して、制裁の範囲外となる農業技術や資源の提供を模索することが求められます。近隣諸国である中国、韓国、日本などとも限定的な協議の場を設け、技術共有や災害対応策の構築を進めることも考慮すべきでしょう。
結論として、北朝鮮のヤギ肉生産量の推移は同国の経済的および社会的背景を色濃く反映したものであり、この分野での改善は食糧安全保障の向上に寄与する可能性があります。国際社会の積極的な介入と、北朝鮮内部での農業インフラ強化が、中長期的にはヤギ肉の安定供給と農業の持続可能性を実現する鍵となるでしょう。このため、適切な支援と政策の実行が必要不可欠です。