国際連合食糧農業機関(FAO)が2024年7月に更新したデータによると、ボスニア・ヘルツェゴビナの牛飼養数は、1992年の55万頭をピークに長期的には減少傾向にあります。特に2021年以降には顕著な減少が見られ、2022年には約33.9万頭にまで減少しました。この変化は、内戦、経済状況、農業政策の変動、新型コロナウイルスの影響などが複合的に関係していると考えられます。
ボスニア・ヘルツェゴビナの牛飼養数推移(1961-2022)
年度 | 飼養数(頭) |
---|---|
2022年 | 339,169 |
2021年 | 341,898 |
2020年 | 427,461 |
2019年 | 429,653 |
2018年 | 438,006 |
2017年 | 444,522 |
2016年 | 455,191 |
2015年 | 454,810 |
2014年 | 444,000 |
2013年 | 446,893 |
2012年 | 444,595 |
2011年 | 455,258 |
2010年 | 462,368 |
2009年 | 457,743 |
2008年 | 459,218 |
2007年 | 467,986 |
2006年 | 514,869 |
2005年 | 459,790 |
2004年 | 452,895 |
2003年 | 440,000 |
2002年 | 410,000 |
2001年 | 440,000 |
2000年 | 461,928 |
1999年 | 442,537 |
1998年 | 425,743 |
1997年 | 411,800 |
1996年 | 330,000 |
1995年 | 403,000 |
1994年 | 500,000 |
1993年 | 550,000 |
1992年 | 550,000 |
ボスニア・ヘルツェゴビナは、農業・畜産業が重要な産業の一つであり、牛の飼養数の推移は同国の経済状況や社会的変化を反映しています。1992年には55万頭という高い飼養数を記録しましたが、その後、1992年から1995年までの間に起きたボスニア紛争は、農業基盤に深刻な被害を与え、それに伴うインフラの破壊と人口流出が牛飼養数の急激な減少を引き起こしました。1996年には約33万頭に落ち込み、これは紛争前の水準から大幅に減少した結果となりました。
紛争終了後、徐々に飼養数は回復に向かいました。2000年から2010年にかけては、おおむね安定した水準を保ちつつも、約44万~46万頭の間を推移しました。特に2006年には約51.5万頭と一時的に回復していますが、その後、大きな成長は見られず、むしろ緩やかな減少傾向が続いています。2018年に約43.8万頭だった飼養数は、2020年には42.7万頭、さらに2021年には急激に減少し約34.2万頭、2022年には33.9万頭となりました。この減少の要因には、新型コロナウイルスの流行がもたらした経済的打撃、輸送や物流の混乱、農家の経済的困窮が含まれると考えられます。
地域的な背景として、ボスニア・ヘルツェゴビナの小規模家族農業が支配的である現状があります。このような農業モデルでは、国際市場の競争や輸入製品の増加により利益が圧迫されやすく、生産効率を向上させるための投資が難しいという課題があります。また、EU加盟国ではないことから、欧州連合からの大規模な農業支援や補助金を直接受けることができない点も、競争力低下の一因として挙げられます。
さらに地政学的なリスクも無視できません。隣国との関係や地域的な政治的緊張は、農業政策や畜産業への支援の一貫性を欠く要因となっています。この不安定性は長期的な計画や投資の妨げとなり、牛飼養業への悪影響を及ぼしています。
これらの現状を解決するためには、まず政府が地域農家を支援するための持続可能な政策を打ち立てる必要があります。その一環として、現代的な畜産技術の導入や生産効率の向上を目指す教育プログラムを強化し、農家に対する財政的支援を拡充することが重要です。また、EUとの協力体制を強化し、間接的な支援や市場アクセスを確保することも有望な戦略です。さらに、地域の協力関係を構築することで、輸送と物流の改善、そして紛争リスクの低減を実現する必要があります。
結論として、ボスニア・ヘルツェゴビナにおける牛飼養数の減少は、社会経済的、地政学的、そして疫病や災害など複数の要因が絡み合った結果であると考えられます。この問題に対処するためには、農業政策の施策強化や国際協力の推進、さらには畜産業を取り巻くインフラ改善が不可欠です。これらを基盤として生産を安定させることで、国内の食料供給の安定化および地域経済の活性化が期待されます。