Food and Agriculture Organization(国際連合食糧農業機関)の最新データによると、ブータンの牛の飼養数は1961年の19万頭から増加基調で推移し、1985年には37.8万頭と過去最高を記録しました。その後、減少と増加を繰り返しながら安定した期間を経て、2022年には25.5万頭まで減少しています。この推移には農業構造の変化や社会経済的な要因が影響していると考えられます。
ブータンの牛飼養数推移(1961-2022)
年度 | 飼養数(頭) |
---|---|
2022年 | 254,897 |
2021年 | 295,444 |
2020年 | 281,015 |
2019年 | 302,589 |
2018年 | 317,451 |
2017年 | 303,250 |
2016年 | 303,297 |
2015年 | 302,744 |
2014年 | 301,331 |
2013年 | 302,526 |
2012年 | 298,916 |
2011年 | 302,939 |
2010年 | 309,277 |
2009年 | 307,013 |
2008年 | 276,583 |
2007年 | 319,899 |
2006年 | 312,063 |
2005年 | 384,385 |
2004年 | 337,550 |
2003年 | 332,714 |
2002年 | 326,010 |
2001年 | 325,944 |
2000年 | 355,437 |
1999年 | 384,199 |
1998年 | 354,000 |
1997年 | 353,517 |
1996年 | 353,755 |
1995年 | 372,095 |
1994年 | 336,568 |
1993年 | 338,000 |
1992年 | 339,749 |
1991年 | 366,000 |
1990年 | 392,952 |
1989年 | 387,000 |
1988年 | 393,000 |
1987年 | 387,100 |
1986年 | 376,000 |
1985年 | 378,650 |
1984年 | 358,374 |
1983年 | 339,438 |
1982年 | 321,234 |
1981年 | 304,047 |
1980年 | 299,169 |
1979年 | 293,000 |
1978年 | 286,000 |
1977年 | 279,000 |
1976年 | 272,000 |
1975年 | 266,000 |
1974年 | 260,000 |
1973年 | 254,000 |
1972年 | 248,000 |
1971年 | 242,000 |
1970年 | 236,000 |
1969年 | 230,000 |
1968年 | 225,000 |
1967年 | 220,000 |
1966年 | 215,000 |
1965年 | 210,000 |
1964年 | 205,000 |
1963年 | 200,000 |
1962年 | 195,000 |
1961年 | 190,000 |
ブータンにおける牛の飼養数の推移を見ると、1961年の19万頭からほぼ一貫した増加を見せ、1985年に38万頭近くに達しました。この増加は、農業と牧畜が経済や生活の中心だった時代背景を反映しており、農村部で牛が労働力としても利用されていたことが一因と考えられます。しかし、1986年以降は大きな変動が見られ、特に1990年代以降では減少傾向が目立ち始めています。
特筆すべき点として、1960年代から1980年代にかけての増加は、人口増加や自給的農業の必要性に応じたものでしたが、1990年代以降の減少にはいくつかの要因が影響しています。一つは、近代化の進展による生活様式の変化と、農業から都市部への人の流出です。もう一つは、自然環境の制約と、生態系保護への配慮が影響している可能性があります。ブータンは国内総幸福量(Gross National Happiness, GNH)を重視する政策を掲げており、自然保護政策が従来の農業活動に影響を与えた可能性が考えられます。
2000年以降、飼養数はおおむね30万頭前後で推移していますが、2022年には25.5万頭に減少しました。この減少はコロナ禍がもたらした経済的混乱や労働力不足によるものと推測されます。加えて、農村部での農業離れや動物飼育に対する経済的なコストが高まったことも影響している可能性があります。
ブータンの地政学的な背景も、この動向に影響を与えています。同国は中国とインドに挟まれた位置にあり、両国との国境地帯では持続可能な開発が求められる一方で農業活動が制約される場合があります。この状況が、放牧地の利用や畜産資源の管理に影響を及ぼしている可能性も無視できません。
未来に向けての課題としては、持続可能な農業・畜産業をどのように発展させるかが挙げられます。具体的には、都市部と農村部との経済格差を減らし、若者が農業や牧畜に従事することを魅力的にするような政策が必要です。また、地産地消の推進や、生態系を保護しながら効率的な牧畜を行える技術や方法の開発も重要です。
ブータンの自然環境を考慮すれば、非集約的で環境負荷の少ない持続可能な畜産モデルの導入が求められるでしょう。このためには、国際的な支援や地域間での協力も不可欠です。また、気候変動の影響を見越した資源管理政策を進めることが、将来の安定した生産基盤を構築する鍵になると考えられます。
全体として、ブータンの牛飼養数の推移は、経済と社会構造の変化を反映しています。この動向を踏まえて、自然環境と地域社会の調和を目指した政策を実施することが、同国の農村部の発展に寄与する重要な要素となるでしょう。