国連食糧農業機関(FAO)の最新データをもとに分析すると、フィリピンの牛飼養数は1961年以降、全体的に増加傾向をたどってきました。特に1960年代から1990年代後半にかけて顕著な上昇を記録しましたが、1998年のピーク以降、安定または緩やかな増減を繰り返しています。2022年では2,577,506頭となり、直近数年はほぼ横ばいです。
フィリピンの牛飼養数推移(1961-2022)
年度 | 飼養数(頭) |
---|---|
2022年 | 2,577,506 |
2021年 | 2,605,262 |
2020年 | 2,541,959 |
2019年 | 2,535,414 |
2018年 | 2,553,937 |
2017年 | 2,547,614 |
2016年 | 2,553,747 |
2015年 | 2,534,243 |
2014年 | 2,512,184 |
2013年 | 2,497,908 |
2012年 | 2,493,157 |
2011年 | 2,518,400 |
2010年 | 2,570,900 |
2009年 | 2,586,000 |
2008年 | 2,566,490 |
2007年 | 2,565,900 |
2006年 | 2,519,740 |
2005年 | 2,489,100 |
2004年 | 2,593,286 |
2003年 | 2,584,500 |
2002年 | 2,547,820 |
2001年 | 2,495,600 |
2000年 | 2,478,850 |
1999年 | 2,425,929 |
1998年 | 2,395,020 |
1997年 | 2,266,280 |
1996年 | 2,128,455 |
1995年 | 2,020,651 |
1994年 | 1,936,049 |
1993年 | 1,913,860 |
1992年 | 1,729,000 |
1991年 | 1,679,866 |
1990年 | 1,629,230 |
1989年 | 1,681,650 |
1988年 | 1,700,010 |
1987年 | 1,746,850 |
1986年 | 1,814,460 |
1985年 | 1,786,390 |
1984年 | 1,848,950 |
1983年 | 1,937,520 |
1982年 | 1,941,650 |
1981年 | 1,939,950 |
1980年 | 1,882,860 |
1979年 | 1,833,210 |
1978年 | 1,820,210 |
1977年 | 1,723,360 |
1976年 | 1,736,620 |
1975年 | 1,800,000 |
1974年 | 1,900,000 |
1973年 | 2,099,000 |
1972年 | 1,933,000 |
1971年 | 1,795,000 |
1970年 | 1,678,700 |
1969年 | 1,628,900 |
1968年 | 1,643,800 |
1967年 | 1,574,800 |
1966年 | 1,582,500 |
1965年 | 1,559,900 |
1964年 | 1,382,900 |
1963年 | 1,197,200 |
1962年 | 1,094,400 |
1961年 | 1,054,700 |
フィリピンにおける牛飼養数は、農業・食糧生産における重要な指標です。1961年の1,054,700頭から1998年には2,395,020頭に達し、およそ2.3倍に増加したことが確認されます。増加の背景には人口の増加、牛肉の需要拡大、家畜飼育技術の向上があると考えられます。この間、フィリピン政府は農業開発政策を推進し、特に家畜飼育の促進を図りました。
しかし、1998年以降のデータを見ると、牛飼養数の急成長が一段落し、ほぼ横ばいか一部減少しています。この要因として、土地の都市化や畜産業への投資不足、気候変動が与える影響が挙げられます。気候変動は牧草地の減少や家畜の健康問題を引き起こすため、牛飼養数の安定に影響を及ぼしている可能性があります。また、2005年以降には年間の飼養数における変動が目立ち、一時的な年次減少が続く状況も見られました。
さらに、新型コロナウイルスパンデミックが2020年以降の食糧供給網に影響を与えた可能性もあります。物流の停滞や市場の閉鎖が一時的に畜産業の生産性を低下させたことが想定されます。しかし、2021年には一時的に2,605,262頭まで増加し、回復傾向が見られました。
フィリピンの飼養数推移を他国と比較すると、日本における牛飼養数(約400万頭)よりも少ないものの、中国(約9,000万頭)、インド(約3億頭)といった主要生産国と比べると非常に小規模です。特に、インドが牛の消費や宗教的な牛の重要性を背景に飼養数で圧倒的な規模を持つのに対し、フィリピンでは食文化や経済規模の違いが影響していると考えられます。
地政学的な側面では、南アジア地域での気候変動の影響や南シナ海における地政学的リスクが、フィリピンの畜産業に潜在的なリスクを与え続けています。台風や洪水などの自然災害が牧草地やインフラを破壊することで生産基盤が弱体化するため、このような自然災害への備えは非常に重要となっています。
今後フィリピンが牛飼養数を安定的に保ち、さらなる生産性向上を目指すためには、いくつかの具体的な対策が考えられます。第一に、放牧地としても利用可能な土地の保全と拡大を図るため、持続可能な土地利用計画を策定することが必要です。第二に、牛の健康を保つため、飼料の改良や予防医療の推進も鍵となります。さらに政府が畜産業への補助金や低利融資を行うことで、生産者の負担を軽減し、近代的な飼養設備を導入することが重要です。
将来的には地域間協力の枠組みも検討すべきです。アセアン諸国との協調を通じて畜産技術や知見を共有し、家畜関連の市場流通を改善することが期待されます。加えて、特に地方の若年層を対象とした家畜育成や管理手法に関する教育プログラムを展開し、持続可能な産業基盤の整備を目指すことも効果的でしょう。
以上のように、フィリピンの牛飼養数動向は地域独自の特徴を反映しており、適切な政策対応を通じて安定的な成長や食糧安全保障の強化を図ることが求められています。地元行政および国際的なパートナーシップの両面での取り組みがこの課題解決の鍵となるでしょう。