Food and Agriculture Organization(国際連合食糧農業機関)が2024年7月に更新したデータによると、チリの牛飼養数の長期的な推移は、1960年代からゆるやかな上昇を示しつつも、その後の数十年で年ごとの変動が大きく、近年は減少傾向が確認されています。特に1997年の約4,097,244頭をピークに、その後は一部上昇幅を伴いつつも全体的には緩やかな減少傾向が続いています。2020年には約3,193,276頭に達したものの、2022年には3,000,000頭を下回る2,955,355頭となり、過去60年間の中でも低い水準となっています。
チリの牛飼養数推移(1961-2022)
年度 | 飼養数(頭) |
---|---|
2022年 | 2,955,355 |
2021年 | 2,985,030 |
2020年 | 3,193,276 |
2019年 | 3,108,089 |
2018年 | 2,991,891 |
2017年 | 2,890,840 |
2016年 | 2,820,774 |
2015年 | 2,735,857 |
2014年 | 2,896,333 |
2013年 | 3,007,883 |
2012年 | 3,750,000 |
2011年 | 3,758,547 |
2010年 | 3,830,000 |
2009年 | 3,850,000 |
2008年 | 3,800,000 |
2007年 | 3,738,547 |
2006年 | 3,900,000 |
2005年 | 3,985,000 |
2004年 | 3,989,000 |
2003年 | 3,932,000 |
2002年 | 3,927,000 |
2001年 | 3,980,000 |
2000年 | 4,068,000 |
1999年 | 4,134,000 |
1998年 | 4,160,000 |
1997年 | 4,097,244 |
1996年 | 3,913,593 |
1995年 | 3,858,248 |
1994年 | 3,814,242 |
1993年 | 3,691,730 |
1992年 | 3,557,480 |
1991年 | 3,460,530 |
1990年 | 3,403,850 |
1989年 | 3,465,830 |
1988年 | 3,466,000 |
1987年 | 3,371,000 |
1986年 | 3,220,000 |
1985年 | 3,191,000 |
1984年 | 3,650,000 |
1983年 | 3,780,000 |
1982年 | 3,800,000 |
1981年 | 3,750,000 |
1980年 | 3,625,000 |
1979年 | 3,575,000 |
1978年 | 3,487,045 |
1977年 | 3,426,874 |
1976年 | 3,389,499 |
1975年 | 3,606,210 |
1974年 | 3,456,725 |
1973年 | 3,164,614 |
1972年 | 3,187,990 |
1971年 | 2,860,000 |
1970年 | 2,998,675 |
1969年 | 2,910,710 |
1968年 | 2,876,280 |
1967年 | 3,096,940 |
1966年 | 2,900,000 |
1965年 | 2,870,171 |
1964年 | 2,844,600 |
1963年 | 2,819,000 |
1962年 | 2,875,900 |
1961年 | 2,841,800 |
チリの牛飼養数推移を振り返ると、1960年代から1980年代にかけて、農業および食糧政策の充実が進む中で、牛の飼養数は概ね増加傾向にありました。1980年代半ばの一時的な減少を経て、1997年には4,097,244頭を記録し、史上最も多い値となりました。この時期の増加要因として、国際輸出需要の増加や、国内畜産業の研究開発が進んだことが考えられます。しかし、それ以降は増加の勢いが鈍化し、2000年代に入ると年ごとの変動が目立つようになります。これには、国際市場価格の変動、飼料コストの高騰、土地の利用競争の激化などが関係していると考えられます。
近年では、2013年からの急激な減少が顕著でした。2013年の約3,007,883頭から2016年の2,820,774頭へと下降し、それ以降も大幅な回復はみられません。この背景には、気候変動による干ばつといった自然環境の影響が大きいです。牧草地の減少や水資源の不足は、農業生産全般に影響を及ぼし、さらに牛の育成にも大きな影響を与えました。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による物流の影響や、家庭内需要の変化も一因だった可能性があります。特に輸出に依存するチリの畜産業においては、国際需要の一時的な減少や市場へのアクセスの制約が打撃となりました。
地政学的な観点からも、2022年時点での減少傾向は特筆すべきです。チリは南米有数の農産物輸出国であり、飼料の国際取引や世界的な穀物価格の高騰が直接的に影響を与えています。さらに、国内では牛飼養を農業経済の核とする地方の経済的な格差が課題となっています。これらの背景から、既存の方法で牛飼養数を増加させることは容易ではないと言えます。
この傾向を改善するためには、いくつかの具体的な対策が必要です。まず第一に、気候変動に対処するための畜産業の気候適応型農業技術の導入が重要です。具体的には、耐 drought(干ばつ耐性)の高い牧草の導入や、効率的な水資源管理を進めることです。第二に、地域協力を強化するための国際的な枠組みを構築し、輸出依存度を高めるリスクを分散させる必要があります。他国に比べて気候リスクが低いドイツなどでは、持続可能な畜産モデルの研究が進められています。これらのモデルを取り入れることで、チリの畜産業の効率化と持続可能性を向上させることが期待されます。
さらに、国内では中央政府が主導して地方の牧畜家への支援を拡充することが重要です。特に新しい技術や農業資材の提供、教育プログラムの充実などが、牛の飼養数減少の歯止めに貢献するでしょう。また、国際機関との協力を強化し、乳製品や肉類の輸出市場を広げる戦略も取るべきです。
総じて、チリの牛飼養数の推移は、自然環境、地政学的なリスク、経済的な影響が複雑に絡み合った結果といえます。しかし、これらの課題に対応する戦略的な施策を講じることで、持続可能な畜産業の発展と地域経済の安定を同時に達成することが可能です。チリは効果的な政策と国際的な協力を通じて、この課題を克服する力を持っています。