国際連合食糧農業機関(FAO)が最新のデータを基に公開した統計によれば、1961年から2022年までのカンボジアの牛飼養数の推移は、地政学的要因や社会経済の状況、農業技術の向上などさまざまな要因の影響を受けてきたことが明らかです。1960年代から1970年代初頭にかけては増加傾向を見せた牛飼養数は、1970年代半ば以降のクメール・ルージュ政権下で急激に減少。その後、1980年代以降は徐々に回復し、2000年代半ばには約340万頭を記録しました。しかし、近年では再び減少傾向が見られ、2022年には約277万頭となっています。
カンボジアの牛飼養数推移(1961-2022)
年度 | 飼養数(頭) |
---|---|
2022年 | 2,769,078 |
2021年 | 2,803,393 |
2020年 | 2,756,878 |
2019年 | 2,798,940 |
2018年 | 2,861,275 |
2017年 | 2,871,481 |
2016年 | 2,881,394 |
2015年 | 2,875,000 |
2014年 | 2,875,000 |
2013年 | 2,900,000 |
2012年 | 2,914,974 |
2011年 | 3,406,972 |
2010年 | 3,484,601 |
2009年 | 3,579,882 |
2008年 | 3,457,787 |
2007年 | 3,368,449 |
2006年 | 3,344,612 |
2005年 | 3,184,146 |
2004年 | 3,039,945 |
2003年 | 2,985,416 |
2002年 | 2,924,457 |
2001年 | 2,868,727 |
2000年 | 2,992,640 |
1999年 | 2,826,378 |
1998年 | 2,679,940 |
1997年 | 2,820,783 |
1996年 | 2,761,800 |
1995年 | 2,785,700 |
1994年 | 2,621,424 |
1993年 | 2,542,000 |
1992年 | 2,468,000 |
1991年 | 2,257,000 |
1990年 | 2,181,000 |
1989年 | 2,095,000 |
1988年 | 1,891,000 |
1987年 | 1,852,000 |
1986年 | 1,705,000 |
1985年 | 1,559,700 |
1984年 | 1,436,000 |
1983年 | 1,271,000 |
1982年 | 1,143,000 |
1981年 | 917,000 |
1980年 | 772,000 |
1979年 | 739,000 |
1978年 | 850,000 |
1977年 | 900,000 |
1976年 | 1,000,000 |
1975年 | 1,500,000 |
1974年 | 1,870,000 |
1973年 | 2,000,000 |
1972年 | 2,100,000 |
1971年 | 2,200,000 |
1970年 | 2,300,000 |
1969年 | 2,399,000 |
1968年 | 2,268,000 |
1967年 | 2,084,000 |
1966年 | 1,850,000 |
1965年 | 1,770,000 |
1964年 | 1,700,000 |
1963年 | 1,600,000 |
1962年 | 1,550,000 |
1961年 | 1,470,000 |
1961年から2022年にかけてのカンボジアの牛飼養数データを分析すると、その推移はカンボジアの歴史的背景と深く結びついています。1960年代には約147万頭から始まり、1970年代初頭には230万頭以上と安定した増加を見せました。増加の背景には、伝統的な農耕社会において牛が重要な資産であり、耕作や交通手段、さらには食肉や乳製品として活用されていたことがあります。
しかし、1975年以降、クメール・ルージュ政権下での大規模な内戦と政策的混乱により、牛飼養数は壊滅的に減少しました。特に1975年から1979年にかけて、約150万頭から73万9000頭まで減少しています。この減少は、内戦に伴う社会経済の崩壊や農業インフラの破壊、そして牛が戦時下で食料やその他の用途として乱用されたことが主な要因と考えられます。
1980年代に入ると、政情の安定化に伴い牛飼養数は再び回復しました。これは農業の再構築と国際的支援を受けた農業技術の復興が進んだことの現れです。1990年代から2000年代初頭にかけては、カンボジアの農業がさらなる成長を遂げ、特に2006年から2008年には約340万頭まで達し、ピークを迎えました。
しかし、2010年代以降は停滞あるいは減少傾向が見られます。この背景には、農業の近代化による機械化の進展や都市部への人口流入が影響しています。また、近年の気候変動による干ばつや洪水の頻発も、牛の飼育環境に悪影響を及ぼした可能性があります。さらに、輸出志向の農業が進む一方で、国内の伝統的な家畜飼養のニーズが減少したことも考えられる点です。
特に2012年以降の劇的な減少は注目に値します。この期間、飼養数が約343万頭から約291万頭に減少しています。その理由については、アセアン自由貿易協定による輸出入規制の変化や他国(例:オーストラリアやニュージーランド)の安価な牛肉輸入が影響を及ぼした可能性があります。
未来に向けた課題として、カンボジアの牛産業が直面している問題を挙げることができます。一つは気候変動への適応です。持続可能な飼育方法を推進し、乾燥耐性の飼料作物の研究開発などを進める必要があります。二つ目は地域間の協力体制の強化を図ることです。たとえば、アセアン加盟国間で共同研究プロジェクトを立ち上げ、牛の病害予防技術や遺伝子改良などの分野で協力することが考えられます。
また、牛飼養の経済的有効性を高めるため、農村部の小規模農家が牛乳や肉の市場価値を最大化できるよう、輸出入に関する法整備や技術支援を充実させるべきです。さらに、観光業の復活や発展を生かして、カンボジアの牛製品を海外市場に積極的に発信することで、付加価値を高めることも有効です。
結論として、カンボジアの牛飼養数は過去数十年の間に大きく変動し、地政学的背景や経済的、社会的要因に大きく左右されてきました。将来に向けては、持続可能な農業体制の構築や国際協力を通じた効率的な資源利用が重要です。国家レベルでは、政策的支援や教育プログラムの拡充により、牛産業全体の発展を促す必要があります。このような取り組みが実現することで、カンボジアの酪農および農業の持続可能性は大きく向上するでしょう。