国際連合食糧農業機関(FAO)が2024年7月に発表したデータによると、ウクライナの馬飼養数は1992年の717,100頭から2022年の180,800頭へと大幅に減少しました。この期間において約74.8%の減少が見られ、特に2005年以降、減少ペースが加速しています。この変化の背景には経済的要因、社会構造の変化、地政学的リスクが影響していると考えられます。
ウクライナの馬飼養数推移(1961-2022)
年度 | 飼養数(頭) |
---|---|
2022年 | 180,800 |
2021年 | 202,000 |
2020年 | 224,400 |
2019年 | 244,000 |
2018年 | 264,900 |
2017年 | 291,500 |
2016年 | 305,800 |
2015年 | 316,800 |
2014年 | 350,400 |
2013年 | 376,600 |
2012年 | 395,700 |
2011年 | 414,200 |
2010年 | 443,400 |
2009年 | 465,800 |
2008年 | 497,500 |
2007年 | 534,300 |
2006年 | 554,800 |
2005年 | 590,900 |
2004年 | 637,100 |
2003年 | 684,300 |
2002年 | 693,400 |
2001年 | 701,200 |
2000年 | 698,100 |
1999年 | 721,300 |
1998年 | 736,900 |
1997年 | 753,500 |
1996年 | 755,900 |
1995年 | 736,600 |
1994年 | 715,700 |
1993年 | 707,100 |
1992年 | 717,100 |
ウクライナの馬飼養数データは、1990年代前半に約70万頭を誇っていたものの、徐々に減少を見せ、2022年には約18万頭にまで縮小しました。この減少は同国の社会経済的環境の変化を反映しており、農業形態の変化、都市化の進行、馬の利用用途の減少が大きな要因と考えられます。
まず、1992年から2005年にかけては、当時の状況が比較的安定していたものの、ウクライナの経済転換期における混乱が影響を及ぼしたと考えられます。この間、馬の飼養数は年平均で1%未満の減少率を示していました。しかし2005年以降、減少ペースは加速度的になり、特に2014年を境に年間3%以上の急激な減少傾向が顕著です。この現象は、ウクライナにおける政治的・地政学的混乱の始まりとも一致しています。
2014年以降の変動には、ロシアによるクリミア併合やその後の東部紛争など、地政学的リスクが関与しています。こうした状況は、家畜および農業生産全般に多大な悪影響を与えました。一部地域では、農地や資材を利用することが困難となり、牧畜業におけるコスト高や維持不可能な状況に繋がりました。また、過去数十年間で馬を利用した農作業が減少し、トラクターなどの機械化に代替されたことも大きな要因です。この現代化の進行は、馬の飼養を必要としない農業経営モデルへの転換を推進しました。
また、馬飼養数の減少には、農村における人口減少が関与しています。ウクライナでは労働年齢人口の減少や都市部への人口移動が進み、農村地域の活力が低下しました。この結果、農業や牧畜を継続できる家庭やコミュニティが徐々に減少し、馬飼養にもその影響が波及しています。
さらに、新型コロナウイルス感染症のパンデミックは経済不安を強め、農業指向の経済活動にも影響を与えましたが、馬飼養の減少という既存のトレンドを大きく加速するものではありませんでした。
これらの要素を総合すると、ウクライナの馬飼養数の減少は、国の農業政策や地政学的環境の変化と深く結びついていることが明らかです。しかし課題解決の可能性は完全になくなったわけではありません。まず、持続可能な農村社会の形成を目指し、地元農場への補助金や技術支援を強化することで、馬の飼養と利用を再活性化させる政策が効果を発揮する可能性があります。併せて、馬の文化的価値や観光利用を進めることで、新しい需要を創出することも現実的な方策と言えます。たとえば、欧州諸国では馬車観光やスポーツ馬術など、観光業との連携が成功を収めています。
そして、地政学的リスクを軽減するために、地域紛争の解決が不可欠です。国際連合や欧州連合(EU)などの国際的な枠組みを活用し、紛争地帯における農業インフラの復旧と平和構築を優先課題とすることが求められます。
結論として、ウクライナの馬飼養数の推移は単なる農業データにとどまらず、その背景にある社会経済的要因や地政学的リスクを反映しています。今後、国や地域レベルでの政策の見直しや国際社会との協力が不可欠となるでしょう。これにより牧畜の持続的な発展を目指し、地域経済の再建と社会安定も実現可能となるはずです。