国連食糧農業機関(FAO)が発表した最新データによると、チュニジアの馬飼養数は1961年の81,000頭から大きな変動を見せ、1980年代以降、安定した緩やかな推移を示しています。特に1961年から1980年代中頃までの顕著な減少の後、近年はほぼ一定水準で推移しており、2022年には57,119頭と記録されています。このデータは、馬を取り巻く経済的・社会的および地政学的背景を探る上で重要な指標となります。
チュニジアの馬飼養数推移(1961-2022)
年度 | 飼養数(頭) |
---|---|
2022年 | 57,119 |
2021年 | 57,113 |
2020年 | 57,106 |
2019年 | 57,125 |
2018年 | 57,076 |
2017年 | 57,062 |
2016年 | 57,060 |
2015年 | 57,069 |
2014年 | 57,100 |
2013年 | 57,200 |
2012年 | 57,200 |
2011年 | 57,100 |
2010年 | 57,100 |
2009年 | 57,000 |
2008年 | 57,000 |
2007年 | 57,000 |
2006年 | 57,000 |
2005年 | 57,000 |
2004年 | 57,000 |
2003年 | 57,000 |
2002年 | 57,000 |
2001年 | 57,040 |
2000年 | 57,040 |
1999年 | 57,040 |
1998年 | 56,200 |
1997年 | 56,200 |
1996年 | 56,200 |
1995年 | 56,200 |
1994年 | 56,200 |
1993年 | 56,200 |
1992年 | 56,000 |
1991年 | 55,700 |
1990年 | 55,400 |
1989年 | 55,200 |
1988年 | 55,000 |
1987年 | 55,000 |
1986年 | 55,000 |
1985年 | 55,000 |
1984年 | 55,000 |
1983年 | 53,000 |
1982年 | 52,000 |
1981年 | 52,000 |
1980年 | 50,000 |
1979年 | 50,000 |
1978年 | 55,000 |
1977年 | 60,000 |
1976年 | 65,000 |
1975年 | 70,000 |
1974年 | 75,000 |
1973年 | 85,000 |
1972年 | 95,000 |
1971年 | 98,000 |
1970年 | 96,000 |
1969年 | 95,000 |
1968年 | 90,000 |
1967年 | 89,000 |
1966年 | 86,000 |
1965年 | 83,000 |
1964年 | 80,000 |
1963年 | 85,400 |
1962年 | 77,000 |
1961年 | 81,000 |
チュニジアの馬飼養数推移を詳細にみると、初期には顕著な減少が確認されます。1961年の81,000頭をピークに、1970年代後半から1980年にかけては劇的に減少し、50,000頭を下回る低迷期を迎えています。この減少の背景には、農業の機械化の進展、都市化の進行、人々の生活様式の変化が影響していると考えられます。特に1961年から1980年までの間に部分的に発生した干ばつや農業危機は、馬を伝統的な農業や輸送手段として利用していたチュニジア社会に負荷を与えた可能性があります。
1980年代後半以降、馬の飼養数は50,000頭程度で安定する動きを見せています。特に1990年代から2000年代にわたり、毎年おおよそ55,000頭で推移している状況は、チュニジアにおける馬の役割が再定義されたことを示唆しています。この頃、馬が農業・輸送の主力から、スポーツや文化的目的での飼養にシフトした可能性が高いです。また、一定の政策支援や飼育技術の安定供給も、この安定推移を支えている理由と考えられます。
2020年以降でも数値にはわずかな増減が見られるものの、ほぼ横ばいの状態を保っています。この一因として、2020年に発生した新型コロナウイルス感染症の世界的流行が挙げられます。パンデミックは、農業活動や家畜市場に一定の経済的な影響を与えた可能性があり、その結果、馬の飼養状況にも間接的な影響を及ぼした可能性があります。
地域的な課題として、地中海沿岸地域というチュニジアの地理的条件も影響しています。この地域は気候変動による干ばつのリスクが高まっており、それが馬の餌となる牧草や穀物生産にも影響を及ぼす可能性があります。例えば、同地域では農地利用の転換が進んでおり、馬の飼育環境を確保するための適切な措置が求められます。
今後の課題としては、馬の飼育文化を保ちながら、気候変動や経済変動に対応する持続可能な飼養体制を構築する必要があります。具体的には、牧草地の保護や管理、馬文化の観光資源としての活用、さらには若い世代への教育普及などが挙げられます。また、国家間での情報共有や協力も重要です。同じ地中海圏のイタリアやフランスでは、馬術を観光や教育に活用した成功例が見られます。こうした国際的なベストプラクティスを参考に、チュニジアも関連政策を強化することが求められます。
データの示す長期的な安定性は、一見するとポジティブに捉えられるかもしれませんが、実際には緩やかな衰退リスクを内包していると考えられます。これは、飼育技術や文化維持における新たな需要が停滞していることを意味する可能性があります。持続可能な農業政策や観光産業との連携などを通じて、馬の飼養を単なる伝統としてではなく、未来を支える資源として活用する戦略が必要です。地政学的な観点では、中東や北アフリカ諸国との協力を深めることで、この地域全体での牧畜資源の最適化と地域経済の安定が期待されます。