国際連合食糧農業機関(FAO)によると、エスワティニにおける馬の飼養数は1960年代初頭におよそ2,400頭程度を記録しましたが、長期的な減少傾向により1980年代末には約1,100頭と半減しました。その後2000年代初頭に安定期を迎えましたが、2010年代以降に再び緩やかな増加傾向が見られ、2022年には約1,770頭となりました。このデータはエスワティニの牧畜業や農業の変化、社会経済情勢が馬飼養数にどのような影響を与えてきたかを示しています。
エスワティニの馬飼養数推移(1961年~2023年)
年度 | 飼養数(頭) | 増減率 |
---|---|---|
2023年 | 1,744 |
-1.36% ↓
|
2022年 | 1,768 |
0.91% ↑
|
2021年 | 1,752 |
0.92% ↑
|
2020年 | 1,736 |
0.99% ↑
|
2019年 | 1,719 |
1.42% ↑
|
2018年 | 1,695 |
0.89% ↑
|
2017年 | 1,680 |
0.48% ↑
|
2016年 | 1,672 |
0.78% ↑
|
2015年 | 1,659 |
0.55% ↑
|
2014年 | 1,650 | - |
2013年 | 1,650 |
1.85% ↑
|
2012年 | 1,620 |
1.25% ↑
|
2011年 | 1,600 | - |
2010年 | 1,600 |
3.23% ↑
|
2009年 | 1,550 | - |
2008年 | 1,550 |
3.33% ↑
|
2007年 | 1,500 |
7.14% ↑
|
2006年 | 1,400 | - |
2005年 | 1,400 | - |
2004年 | 1,400 | - |
2003年 | 1,400 | - |
2002年 | 1,400 | - |
2001年 | 1,400 | - |
2000年 | 1,400 |
3.7% ↑
|
1999年 | 1,350 |
3.85% ↑
|
1998年 | 1,300 |
-5.11% ↓
|
1997年 | 1,370 |
1.48% ↑
|
1996年 | 1,350 |
2.27% ↑
|
1995年 | 1,320 |
1.54% ↑
|
1994年 | 1,300 |
-4.41% ↓
|
1993年 | 1,360 |
0.07% ↑
|
1992年 | 1,359 |
0.15% ↑
|
1991年 | 1,357 |
11.78% ↑
|
1990年 | 1,214 |
8.39% ↑
|
1989年 | 1,120 |
-12.5% ↓
|
1988年 | 1,280 |
-10.18% ↓
|
1987年 | 1,425 |
-11.05% ↓
|
1986年 | 1,602 |
-13.64% ↓
|
1985年 | 1,855 |
16.23% ↑
|
1984年 | 1,596 |
-2.03% ↓
|
1983年 | 1,629 |
-1.69% ↓
|
1982年 | 1,657 |
-1.43% ↓
|
1981年 | 1,681 |
-5.67% ↓
|
1980年 | 1,782 |
1.14% ↑
|
1979年 | 1,762 |
3.59% ↑
|
1978年 | 1,701 |
0.06% ↑
|
1977年 | 1,700 |
4.62% ↑
|
1976年 | 1,625 |
-16.58% ↓
|
1975年 | 1,948 |
9.38% ↑
|
1974年 | 1,781 |
-11.44% ↓
|
1973年 | 2,011 |
7.48% ↑
|
1972年 | 1,871 |
-13.86% ↓
|
1971年 | 2,172 |
-4.32% ↓
|
1970年 | 2,270 |
6.57% ↑
|
1969年 | 2,130 |
-3.49% ↓
|
1968年 | 2,207 |
-6.24% ↓
|
1967年 | 2,354 |
5% ↑
|
1966年 | 2,242 |
14.33% ↑
|
1965年 | 1,961 |
-14.92% ↓
|
1964年 | 2,305 |
-9.39% ↓
|
1963年 | 2,544 |
3.25% ↑
|
1962年 | 2,464 |
1.03% ↑
|
1961年 | 2,439 | - |
エスワティニにおける馬飼養数の推移データを詳細に分析すると、いくつかの重要なトレンドが浮かび上がります。まず、1960年代初頭の飼養数は2,400頭を超え、比較的馬文化が地域社会に支持されていた時期といえます。しかし、1965年以降、急激に飼養数が減少しており、1970年代から1990年代初頭にかけてその低下傾向が顕著になっています。1989年には過去最低となる約1,120頭に減少しています。この減少の背景には、エスワティニの都市化、農業形態の変化、さらには自動車や他の輸送手段の普及が関連していると考えられます。特に自動車の増加は、輸送手段としての馬の重要性が薄れる直接的な要因として挙げられます。
しかし、1990年代以降は飼養数の下げ止まりが見られ、2000年から2006年にかけては安定的に約1,400頭が維持されました。この時期の安定は農村部や牧畜業の需要に関連していると考えられます。さらに注目すべきは2007年以降の増加傾向であり、特に2010年代以降の緩やかな上昇率が注目されます。この増加は、観光業の発展や馬を利用した体験型サービスなど、非伝統的な用途への需要拡大が関係している可能性があります。また、国際的な畜産技術の導入や、公的機関による牧畜支援政策も一定の寄与を果たしていると考えられます。
2020年以降も堅調な増加が続いており、2022年には1,768頭まで回復しました。これは新型コロナウイルスの影響による外部流通の制限が、国内資源を活用した農畜産業の再評価を促した可能性があります。ただし、馬の主要な利用目的が大きく変わらない中で飼養数の微増は、急激な変化というよりも、持続可能な活用モデルへの動きの一環であると理解されます。
エスワティニでは、今後も馬の飼養数を維持または増加させたい場合、いくつかの課題と対策が求められます。一つの課題は、牧場の土地利用や飼料供給の効率化が遅れている点です。持続可能な方法で土地と資源を管理する必要があり、例えば集合型牧場の導入や飼料栽培の技術支援を通じて改善が可能です。また、気候変動に対応した飼育方法の開発も鍵となります。近年の頻発する干ばつや洪水は、エスワティニの気候に依存している農畜産業に影響を与えています。特に馬は水分や栄養供給に対して敏感な動物であり、これらの環境リスクは飼育数の安定に直接的な影響を及ぼします。
さらに、馬に関する民間事業の促進も重要です。観光業をはじめとする農村体験活動と連携し、馬を利用した新たな価値創造を行うことで、需要を拡大する取り組みが求められます。他国との比較では、例えばアメリカやヨーロッパ諸国では、馬文化を観光資源や教育活動に活用する成功例が多く見られます。日本でも同様に乗馬クラブや文化体験活動が都市部と農村部をつなぐ役割を果たしています。こうした国外の事例を参考にしつつ、エスワティニの特有な地理的・文化的背景を生かした施策を検討するべきでしょう。
結論として、エスワティニの馬飼養数は長期的に見て安定から成長へ向かう努力が続けられています。しかし、疫病や気候変動、資金といった新たなリスクに対応するための政策的支援が不可欠です。国や国際機関は、馬の適切な利用と飼育を通じた経済振興と生態系の保全を共に推進することが重要です。これには地域間協力の枠組みや技術移転、資金投入が具体的な解決策として挙げられます。このような包括的な取り組みを通じて、エスワティニにおける馬文化の持続的発展が期待されます。