Food and Agriculture Organization(国連食糧農業機関)が発表したデータによると、ボスニア・ヘルツェゴビナの馬飼養数は、1992年には40,000頭であったものの、その後断続的な減少傾向を示しています。特に2010年代以降は急激に減少し、2021年には3,960頭、2022年には3,840頭にまで縮小しており、ほぼ壊滅的な状況となっています。この減少は、地政学的背景や社会経済的な要因が強く影響していると考えられます。
ボスニア・ヘルツェゴビナの馬飼養数推移(1961-2022)
年度 | 飼養数(頭) |
---|---|
2022年 | 3,840 |
2021年 | 3,960 |
2020年 | 13,694 |
2019年 | 14,292 |
2018年 | 14,402 |
2017年 | 15,599 |
2016年 | 16,288 |
2015年 | 16,604 |
2014年 | 17,000 |
2013年 | 17,683 |
2012年 | 18,411 |
2011年 | 19,149 |
2010年 | 19,261 |
2009年 | 21,185 |
2008年 | 22,909 |
2007年 | 25,408 |
2006年 | 25,907 |
2005年 | 27,140 |
2004年 | 27,639 |
2003年 | 30,000 |
2002年 | 35,000 |
2001年 | 38,000 |
2000年 | 40,000 |
1999年 | 43,000 |
1998年 | 45,000 |
1997年 | 44,000 |
1996年 | 42,000 |
1995年 | 41,000 |
1994年 | 40,000 |
1993年 | 38,000 |
1992年 | 40,000 |
1992年に40,000頭であったボスニア・ヘルツェゴビナの馬飼養数は、まず1990年代を通じて微増や微減を繰り返していました。この時期は旧ユーゴスラビア紛争の影響が大きく、国全体の経済・社会基盤が不安定な状況にありましたが、馬の飼養数にはそれほど大きな影響は見られませんでした。しかし、2000年代半ば以降、馬飼養数は顕著な減少を開始しました。1999年には43,000頭を維持していたものの、2004年には27,639頭にまで減少し、それ以降も持続的に減少が続きました。
この減少は、ボスニア・ヘルツェゴビナの農業形態の変化や、都市化、機械化の進展が主たる要因と考えられます。馬は伝統的には農業や輸送において重要な役割を果たしてきましたが、機械化が進むことでその需要が低下しました。同じく農村地域では高齢化や人口流出が進み、馬の飼養は維持されにくい環境になりました。さらに、2008年以降の世界的な経済不況や農業支援政策の不十分さも負の影響を与えたと推測されます。
特に2021年と2022年のデータに注目すると、飼養数が急激に減少し、それまで年間1,000~1,500頭前後の減少ペースから一気に90%近く減少しています。この急激な変化は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる影響が深く関与している可能性があります。パンデミックによる経済困難は農業従事者に特に重くのしかかり、飼養環境が維持できなくなったり、馬の売却や処分を選ばざるを得ないケースが増加したと考えられます。
ボスニア・ヘルツェゴビナにおける馬飼養数の減少は、地政学的リスクや社会経済的なトレンドとも結びついています。本地域は東ヨーロッパと地中海を結ぶ地政学的に重要な位置に位置しており、過去の紛争や政治経済的な不安定さが馬のみならず農業・牧畜全般に波及しています。例えば、旧ユーゴスラビアの解体や紛争後の経済再建が十分ではないこと、EU加盟を目指す過程での不安定な経済基盤が、この現象を加速させています。
未来に向けた対策として、まず持続可能な農業政策を構築する必要があります。ボスニア・ヘルツェゴビナの農村地域において伝統的な牧畜を奨励し、馬の役割を再評価する政策が求められます。また、観光業との連携を図ることで、飼養の経済的価値を見いだす取り組みも有望です。例えば、伝統文化や農村ツーリズムを活用して、馬を観光資源として活用するアプローチが挙げられます。
さらに、国際機関との協力も重要です。EUや国連機関との連携により、農村支援のための資金援助や技術支援を引き出し、飼養者が馬の維持に関し十分なサポートを得られる体制を築くことが不可欠です。具体的には、補助金の導入や手頃な飼料供給の仕組みを整えることがその一例です。
結論として、ボスニア・ヘルツェゴビナの馬飼養数の大幅な減少は、多様な要因による複合的な問題の結果といえます。伝統的な牧畜文化の維持と農村地域の再活性化のためには、政策の改善や国際的な支援、そして地域社会との連携が必要不可欠です。この課題に早急に取り組むことで、持続可能な農村環境の構築が可能となり、結果として飼養数の安定化も期待されます。