国際連合食糧農業機関(FAO)の最新データによりますと、スペインのラズベリー生産量は1980年代初頭には1,000トン程度と小規模なレベルにとどまっていました。しかし、2000年代以降大幅に増加し、2017年には43,529トンと大台を突破、2019年にはそのピークとなる59,990トンを記録しました。一方、2020年以降は減少傾向にあり、2023年には33,070トンまで落ち込んでいます。この推移から、スペインのラズベリー生産は成長期を経て現在減退期に差し掛かっている状況が示されています。
スペインのラズベリー生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
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2023年 | 33,070 |
-27.19% ↓
|
2022年 | 45,420 |
-6.98% ↓
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2021年 | 48,830 |
-1.63% ↓
|
2020年 | 49,640 |
-17.25% ↓
|
2019年 | 59,990 |
37.25% ↑
|
2018年 | 43,710 |
0.42% ↑
|
2017年 | 43,529 |
98.01% ↑
|
2016年 | 21,983 |
31.45% ↑
|
2015年 | 16,724 |
16.89% ↑
|
2014年 | 14,307 |
22.28% ↑
|
2013年 | 11,700 |
-9.52% ↓
|
2012年 | 12,931 |
35.37% ↑
|
2011年 | 9,552 |
3.53% ↑
|
2010年 | 9,226 |
-23.12% ↓
|
2009年 | 12,000 | - |
2008年 | 12,000 |
20% ↑
|
2007年 | 10,000 |
33.33% ↑
|
2006年 | 7,500 |
7.14% ↑
|
2005年 | 7,000 |
16.67% ↑
|
2004年 | 6,000 |
19.59% ↑
|
2003年 | 5,017 |
11.49% ↑
|
2002年 | 4,500 |
40.63% ↑
|
2001年 | 3,200 |
28% ↑
|
2000年 | 2,500 |
25% ↑
|
1999年 | 2,000 |
66.67% ↑
|
1998年 | 1,200 |
0.26% ↑
|
1997年 | 1,197 |
-46.6% ↓
|
1996年 | 2,241 |
-12.47% ↓
|
1995年 | 2,561 | - |
1994年 | 2,561 | - |
1993年 | 2,561 | - |
1992年 | 2,561 | - |
1991年 | 2,561 |
137.98% ↑
|
1990年 | 1,076 |
7.6% ↑
|
1989年 | 1,000 | - |
1988年 | 1,000 | - |
1987年 | 1,000 | - |
1986年 | 1,000 | - |
1985年 | 1,000 | - |
1984年 | 1,000 | - |
スペインにおけるラズベリー生産の推移を詳しく見てみると、1980年代から1990年代にかけて、この産業は比較的安定し、その生産規模は1,000トンから2,500トンほどでした。この時期はまだラズベリーがスペインの農業では主流の品目ではなかったことを示しています。しかし21世紀初頭に入り、特に2003年以降は生産量が急拡大し、2007年に10,000トン、2019年には59,990トンと顕著な成長を記録しています。この増加は、主にスペイン国内の農業技術の進展やヨーロッパ市場でのラズベリー需要の高まり、そして輸出事業の拡大が背景にあります。
特筆すべきは2017年から2019年の間に生産量が大きなピークを迎えた点ですが、その後2020年から2023年にかけては減少傾向が続いています。これは新型コロナウイルス感染症の拡大による労働力不足や物流制限が影響したと考えられます。さらに、2020年代における気候変動がラズベリーの栽培環境に悪影響を与えている可能性も否定できません。特にスペインのような地中海性気候の地域では、異常気象が農業に直接的な打撃を与える例が増えつつあります。
この減少傾向に対処するためには、具体的な政策や技術革新が必要です。例えば、省水型の灌漑技術や品種改良による高温乾燥気候への耐性向上が挙げられます。また、地域農業における労働力確保のために移民政策を柔軟化し、農業労働への参加を促すことも検討すべきでしょう。さらに、農業関連施設へのインフラ投資を拡大し、効率的な収穫・輸送システムを整備することで、国内外の市場に安定的にラズベリーを供給する枠組みを構築可能です。
他国の事例に目を向ければ、近年、アメリカやオランダが農業にAI技術やドローンを導入することで生産コストを低減し品質向上を図る動きを見せています。スペインもこれらの先進技術を積極的に取り入れることで、国際競争力をさらに高められる可能性があります。一方、スペインのラズベリー輸出の主な市場であるEU諸国では、食の安全性や環境持続性への要求が高まっています。そのため、オーガニック生産に移行し、環境に優しい栽培手法を目指すことも中長期的な課題といえます。
地政学的な視点では、欧州南部全体での協調や、地中海地域での気候問題への共同対応が鍵となります。特に気候変動の影響に対しては、地域を越えた情報や技術の共有、共同研究などを通じて効果的な解決策を模索する必要があります。また、将来的な持続可能な農業の枠組みを築くため、国際機関との協力も重要になります。
以上を踏まえると、スペインのラズベリー産業は、多くの可能性を秘めつつも、減少傾向に適応するための具体的な課題への対応が求められている状況にあります。国家レベルでの農業支援策と地域間の国際協力を組み合わせることで、生産の持続可能性を高めることが可能となるでしょう。この視点を活かして、スペインが世界有数のラズベリー生産国としての地位を維持・発展させるための取り組みが期待されます。