ボスニア・ヘルツェゴビナのニンジン・カブ類の生産量は、データが確認できる1992年以降、紛争や社会的混乱といった地政学的要因の影響を受けながら推移してきました。生産量は1990年代後半以降一定の改善を見せるものの、2008年をピークに減少傾向にあります。2023年の生産量は8,674トンで、近年の最低値だった2022年(8,294トン)からわずかに回復しましたが、長期的な減少からの脱却を示す指標とは言い難い状況です。
ボスニア・ヘルツェゴビナのニンジン・カブ類生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
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2023年 | 8,674 |
4.58% ↑
|
2022年 | 8,294 |
-15.89% ↓
|
2021年 | 9,861 |
-17.07% ↓
|
2020年 | 11,891 |
9.03% ↑
|
2019年 | 10,906 |
-1.78% ↓
|
2018年 | 11,104 |
-1.4% ↓
|
2017年 | 11,262 |
-35.92% ↓
|
2016年 | 17,575 |
-12.06% ↓
|
2015年 | 19,985 | - |
2014年 | 19,985 |
-13.64% ↓
|
2013年 | 23,141 |
68.94% ↑
|
2012年 | 13,698 |
-33.8% ↓
|
2011年 | 20,693 |
-9.47% ↓
|
2010年 | 22,858 |
8.99% ↑
|
2009年 | 20,973 |
-24.04% ↓
|
2008年 | 27,609 |
21.2% ↑
|
2007年 | 22,779 |
20.63% ↑
|
2006年 | 18,884 |
-9.92% ↓
|
2005年 | 20,964 |
8.43% ↑
|
2004年 | 19,335 |
108.15% ↑
|
2003年 | 9,289 |
-17.25% ↓
|
2002年 | 11,226 |
30.37% ↑
|
2001年 | 8,611 |
-13.89% ↓
|
2000年 | 10,000 |
-30.85% ↓
|
1999年 | 14,461 |
-4.55% ↓
|
1998年 | 15,150 |
13.91% ↑
|
1997年 | 13,300 |
66.25% ↑
|
1996年 | 8,000 |
32.34% ↑
|
1995年 | 6,045 |
-28.88% ↓
|
1994年 | 8,500 |
-15% ↓
|
1993年 | 10,000 |
-34.8% ↓
|
1992年 | 15,338 | - |
国際連合食糧農業機関(FAO)のデータをもとにした分析を行うと、ボスニア・ヘルツェゴビナのニンジン・カブ類の生産量は、主に1992年から1995年の国の内戦の影響を受け、急激に減少したことがわかります。1992年の生産量は15,338トンでしたが、1995年には6,045トンにまで減少しました。この急激な減少は、農地の荒廃や人口の流出、農業従事者の減少など、戦争による経済と生活の混乱が大きく影響したといえます。
紛争終結後の復興期である1997年以降、生産量は一時的に上昇し、2008年には27,609トンとピークを迎えました。これは、国際機関や各種援助団体からの支援、ならびに農業支援政策が功を奏した結果と考えられます。しかし、これ以降は再び減少傾向に転じており、2023年には8,674トンまで縮小しています。この減少は、環境の変動、気候変動による農作物への影響に加え、若者層の農業離れや過疎化などが背景にあると分析されます。
ニンジン・カブ類は、特に寒冷地の安定した栄養源として重要な農作物です。隣国を含む中欧各国では、農業生産において安定した成長を遂げている例も少なくありません。たとえば、ドイツやポーランドでは、技術革新や大規模農地の効率化が進み、ニンジンなどの根菜類の生産量が堅調に推移しています。一方で、ボスニア・ヘルツェゴビナは小規模農家の割合が圧倒的に多く、灌漑や機械化が十分に進んでいない現状が、生産量の低迷を引き起こしている要因の一つです。
また、気候変動の影響も無視できません。過去10年の間に発生した干ばつや豪雨、大規模な洪水といった異常気象が、作物の収量を著しく下げる要因となっています。特に2014年の洪水では国全体の農業生産に大きな被害を及ぼしました。これらの自然災害の頻度と規模が増加しており、生産量の安定確保が課題となっています。
今後の改善策としては、いくつかの具体的なステップが提案されます。まず、農業技術の向上を目指した取組みが挙げられます。これには、機械化や灌漑設備の導入、耐気候性の高い品種の導入を進めることが含まれます。また、持続可能な農業の枠組みを整え、環境への負担を軽減しつつ生産効率を高める政策が重要です。これと並行して、若い世代の農業参加を促進するためのインセンティブを強化し、過疎化に対応する地域レベルの支援制度を設ける必要があります。
さらに、気候変動への適応策として、気象予測技術の導入や防災インフラの強化も求められます。ボスニア・ヘルツェゴビナでは洪水被害の予防や、農地の多様化を通じたリスク分散も検討すべき重要な課題です。これにより農業のリジリエンス、つまり外部要因に対する耐性を高めることができるでしょう。
国際的な視点からは、ボスニア・ヘルツェゴビナと地域周辺国の協力が生産基盤の強化に不可欠です。EU加盟国との連携を深め、知識と技術の共有を進めるとともに、農産物の輸出入を通じて経済基盤を整えることが期待されます。
データから導き出される結論として、ボスニア・ヘルツェゴビナの農業、特にニンジン・カブ類の生産量は現在、過去の課題と新たな環境の課題が複雑に絡み合った困難な状況にあります。しかし、国内外で協調した取り組みを進化させれば、安定的な生産量の確保と経済成長の推進が期待されます。国際機関や隣国の協力を得ながら、農業政策と地域支援の強化が急務です。