FAO(国連食糧農業機関)が2024年に発表した最新データによると、レバノンのニンジン・カブ類の生産量は1961年の7,000トンから大きな増減を繰り返しつつ、2023年には4,212トンと大幅な減少傾向を見せています。ピークとなったのは1996年の38,420トンで、それ以降減少が顕著です。特に2006年以降は1万トンを超えることが少なく、近年では4,000トン台で低迷しています。
レバノンのニンジン・カブ類生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
---|---|---|
2023年 | 4,212 |
-0.53% ↓
|
2022年 | 4,234 |
-3.51% ↓
|
2021年 | 4,388 |
-17.2% ↓
|
2020年 | 5,300 |
-0.38% ↓
|
2019年 | 5,320 |
-49.57% ↓
|
2018年 | 10,550 |
-10.61% ↓
|
2017年 | 11,802 |
29.54% ↑
|
2016年 | 9,111 |
46.76% ↑
|
2015年 | 6,208 |
25.14% ↑
|
2014年 | 4,961 |
43.1% ↑
|
2013年 | 3,467 |
-17.87% ↓
|
2012年 | 4,221 |
-7.91% ↓
|
2011年 | 4,584 |
-10.16% ↓
|
2010年 | 5,102 |
-10.49% ↓
|
2009年 | 5,700 |
-19.72% ↓
|
2008年 | 7,100 | - |
2007年 | 7,100 |
22.41% ↑
|
2006年 | 5,800 |
-46.3% ↓
|
2005年 | 10,800 |
20% ↑
|
2004年 | 9,000 |
-70.1% ↓
|
2003年 | 30,100 |
-13.01% ↓
|
2002年 | 34,600 |
220.37% ↑
|
2001年 | 10,800 |
31.71% ↑
|
2000年 | 8,200 |
-49.69% ↓
|
1999年 | 16,300 |
7.95% ↑
|
1998年 | 15,100 |
-59.12% ↓
|
1997年 | 36,941 |
-3.85% ↓
|
1996年 | 38,420 |
16.42% ↑
|
1995年 | 33,000 |
1.16% ↑
|
1994年 | 32,620 |
8.73% ↑
|
1993年 | 30,000 |
5.39% ↑
|
1992年 | 28,465 |
1.66% ↑
|
1991年 | 28,000 |
12% ↑
|
1990年 | 25,000 |
12.39% ↑
|
1989年 | 22,243 |
10.83% ↑
|
1988年 | 20,069 |
7.9% ↑
|
1987年 | 18,600 |
16.25% ↑
|
1986年 | 16,000 |
14.29% ↑
|
1985年 | 14,000 |
16.67% ↑
|
1984年 | 12,000 |
20% ↑
|
1983年 | 10,000 |
13.64% ↑
|
1982年 | 8,800 |
-12% ↓
|
1981年 | 10,000 | - |
1980年 | 10,000 | - |
1979年 | 10,000 | - |
1978年 | 10,000 | - |
1977年 | 10,000 | - |
1976年 | 10,000 | - |
1975年 | 10,000 |
10% ↑
|
1974年 | 9,091 |
-27.65% ↓
|
1973年 | 12,566 |
19.73% ↑
|
1972年 | 10,495 |
-22.41% ↓
|
1971年 | 13,527 |
-11.79% ↓
|
1970年 | 15,335 |
24.92% ↑
|
1969年 | 12,276 |
16.74% ↑
|
1968年 | 10,516 |
-15.79% ↓
|
1967年 | 12,488 |
4.07% ↑
|
1966年 | 12,000 |
110.53% ↑
|
1965年 | 5,700 |
3.64% ↑
|
1964年 | 5,500 |
-8.33% ↓
|
1963年 | 6,000 |
-33.33% ↓
|
1962年 | 9,000 |
28.57% ↑
|
1961年 | 7,000 | - |
レバノンにおけるニンジンやカブ類の生産量の推移は、国の農業政策や地政学的リスク、経済情勢、気候条件の影響を強く反映しています。1960年代から1980年代半ばまでは、比較的安定した生産量の増加が見られました。例えば、1961年に7,000トンだった生産量は、1990年には25,000トンに達し、その後も1996年の38,420トンまで続きました。この成長期は恐らく、国の農業拡大政策や地域需要の高まり、土地の利用状況が安定していたことが背景にあると考えられます。
しかし、1998年以降に一転して急激な減少を見せ、特に2000年代初頭と2006年以降は長期的な低迷が続いています。その要因としては、政治的な不安定さや経済危機が大きく影響しているとみられます。内戦や国際的な緊張などの地政学的リスクが農業全体への投資や輸出活動を停滞させた可能性があります。また、農作物生産に不可欠な水資源が、気候変動やインフラ不足により十分ではないことも課題といえるでしょう。
特に注目すべき点は、2011年以降の生産量減少が非常に顕著であることです。2011年の「アラブの春」やその影響でレバノンにも波及した社会不安、経済的混乱の時期と一致しています。同時に気候変動による降水量不足や灌漑設備の遅れも、生産性の低下に拍車をかけたと推察されます。
この生産量の減少は、国内の食料安全保障や農村部の生計の維持に悪影響を及ぼしています。ニンジンおよびカブ類は国内市場だけでなく、農村経済にとって重要な収入源でもあります。これが低迷することにより、国内全体の食糧供給の多様性が失われつつあり、さらに輸入依存度が高まるリスクを抱えています。
解決策として、レバノンはまず灌漑インフラの強化や耕地整備を進めることが急務です。また、地域協力を通じて農業技術や新しい耐乾性作物品種の導入を促進することが重要です。たとえば近隣のトルコやイスラエルでは、乾燥地農業の先進的な取り組みが進められており、こうした技術を参考にすることで生産効率を向上させる可能性があります。また、国際的支援を受けることで、広域的な水資源管理プロジェクトを推進することも効果的です。
また、適切な農業政策の立案および実施が求められます。そのためには、長期的な農業振興計画のみならず、緊急時に対応できるクッション政策の整備が必要です。具体的には、気候変動による天候リスクを分散するための保険制度の整備といった取り組みが考えられます。
さらに、近年の生産低迷を受けて、農民自身が農業以外の収入源に依存せざるを得なくなるケースもあります。こうした事態を防ぐため、農村部の教育支援や、新たな収益機会の創出に向けた取り組みも欠かせません。
結論として、レバノンのニンジン・カブ類生産量の減少は、地政学的要因や気候変動、農業政策の不十分さによる複合的な結果といえます。国内外の利害関係者が連携して農業基盤の再構築に取り組むことでのみ、この難局を乗り越えることができるでしょう。