国際連合食糧農業機関(FAO)が報告したチュニジアのヤギ飼養頭数データによれば、1960年代から2020年代にかけて全体的に増加傾向を見せています。特に1970年代から1990年代半ばにかけて急激な増加がみられますが、その後は緩やかな増加から安定期を経て、2010年代以降は減少傾向が顕著になっています。この長期的な推移は、農業政策や地域経済、気候の変化、さらには社会的要因の影響を反映していると解釈できます。
チュニジアのヤギ飼養頭数推移(1961-2022)
年度 | 飼養頭数(頭) |
---|---|
2022年 | 1,165,485 |
2021年 | 1,178,965 |
2020年 | 1,204,211 |
2019年 | 1,218,440 |
2018年 | 1,197,000 |
2017年 | 1,184,600 |
2016年 | 1,184,600 |
2015年 | 1,199,500 |
2014年 | 1,248,200 |
2013年 | 1,248,180 |
2012年 | 1,272,460 |
2011年 | 1,282,080 |
2010年 | 1,295,940 |
2009年 | 1,454,640 |
2008年 | 1,496,290 |
2007年 | 1,550,650 |
2006年 | 1,497,410 |
2005年 | 1,426,640 |
2004年 | 1,411,550 |
2003年 | 1,379,000 |
2002年 | 1,449,000 |
2001年 | 1,450,000 |
2000年 | 1,447,590 |
1999年 | 1,314,800 |
1998年 | 1,232,000 |
1997年 | 1,260,670 |
1996年 | 1,468,000 |
1995年 | 1,204,900 |
1994年 | 1,351,300 |
1993年 | 1,416,780 |
1992年 | 1,350,000 |
1991年 | 1,313,100 |
1990年 | 1,279,200 |
1989年 | 1,184,200 |
1988年 | 1,097,500 |
1987年 | 1,155,000 |
1986年 | 1,047,000 |
1985年 | 1,154,000 |
1984年 | 1,069,000 |
1983年 | 1,002,000 |
1982年 | 916,500 |
1981年 | 788,000 |
1980年 | 922,000 |
1979年 | 755,000 |
1978年 | 1,013,000 |
1977年 | 1,082,000 |
1976年 | 1,052,000 |
1975年 | 840,000 |
1974年 | 840,000 |
1973年 | 770,000 |
1972年 | 1,040,000 |
1971年 | 920,000 |
1970年 | 630,000 |
1969年 | 390,000 |
1968年 | 480,000 |
1967年 | 490,000 |
1966年 | 527,000 |
1965年 | 475,000 |
1964年 | 428,000 |
1963年 | 460,000 |
1962年 | 500,000 |
1961年 | 550,000 |
1960年代においてチュニジアのヤギ飼養頭数は平均して40万~60万頭の間で推移しており、特に1960年代後半には40万頭以下にまで減少した年も散見されます。この時期の減少は、農業技術の過渡期や気候条件の変動、さらにはヤギ以外の家畜に重点を置いた農業経営の変化によるものと考えられます。しかし1970年に入ると一転して増加に転じ、1976年には100万頭を突破。その後1980年代から1990年代中盤に至るまで、飼養頭数は急速に拡大を続け、1996年には146万8千頭を超えるピークを記録しました。
この急激な増加は、チュニジア政府による遊牧民の経済支援や農村部への畜産奨励政策が影響した可能性が高いです。また、都市化が進む中で、ヤギを含む家畜製品への市場需要が成長を促したことも一因と考えられます。しかし、1996年以降は波がありながらもやや減少傾向が目立つようになります。2000年以降、頭数は140万頭前後を中心に安定し始めましたが、2010年代になると再び減少に転じました。2022年のデータでは116万5千485頭と記録され、これは1996年比で約20%減少しています。
この減少傾向にはいくつかの要因が考えられます。第一に、気候変動による干ばつや降雨量の不安定さが牧草地の減少につながり、ヤギの飼養能力に悪影響を与えた可能性があります。特にチュニジアは地中海性気候と砂漠性気候を併せ持っており、土地管理が適切に行われなければ持続可能な畜産は困難とされます。第二に、農村離れによる生産人口の縮小や、農業から他産業への転換が一部の飼養業者に及ぼす影響も無視できません。さらに、輸入家畜製品の競争力拡大により、地元生産の経済的優位性が低下した可能性も考えられます。
一方で、2022年の時点で依然として約120万頭近くのヤギが飼育されていることは、農村開発や地域活性化の上でヤギ飼養が依然重要な役割を果たしているという証拠ともなり得ます。多くの小規模農家にとって、ヤギは肉や乳製品の生産だけでなく、現金収入の手段としても重要です。また、ヤギの飼養には比較的少ない餌と適応性の高い経営が求められる点も、チュニジアのような乾燥地での畜産振興において強みとなっています。
将来的な課題としては、この減少傾向にどう対応していくかが挙げられます。まず、気候変動に対応した牧草管理や飼料生産技術の向上が求められます。例えば、乾燥耐性の強い牧草の導入や、効率的な灌漑技術を利用することで、既存の牧草地の持続可能性を確保する取り組みが考えられます。また、農家支援政策を再検討し、小規模農家が直面する収入や資金面の問題を解決するための新しい補助金や経済的インセンティブを提供することが重要です。
さらに、地域間協力を強化することで、他の地中海地域で成功している事例から学ぶことができます。例えば、イタリアやスペインでは高附加価値の乳製品を生産することで、ヤギ飼育が観光産業と結びつけられている例があります。チュニジアでも類似のモデルを導入することで、農村に活気を取り戻すことができるかもしれません。
最後に、地政学リスクや疫病、自然災害など外部要因も考慮に入れる必要があります。中東・北アフリカ地域は過去にも政治的不安定による物流の混乱や畜産需要の変化を経験しており、これが今後のヤギ飼養頭数推移に直接的または間接的に影響する可能性があります。そのため、将来を見据えた柔軟な政策決定が重要です。
結論として、このデータはチュニジアのヤギ飼養が国家的な農業政策や地理的条件に敏感に影響されていることを示しています。同国が持つ自然条件と農村地域の特徴を最大限に活用しつつ、技術革新や国際的協力の枠組みを強化することが、持続可能な発展の鍵となるのではないでしょうか。