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ボスニア・ヘルツェゴビナのヤギ飼養頭数推移(1961-2022)

国際連合食糧農業機関(FAO)の最新データによると、ボスニア・ヘルツェゴビナのヤギ飼養頭数は、1990年代初頭に増加傾向を示し、1997年には170,000頭というピークに達しました。その後は急激な減少を見せ、2021年には48,372頭、2022年にはさらに減少して44,588頭に落ち込んでいます。この推移は、地域的な社会経済的要因や地政学的背景、さらには新型コロナウイルスの影響など、複数の要因が絡み合っていることを示唆しています。

年度 飼養頭数(頭)
2022年 44,588
2021年 48,372
2020年 71,336
2019年 72,362
2018年 73,038
2017年 73,287
2016年 74,712
2015年 72,823
2014年 74,000
2013年 69,369
2012年 65,375
2011年 65,260
2010年 64,250
2009年 70,604
2008年 70,392
2007年 70,255
2006年 76,489
2005年 73,474
2004年 72,452
2003年 81,000
2002年 86,000
2001年 101,000
2000年 97,700
1999年 102,000
1998年 111,000
1997年 170,000
1996年 136,800
1995年 124,400
1994年 107,800
1993年 92,300
1992年 80,800

ボスニア・ヘルツェゴビナのヤギ飼養頭数の推移を検討すると、1992年から1997年にかけて飼養頭数は急激に増加していることが分かります。特に1997年には170,000頭というピークを迎え、この期間はヤギの需要や畜産業の活性化が顕著であったと考えられます。この背景には、ボスニア戦争(1992年から1995年)後の復興期において、農村部の小規模畜産業が生活基盤として確立されたことが影響している可能性があります。戦争による食糧不足や畜産物需要の増加が、ヤギの飼育を押し上げた要因とも考えられます。

一方で、1998年以降、飼養頭数は減少に転じ、2004年までには72,452頭まで減少しました。この減少には、地域の社会経済的変化、都市化の進行、自給的農業の衰退、さらには農業政策の転換が影響していると考えられます。また、世界全体の農業の機械化や効率化の進展とともに、小規模畜産業の競争力が低下したことも関係しています。

その後、飼養頭数は70,000頭前後で安定するものの、2020年以降に急激に減少しています。2021年には48,372頭、2022年には44,588頭と、過去最少の水準にまで落ち込みました。この近年の顕著な減少に関しては、新型コロナウイルスの影響が関係していると考えられます。パンデミックにより畜産資材の調達が困難になったことや、経済不況による需要の低下、さらには疫病が家畜飼育環境に悪影響を及ぼした可能性が挙げられます。

ヤギ飼育の減少は、地域経済や農村部の自給的農業の持続可能性に深刻な影響を与える恐れがあります。ヤギは持続的な生活資源であり、その畜産業は食料供給の安定、農村の雇用確保、あるいは土壌の保全において重要な役割を果たします。そのため、この減少傾向を食い止めるためには、いくつかの具体的な対策が必要です。

まず、農業従事者に対する技術指導や資金支援の強化が求められます。政府や国際機関がプロジェクトを組み、家畜の管理技術や飼料の効率的利用法を普及させることは有効です。次に、ヤギ乳や肉の市場需要拡大を図るための国内外マーケティング戦略を立案することも重要です。農産物のブランド化や輸出促進策を通じて、ヤギ関連商品が競争力を持つように整備する必要があります。

さらに、飼育環境の改善や疫病対策を講じることで、飼育の安定化を図ることができます。例えば、ヤギの健康管理を強化し、感染症への予防措置を徹底するための獣医サービスを拡大します。また、気候変動による飼料農業への影響を軽減するために、気候変動適応型農業の導入を進めることも急務です。

地政学的には、この地域が抱える長期的な社会不安や経済格差が農業に及ぼす圧力も無視できません。ボスニア・ヘルツェゴビナは、多民族国家としての性格が複雑な政治構造に起因する政策課題を抱えています。このような背景を踏まえ、地域間の協力を進め、農業の安定支援策を国際的に推進することが望まれます。

結論として、ボスニア・ヘルツェゴビナにおけるヤギ飼育の減少は、単なる経済問題に留まらず、農村地域の持続可能性や社会的安定にも影響を及ぼす重要な課題です。今後、国際機関の支援や政策立案を通じて、多角的なアプローチによる解決が求められます。これにより、小規模畜産業の復興と地域の発展を同時に実現する未来を築ける可能性があります。