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ポルトガルのヤギ飼養頭数推移(1961年~2023年)

国際連合食糧農業機関(FAO)が発表した最新データによると、ポルトガルのヤギ飼養頭数は過去60年以上の間で大きな変動を見せています。1961年には約60万頭で推移していましたが、1980年代後半にかけて上昇傾向を示し一時80万頭を超えた後、1990年代以降減少を続け、近年では30万頭台にまで落ち込みました。このデータは、農業形態の変化や気候変動、経済状況など様々な要因がヤギ飼養の動態に影響を与えていることを示しています。

年度 飼養頭数(頭) 増減率
2023年 335,620
-4.67% ↓
2022年 352,050
0.45% ↑
2021年 350,470
-4.87% ↓
2020年 368,420
16.41% ↑
2019年 316,480
-4.84% ↓
2018年 332,590
-2.18% ↓
2017年 340,000
-2.02% ↓
2016年 347,000
-6.97% ↓
2015年 373,000
-2.36% ↓
2014年 382,000
-4.02% ↓
2013年 398,000
-1.49% ↓
2012年 404,000
-2.18% ↓
2011年 413,000
-1.43% ↓
2010年 419,000
-1.41% ↓
2009年 425,000
-1.85% ↓
2008年 433,000
-1.37% ↓
2007年 439,000
-6.2% ↓
2006年 468,000
-1.47% ↓
2005年 475,000
1.06% ↑
2004年 470,000
5.86% ↑
2003年 444,000
-5.53% ↓
2002年 470,000
-3.89% ↓
2001年 489,000
-22.38% ↓
2000年 630,000
-6.8% ↓
1999年 676,000
0.45% ↑
1998年 673,000
-0.59% ↓
1997年 677,000
-3.84% ↓
1996年 704,000
-2.36% ↓
1995年 721,000
-0.55% ↓
1994年 725,000
-4.86% ↓
1993年 762,000
-1.3% ↓
1992年 772,000
-3.14% ↓
1991年 797,000
-7% ↓
1990年 857,000
2.02% ↑
1989年 840,000
3.96% ↑
1988年 808,000
1% ↑
1987年 800,000
7.38% ↑
1986年 745,000 -
1985年 745,000 -
1984年 745,000 -
1983年 745,000 -
1982年 745,000
-0.67% ↓
1981年 750,000
2.32% ↑
1980年 733,000
-1.61% ↓
1979年 745,000
-17.77% ↓
1978年 906,000
22.43% ↑
1977年 740,000
7.25% ↑
1976年 690,000
1.81% ↑
1975年 677,700
-8.17% ↓
1974年 738,000
-2.69% ↓
1973年 758,394
0.44% ↑
1972年 755,044
8.56% ↑
1971年 695,500
4.67% ↑
1970年 664,500
3.26% ↑
1969年 643,500
16.35% ↑
1968年 553,080
-1.46% ↓
1967年 561,300
-1.58% ↓
1966年 570,300
0.05% ↑
1965年 570,000
-1.72% ↓
1964年 580,000
2.41% ↑
1963年 566,340
-3.44% ↓
1962年 586,490
-3.32% ↓
1961年 606,640 -

ポルトガルにおけるヤギ飼養頭数の推移を見てみると、1961年段階で606,640頭あった飼養頭数は1970年代にかけて増加し、1972年には755,044頭、1978年には906,000頭とピークに達しました。しかしその後、1980年代前半に700,000頭台で安定するものの、1990年代以降は持続的な減少傾向が見られるようになります。2022年のデータでは、352,050頭とピーク時の約39%にまで減少しており、特に2000年代以降の減り方が顕著です。

この減少の背景には、いくつかの要素が絡んでいると考えられます。一つは、農業構造の大きな変化です。都市化が進むにつれ、農業の従事者が減少することで伝統的なヤギの飼養が衰退してきました。また、経済発展に伴う農業生産の工業化が進むことで、ヤギ飼育のように労働集約的な活動が採算性の低いものとなり、その重要性が薄れてきたことも一因と言えます。さらに、気候変動がヨーロッパ南部に与えた影響は無視できません。ポルトガルを含む地中海地域は乾燥化が進んでおり、ヤギの餌となる自然資源の減少が生産性低下を招いています。

一方で、2020年には368,420頭まで一時的に増加しています。この年は新型コロナウイルス感染症の流行により、地域に根付いた食材や地元生産に対する需要が増加した可能性があります。しかし、これは一時的な動きとみられ、その後の2021年と2022年には再び減少しています。このことから、持続的な改善策が取られない限り、長期的な回復は難しいと考えられます。

ヤギ飼養頭数の減少には地政学的な背景も密接に関連しています。たとえば、ヨーロッパの共通農業政策(CAP)の補助金が大規模農業や高付加価値作物に集中する一方、小規模かつ伝統的な畜産業への優先度が下がることで、ヤギ飼育が不利な立場に置かれています。また、ポルトガルのような地中海地域では、紛争や貿易摩擦により飼料や農業資材の輸入が滞るリスクが増大しており、これがさらなる影響を及ぼす可能性があります。

これらの課題に対して、いくつかの具体的な対策が考えられます。一つには、伝統的なヤギ飼育を支える政策の強化です。例えば、小規模農家への補助金提供や若者の農業参入を促す融資制度の整備、ヤギ乳や肉の特徴を生かした高付加価値製品の開発支援が挙げられます。また、地域間協力のさらなる推進も重要です。特に乾燥化という共通課題を抱える地中海沿岸諸国と連携し、持続可能な農業技術を共有することで、気候変動への適応能力を向上させることができます。

気候変動への対応策としては、耐乾燥性の高い新品種の開発や、餌資源の確保を目的とした植生管理の導入が必要です。また、都市市場にローカルフードを供給することで農村と都市の経済をつなぐ取り組みは、長期的にはヤギ飼育の収益性を向上させる助けになるでしょう。

結論として、ポルトガルのヤギ飼養頭数の減少は農業や気候の構造的変化を反映したもので、単純な市場の問題の枠を越えた多層的な課題を含んでいます。この動きに逆行するためには、経済・社会・環境の各側面から、包括的なアプローチが求められます。国や国際機関は、ヤギ飼育のような伝統文化が途絶えることなく、持続可能な形で後世へ引き継がれていくための政策の策定を急ぐ必要があります。