国連食糧農業機関(FAO)のデータによると、ボスニア・ヘルツェゴビナの豚飼育数は過去30年間で大きな波を描きつつ推移しており、最も少ない年は1997年の320,000頭、最も多い年は2006年の709,648頭でした。2010年代以降は比較的安定していましたが、2022年には471,555頭まで減少しています。このデータは、内戦の影響や食品需要、経済状況、そして近年の疫病や地政学的リスクの影響を反映しているものと考えられます。
ボスニア・ヘルツェゴビナの豚飼育数推移(1961-2022)
年度 | 飼育数(頭) |
---|---|
2022年 | 471,555 |
2021年 | 555,792 |
2020年 | 546,771 |
2019年 | 543,357 |
2018年 | 541,526 |
2017年 | 548,011 |
2016年 | 544,893 |
2015年 | 564,251 |
2014年 | 533,000 |
2013年 | 529,644 |
2012年 | 538,990 |
2011年 | 576,789 |
2010年 | 590,431 |
2009年 | 529,095 |
2008年 | 502,197 |
2007年 | 534,764 |
2006年 | 709,648 |
2005年 | 653,343 |
2004年 | 595,171 |
2003年 | 540,000 |
2002年 | 500,000 |
2001年 | 483,000 |
2000年 | 450,000 |
1999年 | 400,000 |
1998年 | 372,654 |
1997年 | 320,000 |
1996年 | 350,000 |
1995年 | 400,000 |
1994年 | 435,000 |
1993年 | 430,000 |
1992年 | 430,000 |
ボスニア・ヘルツェゴビナの豚飼育数の推移を検討すると、1990年代から2000年代初頭にかけて、大きな変動が見られます。1992年から1997年には飼育数が減少傾向を示しており、1997年では最低値の320,000頭を記録しました。この期間は1992年から1995年の間に発生したボスニア紛争の最中およびその後に当たり、人々の生活基盤が破壊され、農業生産が厳しく制限されたことが背景にあります。紛争後の1998年から2006年の間にかけて豚飼育数は回復を見せ、特に2006年に709,648頭という過去最高値に至りました。この期間は、紛争後の復興と農業部門への政府または国際支援が集中した時期と一致します。
しかし、2007年以降は再び減少へ転じ、その後2010年代には概ね安定した状況が続きました。しかしながら、この安定にもかかわらず2010年以降の数値は2006年のピークには遠く及んでいません。この要因には、食品市場の国際競争激化、欧州連合(EU)近隣諸国からの輸入増加、ボスニア国内の経済的不安定さ、さらには持続的な農業への投資不足が影響していると考えられます。
2022年には471,555頭と急減しました。この年の減少には、近隣諸国で発生したアフリカ豚熱(ASF)の影響が無視できません。この疫病は直接的な伝染を防ぐために豚の大量処分や流通制限を生じさせ、周辺の農産業に深刻な打撃を与えました。同時に、世界的なコロナ禍の余波により、物流や消費構造が歪む中で、ボスニア国内の畜産農家の運営が難しくなった可能性もあります。
ボスニアの豚飼育数の特徴は、その地政学的な背景に強く影響を受けている点です。国内外の農業政策や欧州での貿易事情、そして紛争の影響が畜産業に与えた影響は決して小さくありません。また、豚肉需要の減少や農村からの人口流出といった社会的背景も影響していることが示唆されます。
今後の課題として、ボスニアが持続可能かつ安定した豚飼育産業を維持するためには、以下の具体的な対策が求められます。第一に、国内外の疫病リスクを軽減するための防疫体制の強化が必要です。これには、豚の健康状態を監視するシステムの整備や、近隣諸国と協力した疫病対策協定の促進が含まれます。第二に、農業技術や設備への投資を増やし、人手不足を補うためのスマート農業技術を導入することが効果的です。これにより、生産効率を向上させるだけでなく、若年層の農業参加を促すことも期待できます。さらに、ボスニア政府や国際機関が連携し、農業部門における資金援助プログラムや生産者組合の設立を支援することも重要です。
平和で安定した環境下で農業が発展するためには、何よりもまず持続可能性を追求する政策が不可欠です。豚飼育数の増加は単なる数字の好転を超え、地元の経済や食糧安全保障にも寄与します。従って、政府と地域社会、国際機関が連携して包括的な対策を講じることが必要です。ボスニア・ヘルツェゴビナのような農業依存度の高い国にとって、この取り組みは将来の繁栄の鍵となるでしょう。