Food and Agriculture Organization(国際連合食糧農業機関)が発表した最新のデータによると、モロッコでは豚の飼育数が1961年には55,000頭に達していましたが、その後急激に減少しました。1970年代以降は著しい減少が緩やかになり、1990年代以降2020年代にかけては8,000頭前後で安定しています。このようにモロッコの豚飼育数は過去60年以上にわたる劇的な減少と、その後の横ばい状態が特徴です。このデータからは、豚飼育がモロッコの農業や社会において特殊な位置付けであることがうかがえます。
モロッコの豚飼育数推移(1961-2022)
年度 | 飼育数(頭) |
---|---|
2022年 | 7,895 |
2021年 | 7,902 |
2020年 | 7,909 |
2019年 | 7,869 |
2018年 | 7,866 |
2017年 | 7,909 |
2016年 | 7,948 |
2015年 | 7,979 |
2014年 | 8,000 |
2013年 | 8,000 |
2012年 | 8,000 |
2011年 | 8,250 |
2010年 | 8,500 |
2009年 | 8,000 |
2008年 | 8,000 |
2007年 | 8,000 |
2006年 | 8,000 |
2005年 | 8,000 |
2004年 | 8,000 |
2003年 | 8,000 |
2002年 | 8,000 |
2001年 | 8,000 |
2000年 | 8,000 |
1999年 | 8,000 |
1998年 | 8,000 |
1997年 | 9,500 |
1996年 | 9,500 |
1995年 | 9,500 |
1994年 | 9,500 |
1993年 | 9,500 |
1992年 | 9,300 |
1991年 | 9,200 |
1990年 | 8,900 |
1989年 | 8,700 |
1988年 | 8,600 |
1987年 | 8,500 |
1986年 | 8,100 |
1985年 | 8,000 |
1984年 | 7,600 |
1983年 | 7,200 |
1982年 | 7,300 |
1981年 | 6,200 |
1980年 | 7,400 |
1979年 | 7,400 |
1978年 | 8,100 |
1977年 | 9,600 |
1976年 | 7,000 |
1975年 | 7,700 |
1974年 | 13,800 |
1973年 | 24,000 |
1972年 | 30,800 |
1971年 | 28,500 |
1970年 | 21,500 |
1969年 | 23,000 |
1968年 | 18,000 |
1967年 | 12,000 |
1966年 | 11,000 |
1965年 | 16,000 |
1964年 | 20,000 |
1963年 | 20,000 |
1962年 | 36,000 |
1961年 | 55,000 |
モロッコの豚飼育数推移データは、宗教的、文化的、地理的、経済的な要因が複合的に影響している現象を映し出しています。1961年には55,000頭と高水準を保っていた飼育数が、1962年から急激に減少し、1975年に7,700頭まで落ち込みます。これは、宗教的背景とそれに伴う社会的な価値観の変容が主な要因と考えられます。モロッコを含む北アフリカ地域ではイスラム教が広く支持されており、イスラム教では豚肉の摂取が禁じられています。そのため、国民の需要が低く、養豚業が大規模な収益源とはならない事情があります。
1970年代以降、豚の飼育数の減少スピードは落ち着きを見せ、1980年代から1990年代にかけてはおおむね8,000頭前後で横ばい状態となりました。この時期には、畜産業自体がモロッコ経済において確固たる基盤を持ったものの、豚飼育は食料供給上の主力分野ではなく、一部の非イスラム教徒や特定の目的(輸出、研究、飼育実験など)のために行われている特殊な産業であると考えられます。
また、2000年代以降もその数値に大きな変化はありません。この安定した横ばい傾向には、国際的な経済圏の変化や飼育コストの増加、輸出ニーズの低迷などの経済要因が影響を与えていると推測されます。さらに、豚肉を主食材とする文化を持つ他国、例えばヨーロッパやアジアのいくつかの国々との競争力の違いも一因です。モロッコの地政学的立場では、広範な干ばつや水資源の不足が農業全般に影響を及ぼしており、この点は豚の飼育においても課題となります。
将来的な課題としては、モロッコの農業政策における非主流の家畜産業の存続と適切な資源配分が挙げられます。豚飼育業は既に非常にニッチな分野ですが、文化的制約や経済的条件を踏まえた上で、他の家畜産業や代替する産業への転換が検討される可能性があります。豚以外の動物や作物の生産を増やすことで、将来的な水資源や土地利用を最適化することが重要です。
さらに、新型コロナウイルス感染症の流行や気候変動の影響が家畜飼育に与えた影響を評価することも欠かせません。2020年以降、大部分のデータが飼育数の極端な変動を示していないことは注目に値しますが、小型の農場での運営が増えたことや、飼育事業の転換による影響が潜在的に存在する可能性もあります。
今後については、地理的条件や文化的背景を考慮し、モロッコの養豚業が特殊な役割を担うニッチ産業となるのか、それとも他の経済セクターに統合されるのか慎重に見極める必要があります。国際機関や当局は小規模農家のライフスタイルを尊重しつつ、持続可能な農業戦略を策定するべきです。資源効率化や技術支援を進めるための国際的な協力が鍵を握るでしょう。