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朝鮮民主主義人民共和国の牛乳生産量推移(1961年~2022年)

国際連合食糧農業機関(FAO)が発表した2024年最新データによると、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)の牛乳生産量は、1960年代から1980年代にかけて着実に増加し、1990年代初頭には年間90,000トン近くまで達しました。しかし、1990年代半ばから減少し始め、その後減少と増加を繰り返しながら、2020年代においては80,000トン台で横ばいの状況が続いています。この推移は、北朝鮮経済の構造的課題や外部環境の影響を色濃く反映していると考えられます。

年度 生産量(トン) 増減率
2022年 83,330
-1.16% ↓
2021年 84,311
-0.16% ↓
2020年 84,445
0.46% ↑
2019年 84,059
0.33% ↑
2018年 83,780
0.1% ↑
2017年 83,698
0.35% ↑
2016年 83,408
0.31% ↑
2015年 83,148
-0.05% ↓
2014年 83,188
-15.11% ↓
2013年 98,000 -
2012年 98,000
2.08% ↑
2011年 96,000
3.01% ↑
2010年 93,196
-3.92% ↓
2009年 97,000
1.04% ↑
2008年 96,000
-1.03% ↓
2007年 97,000
1.04% ↑
2006年 96,000
16.86% ↑
2005年 82,152
-11.78% ↓
2004年 93,119
-0.94% ↓
2003年 94,000
13.9% ↑
2002年 82,531
-10.29% ↓
2001年 92,000
2.22% ↑
2000年 90,000
4.65% ↑
1999年 86,000
1.18% ↑
1998年 85,000
7.59% ↑
1997年 79,002
-1.25% ↓
1996年 80,000
-5.88% ↓
1995年 85,000
-5.56% ↓
1994年 90,000
5.88% ↑
1993年 85,000
-8.6% ↓
1992年 93,000
3.33% ↑
1991年 90,000
2.27% ↑
1990年 88,000
2.33% ↑
1989年 86,000
1.18% ↑
1988年 85,000
2.41% ↑
1987年 83,000
3.75% ↑
1986年 80,000
6.67% ↑
1985年 75,000
7.14% ↑
1984年 70,000
2.94% ↑
1983年 68,000
9.68% ↑
1982年 62,000
3.33% ↑
1981年 60,000
11.11% ↑
1980年 54,000
8% ↑
1979年 50,000
19.05% ↑
1978年 42,000
16.67% ↑
1977年 36,000
20% ↑
1976年 30,000
15.38% ↑
1975年 26,000
8.33% ↑
1974年 24,000
9.09% ↑
1973年 22,000
10% ↑
1972年 20,000
11.11% ↑
1971年 18,000
12.5% ↑
1970年 16,000
6.67% ↑
1969年 15,000
36.36% ↑
1968年 11,000
22.22% ↑
1967年 9,000
28.57% ↑
1966年 7,000
40% ↑
1965年 5,000
33.33% ↑
1964年 3,750
50% ↑
1963年 2,500
4.17% ↑
1962年 2,400
14.29% ↑
1961年 2,100 -

北朝鮮の牛乳生産量の推移は、同国の経済的背景や地政学的リスク、社会環境を反映した動向となっています。1960年代の初期、牛乳生産量は2,000トン台に過ぎませんでしたが、1970~1980年代には社会主義計画経済に基づく農業政策の強化により、急激に伸びを見せ、1980年代の終盤には90,000トン近くに達しました。このような成長は、国の広範囲にわたる酪農インフラ整備や、食糧安全保障に対する政府の優先政策によるものであり、同時に家畜の生産基盤の向上も進められていたと推測されます。

一方で、1990年代に入ると、急激な生産量の減退が見られました。この背景には、冷戦終結による主要貿易相手国との経済関係の悪化や、国内的な経済困難が影響を与えたと考えられます。特に1995年以降の減少は、同時期に起こった自然災害や食糧危機だけでなく、生産効率の低下、生産設備の老朽化、および国際経済制裁の影響も無視できません。この時期の急激な減少は、国家の酪農業がどれほど外部環境に脆弱であるかを示唆しています。

その後、2000年代以降はおおむね80,000トン前後を維持する横ばい傾向が続いていますが、2020年代初期には微減が見られます。これは、国内資源の不足、効率的な流通網とインフラの欠如、そして地政学的緊張がもたらす貿易制限といった複合的な要因によるものと考えられます。牛乳はたんぱく質やカルシウムといった重要な栄養素を提供するため、国内における生産の停滞は人々の栄養不足のリスクを高める一因となっています。

北朝鮮の牛乳生産量を他国と比較すると、例えば中国や韓国では同時期に牛乳生産が大幅に拡大してきました。中国は急速な都市化と経済成長に伴い、2020年代には年間3,000万トンを超える生産を記録しています。一方で韓国も年間200万トン規模を維持しており、いずれも国内外への安定供給を実現しています。対照的に北朝鮮では技術水準の向上や効率的な生産体制の整備が行われていない状況が浮き彫りになります。

この伸び悩みを克服するためには、いくつかの具体的な対策が考えられます。例えば、まず優先すべきことは、国内の酪農業技術の改善です。高度な酪農技術を取り入れることにより、飼料の利用効率向上や家畜の健康管理の徹底が可能となります。また、地政学的な背景から生じる資源や資材の制限を補うため、国際間での技術協力体制を促進することが課題です。隣国である中国やロシアからの技術支援を活用することは、短期的な解決策として有効でしょう。

併せて、長期的な視点からは、インフラ整備への大規模な投資が欠かせません。冷蔵輸送システムや乳製品加工施設の発展によって、物流の効率化と多様な乳製品の生産が可能となります。また、政府が政策的に酪農家への財政支援や教育機会の提供に力を入れることで、持続的な生産基盤を築けると考えられます。

さらに、疫病対策や自然災害への適応力を高めるためには、気候変動への対応という現代の課題も視野に入れた取り組みが必要です。これには種子の遺伝資源保護、適応型農業技術の開発などが含まれます。

以上の分析を踏まえ、北朝鮮における牛乳生産量の現状は、停滞から抜け出すための多角的な努力を必要としています。持続可能な酪農業を確立するためには、国内外の協力と一貫した政策の実行が鍵となるでしょう。