国際連合食糧農業機関(FAO)が発表した最新のデータによると、アンティグア・バーブーダにおける牛乳の生産量は、1961年から1980年代半ばにかけて増加傾向を示し、ピークとなる1985年には6,200トンに達しました。しかし、それ以降は全体的に減少傾向を見せ、2022年には1,970トンと、60年余りで最低水準に落ち込みました。この減少は特に2010年代後半から加速しており、産業として重大な転換期を迎えていると言えます。
アンティグア・バーブーダの牛乳生産量推移(1961年~2022年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
---|---|---|
2022年 | 1,970 |
-2.4% ↓
|
2021年 | 2,019 |
-2.32% ↓
|
2020年 | 2,066 |
-3.43% ↓
|
2019年 | 2,140 |
-15.36% ↓
|
2018年 | 2,528 |
-18.44% ↓
|
2017年 | 3,100 |
1.64% ↑
|
2016年 | 3,050 |
5.17% ↑
|
2015年 | 2,900 |
-6.45% ↓
|
2014年 | 3,100 |
1.64% ↑
|
2013年 | 3,050 |
-1.61% ↓
|
2012年 | 3,100 | - |
2011年 | 3,100 |
7.03% ↑
|
2010年 | 2,896 |
-47.81% ↓
|
2009年 | 5,550 |
-1.6% ↓
|
2008年 | 5,640 |
4.44% ↑
|
2007年 | 5,400 |
-11.52% ↓
|
2006年 | 6,103 |
0.06% ↑
|
2005年 | 6,099 |
0.06% ↑
|
2004年 | 6,095 |
1.74% ↑
|
2003年 | 5,991 |
11.99% ↑
|
2002年 | 5,350 |
-8.55% ↓
|
2001年 | 5,850 |
2.71% ↑
|
2000年 | 5,696 |
-1.95% ↓
|
1999年 | 5,809 |
9.61% ↑
|
1998年 | 5,300 |
-1.85% ↓
|
1997年 | 5,400 |
-3.57% ↓
|
1996年 | 5,600 |
-6.67% ↓
|
1995年 | 6,000 |
-9.3% ↓
|
1994年 | 6,615 |
0.06% ↑
|
1993年 | 6,611 |
12.05% ↑
|
1992年 | 5,900 |
-10.65% ↓
|
1991年 | 6,603 |
19.23% ↑
|
1990年 | 5,538 |
-4.52% ↓
|
1989年 | 5,800 |
-6.45% ↓
|
1988年 | 6,200 | - |
1987年 | 6,200 | - |
1986年 | 6,200 | - |
1985年 | 6,200 |
6.9% ↑
|
1984年 | 5,800 | - |
1983年 | 5,800 | - |
1982年 | 5,800 |
5.45% ↑
|
1981年 | 5,500 |
-8.33% ↓
|
1980年 | 6,000 |
20% ↑
|
1979年 | 5,000 |
16.28% ↑
|
1978年 | 4,300 |
26.47% ↑
|
1977年 | 3,400 |
3.03% ↑
|
1976年 | 3,300 | - |
1975年 | 3,300 |
3.13% ↑
|
1974年 | 3,200 |
-3.03% ↓
|
1973年 | 3,300 | - |
1972年 | 3,300 | - |
1971年 | 3,300 |
6.45% ↑
|
1970年 | 3,100 | - |
1969年 | 3,100 |
3.33% ↑
|
1968年 | 3,000 |
7.14% ↑
|
1967年 | 2,800 |
3.7% ↑
|
1966年 | 2,700 |
-3.57% ↓
|
1965年 | 2,800 | - |
1964年 | 2,800 |
16.67% ↑
|
1963年 | 2,400 | - |
1962年 | 2,400 |
4.35% ↑
|
1961年 | 2,300 | - |
アンティグア・バーブーダの牛乳生産量のデータは、この島国の農業基盤や地域経済の動向を映し出す重要な指標です。1961年の2,300トンから始まり、1970年代後半以降生産量は急激に伸びを見せました。特に1978年から1980年にかけては年6,000トンを超える成果を上げ、この時期は島内での畜産業が最盛期であったことが伺えます。この背景には、当時の技術革新、地方経済の成長、環境条件の好転などが考えられます。
しかし、1985年を過ぎてからは緩やかな減少が始まり、1990年代後半以降は顕著な低下傾向が見られました。特に2010年以降は生産量が大きく落ち込み、2022年の1,970トンという数字はここ60年間で最も低い水準となっています。この減少の背景には、いくつかの課題が考えられます。
第一に、アンティグア・バーブーダの地理的特徴や気候条件が畜産業に適していない可能性があります。気候変動が進行する中で水資源の限界や草地劣化が影響を及ぼし、乳牛の飼育が困難になっていることが考えられます。第二に、観光業が主要産業であるこの国では、農業や酪農業への人材と資本の投入が減少している可能性があります。これにより、設備投資や持続可能な運営に必要なリソースが不足していることが懸念されます。
また、輸入乳製品の拡大も国内生産に影響を及ぼしている可能性があります。アンティグア・バーブーダは域内市場の小ささと輸送コストの高さから、大規模な酪農生産の採算性確保が難しく、結果として国際市場からの安価な輸入品に依存しがちです。さらに、新型コロナウイルス感染症の流行も一因として考えられます。2020年代に入り、観光業が停滞し経済状況が悪化した結果、農業関連の投資がさらに抑制された可能性があります。
このような減少は、国内の食品安全保障や持続可能な農業経済の維持にも影響を与えるため、放置することはできません。対策としては、まず既存の酪農フレームワークを見直し、持続可能な畜産業を推進するための資金投入や農業支援政策が必要です。地元の農家に対して、水資源管理や飼料改良などの技術的支援を実施することが挙げられます。また、観光業と畜産業の連携により、地域特産品を活用したブランディングやマーケティングを強化することも有効です。さらに、地域内での協力や国際的な支援を受けて、インフラ整備や人材育成を進めることも重要です。
加えて、地政学的リスクや自然災害への備えも必要です。台風や熱波といった自然災害が頻発するカリブ地域では、牧草の生育や乳牛の健康維持が難しくなっています。こうした気候変動リスクに対応した農業モデルの導入が急務となっています。
結論として、アンティグア・バーブーダにおける牛乳生産量の減少は、地域的・全球的な課題を反映した多面的な現象であると言えます。この状況に対応するためには、政策的支援や地域内外での協力、持続可能な技術革新が鍵となります。国際機関や近隣諸国との協力を強化し、アンティグア・バーブーダの酪農業を未来志向で再構築していくことが求められます。