Food and Agriculture Organization(国際連合食糧農業機関)が最新発表したデータによると、スロベニアのテンサイ(甜菜)生産量は、1990年代に急激に増加し、一時的に安定を見せましたが、2000年代に入ってから減少傾向に転じ、特に2019年以降に著しい低下を見せています。1999年におけるピークの467,137トンから、2023年には6,970トンまで減少し、過去30年間で生産が大きく減衰しました。この変化は、農業政策、気候変動や市場環境の変動などが関係していると見られます。
スロベニアのテンサイ(甜菜)生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
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2023年 | 6,970 |
57.69% ↑
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2022年 | 4,420 |
-47.69% ↓
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2021年 | 8,450 |
13.73% ↑
|
2020年 | 7,430 |
-34.13% ↓
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2019年 | 11,280 |
-95.7% ↓
|
2006年 | 262,031 |
0.74% ↑
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2005年 | 260,095 |
22.06% ↑
|
2004年 | 213,092 |
5.45% ↑
|
2003年 | 202,077 |
-12.98% ↓
|
2002年 | 232,209 |
25.02% ↑
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2001年 | 185,732 |
-46.79% ↓
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2000年 | 349,065 |
-25.28% ↓
|
1999年 | 467,137 |
22.85% ↑
|
1998年 | 380,245 |
31.68% ↑
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1997年 | 288,775 |
-6.24% ↓
|
1996年 | 308,005 |
16.19% ↑
|
1995年 | 265,077 |
19.47% ↑
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1994年 | 221,886 |
67.29% ↑
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1993年 | 132,636 |
37.31% ↑
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1992年 | 96,598 | - |
スロベニアにおけるテンサイ生産量の推移を観察すると、特に1990年代から2000年代初めにかけての劇的な変化が目を引きます。1992年の96,598トンから、1999年のピークである467,137トンまで急増しています。この間に見られる著しい生産増加の要因としては、農業技術の向上や市場需要の高まり、さらには農業政策の支援が挙げられます。当時、スロベニア農業の方向性は国内需要の充足と輸出市場の拡大に向けられており、テンサイという糖分供給作物もその戦略の一端を担っていました。
しかし、2000年以降、生産量は一転して減少に向かいます。2001年には185,732トンまで落ち込み、以降、変動を伴いながらも減少が続きます。この背景には、EUへの加盟(2004年)が影響を与えていると考えられます。EU内部市場への統合によって、競争の激化と生産効率が求められ、スロベニアでのテンサイ生産の競争力が低下していった可能性があります。また、糖の輸入関税の緩和や輸入量の増加により、国内生産には不利な状況が続いたことも一因です。
さらに、気候変動や農業労働力の減少も重要な要因です。スロベニアを含む中欧では近年、干ばつや豪雨といった異常気象が頻発しており、こうした気候リスクは農業生産に直接的な影響を及ぼしています。また、都市部への労働力の流出や農業部門の収益性低下は、テンサイ栽培を含む農業全体の生産性を低下させる要因となっています。
2019年以降のデータを見ると、状況はさらに悪化しており、6,970トン(2023年)という数値は1992年の生産量にさえ遠く及びません。この急激な低下は、生産コスト高騰や農業補助金政策の変更、さらには需要そのものの減少といった複合的な要因によるものと考えられます。例えば、世界的な砂糖需要の変化や他の糖供給源(甘蔗など)との競争が影響している可能性があります。
この状況を踏まえ、スロベニアが直面している課題は次のように考えられます。まず、気候対応型農業の導入が急務です。干ばつに強い品種の導入や適応的な灌漑技術の開発を進めることが求められます。また、EUの農業補助金制度を活用し、国内生産者への支援を強化することで、テンサイ栽培の競争力を高める必要があります。さらに、地域間の農業協力を進め、周辺諸国と生産および流通の効率化を図ることも有効です。加えて、テンサイの新たな用途を開発し、砂糖以外の利用可能性を模索することも対策の一環として検討できます。
結論として、スロベニアのテンサイ生産量はかつての盛況期から衰退の一途をたどり、2023年現在では非常に低い水準に留まっています。この流れを食い止めるためには、気候変動への適応策、国際市場での競争力強化、地域協力の推進といった多面的な取り組みが必要です。これらの対策を講じることで、テンサイ生産というスロベニア農業の伝統を維持しつつ新たな成長の道を切り開いていくことが可能になるでしょう。