FAO(国際連合食糧農業機関)が発表した最新データによると、クロアチアのテンサイ(甜菜)生産量は1990年代から2000年代前半にかけて着実に増加し、ピークとなる2007年には1,582,606トンを達成しました。しかし、それ以降は減少傾向が見られ、2023年には1990年代初頭並みの499,910トンにまで落ち込みました。この変動の背景には、気候変動、農業技術の変化、政策の影響が考えられます。
クロアチアのテンサイ(甜菜)生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
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2023年 | 499,910 |
-12.63% ↓
|
2022年 | 572,190 |
-19.07% ↓
|
2021年 | 707,000 |
-8.7% ↓
|
2020年 | 774,330 |
9.28% ↑
|
2019年 | 708,580 |
-8.75% ↓
|
2018年 | 776,490 |
-40.06% ↓
|
2017年 | 1,295,459 |
10.76% ↑
|
2016年 | 1,169,622 |
54.61% ↑
|
2015年 | 756,509 |
-45.65% ↓
|
2014年 | 1,392,000 |
32.48% ↑
|
2013年 | 1,050,715 |
14.3% ↑
|
2012年 | 919,230 |
-21.3% ↓
|
2011年 | 1,168,015 |
-6.5% ↓
|
2010年 | 1,249,151 |
2.64% ↑
|
2009年 | 1,217,041 |
-4.13% ↓
|
2008年 | 1,269,536 |
-19.78% ↓
|
2007年 | 1,582,606 |
1.47% ↑
|
2006年 | 1,559,737 |
16.59% ↑
|
2005年 | 1,337,750 |
6.13% ↑
|
2004年 | 1,260,444 |
86.02% ↑
|
2003年 | 677,569 |
-42.75% ↓
|
2002年 | 1,183,445 |
22.65% ↑
|
2001年 | 964,880 |
100.09% ↑
|
2000年 | 482,211 |
-56.71% ↓
|
1999年 | 1,113,969 |
-9.68% ↓
|
1998年 | 1,233,322 |
32.45% ↑
|
1997年 | 931,185 |
2.75% ↑
|
1996年 | 906,246 |
31.21% ↑
|
1995年 | 690,707 |
16.71% ↑
|
1994年 | 591,819 |
10.17% ↑
|
1993年 | 537,196 |
2.29% ↑
|
1992年 | 525,189 | - |
クロアチアのテンサイ生産量は、1992年から2007年にかけて顕著な増加を見せました。当初の1992年では525,189トンという数値でスタートし、その後は年ごとに生産技術の向上や農業政策の恩恵が見られ、2007年には1,582,606トンと、その約3倍にまで伸びました。この急拡大の要因として、新しい種子技術の導入や、クロアチア政府がEU加盟に向けた基盤整備の一環として農業セクターを支援したことが挙げられます。特に、EU加盟への準備は輸出競争力の強化を目的に、農業部門に資金や技術が集中的に投入されるきっかけとなりました。
しかし、2007年以降から生産量は減少傾向に転じました。この背景には、気候変動による降水量の不安定さや気温上昇が大きく影響している可能性があります。例えば、2000年代後半以降、ヨーロッパ全体で猛暑や異常気象が頻発しました。これにより、収穫期における天候リスクが増大し、生産量の安定が困難になったと考えられます。また、クロアチア国内農業の競争力が低下し、特に労働力の不足や経済効率の悪化が要因として取り沙汰されています。
さらに、EU加盟後、農業における補助金制度や貿易障壁が変化したことがテンサイ生産にも間接的な影響を及ぼしました。EU諸国ではテンサイから生産される砂糖産業が非常に強力であり、競争圧力の中でクロアチアの農家が難しい選択を迫られる場面も多かったと考えられます。この影響は特に2015年以降顕著となり、2023年にはピーク時の約3分の1となる499,910トンにまで減少しました。
一方で、他国の状況を比較すると、主要なテンサイ生産国であるフランスやドイツは、依然として安定した生産量を維持しています。これらの国々では、大規模な農業機械の普及や、気候変動対策に基づいた農地マネジメントが積極的に行われているためです。対照的に、クロアチアでは多くの農地が分散しており、小規模農家が中心となっているため、規模の経済が働きにくい点が課題として挙げられます。
また、2022年から2023年にかけての急低下には、ロシア・ウクライナ紛争の間接的影響も無視できません。この地域衝突は、農業資材の価格高騰や流通の停滞を引き起こしており、結果としてクロアチアの農業生産にも大きな負担をかけました。さらに、長期間に及ぶ紛争により一部の輸出市場が不安定化し、小規模農家において生産意欲を減退させる要因となった可能性があります。
今後の課題として、まずテンサイ生産量の回復を図るためには、国内農業支援政策の再構築が必要です。具体的には、テンサイ栽培用に適した地域へ気候変動に強い品種の種子を導入することや、小規模農家を対象とした農業機械の補助制度を拡充することが効果的と考えられます。また、EU内での競争力を高めるため、テンサイ加工技術の向上や輸出先の多角化も検討すべきです。
さらに、地域協力の視点も重要です。近隣国との共同プロジェクトを通じて農業ノウハウの共有を進めたり、バルカン地域全体での農業市場の統合を進展させることが、長期的には安定的な成長につながる可能性があります。一方で、今後も気候変動リスクは避けられないと予測されるため、持続可能な農業の実現に向けて、環境保全対策の充実も不可欠です。
最後に、クロアチアのテンサイ生産推移は、地政学的、経済的、そして気候的な複合要因が絡み合った結果として示されています。農業分野の復興を図るためには、これらの課題を多面的に捉え、国家政策のみならず地域間協力を活用した包括的な対策が必要です。