国際連合食糧農業機関(FAO)が発表した最新データによると、ブータンにおけるサトウキビの生産量は、1982年の8,500トンから1990年には12,300トンと順調に増加しました。しかし、1991年以降は急激に減少し、1990年代半ば以降は1,000トン未満の低迷が続いています。その後も増減を繰り返しながら2023年には219トンと非常に少ない水準に留まっています。これらの推移は、ブータンにおける農業政策の変化、地政学的な影響、気候変動など複合的な要因に起因すると考えられます。
ブータンのサトウキビ生産量推移(1961年~2023年)
年度 | 生産量(トン) | 増減率 |
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2023年 | 219 |
-9.83% ↓
|
2022年 | 242 |
-7.37% ↓
|
2021年 | 262 |
-27.81% ↓
|
2020年 | 363 |
-8.51% ↓
|
2019年 | 396 |
292.65% ↑
|
2018年 | 101 |
-67.95% ↓
|
2017年 | 315 |
-8.71% ↓
|
2016年 | 345 |
-32.09% ↓
|
2015年 | 508 |
56.79% ↑
|
2014年 | 324 |
10.96% ↑
|
2013年 | 292 |
29.2% ↑
|
2012年 | 226 |
-57.61% ↓
|
2011年 | 533 |
-12.23% ↓
|
2010年 | 607 |
-11.12% ↓
|
2009年 | 683 |
-10.31% ↓
|
2008年 | 762 |
-47.53% ↓
|
2007年 | 1,452 |
73% ↑
|
2006年 | 839 |
0.13% ↑
|
2005年 | 838 |
-0.2% ↓
|
2004年 | 840 |
-0.46% ↓
|
2003年 | 844 |
-0.69% ↓
|
2002年 | 850 |
-0.68% ↓
|
2001年 | 856 |
-0.98% ↓
|
2000年 | 864 |
-1.1% ↓
|
1999年 | 874 |
-1.21% ↓
|
1998年 | 884 |
-1.3% ↓
|
1997年 | 896 |
-1.4% ↓
|
1996年 | 909 |
-1.49% ↓
|
1995年 | 922 |
-1.58% ↓
|
1994年 | 937 |
-1.69% ↓
|
1993年 | 953 |
-1.82% ↓
|
1992年 | 971 |
-2.89% ↓
|
1991年 | 1,000 |
-91.87% ↓
|
1990年 | 12,300 |
0.82% ↑
|
1989年 | 12,200 |
1.67% ↑
|
1988年 | 12,000 |
1.69% ↑
|
1987年 | 11,800 |
2.61% ↑
|
1986年 | 11,500 |
4.55% ↑
|
1985年 | 11,000 |
1.34% ↑
|
1984年 | 10,855 |
20.61% ↑
|
1983年 | 9,000 |
5.88% ↑
|
1982年 | 8,500 | - |
ブータンにおけるサトウキビの生産量の推移を振り返ると、1980年代は着実な成長期を迎えていました。この時期の農業政策や地域の気候条件が、サトウキビ栽培の発展に寄与したと推測されます。しかし1991年に生産量がわずか1,000トンと急激に低下し、その傾向は長期化しました。この劇的な減少の背景には、耕作地の縮小、人材不足、農業技術の停滞、あるいは収益性が低下したことによる農家のモチベーション低下が挙げられます。その後、2000年代以降も断続的な減少が見られる中、2007年には一時的に1,452トンまで回復しましたが、その後再び低迷に転じています。
特筆すべきは、2023年の生産量が219トンと過去最低水準にまで減少している点です。この背景には、気候変動による気温や降水量の不規則性が農地に深刻な影響を与えていることが挙げられます。特に高地に位置するブータンでは、土壌の劣化や自然災害による農地損失がサトウキビ栽培に負の影響を与えている可能性が高いです。また、新型コロナウイルス感染症の世界的流行に伴う農業従事者の減少や、物流の停滞も直近の生産量低迷に寄与していると推測されます。
他国と比較すると、ブータンの状況は非常に厳しいと言えます。たとえば、サトウキビの主産国であるインドやブラジルでは、気候変動に対応した農業技術の推進や品種改良、国際市場向けの生産体制を整え、安定的な生産を確保しています。一方でブータンは農業技術開発やインフラ整備が不十分であり、また市場規模が限定的であるため、輸出による拡大も難しい状況にあります。このような中で、ブータンの農家はより収益性の高い作物や伝統的な農法に移行した可能性も考えられます。
将来的には、これらの課題を解決するためにいくつかの具体的対策が必要です。第一に、気候変動への対応として、気候に強い品種の導入や、灌漑施設の整備が重要です。さらに、農業従事者のスキル向上や、新しい農機具の提供も生産性向上に寄与するでしょう。市場拡大の観点では、地域間協力や国際的な取引ネットワークの構築を進め、生産されたサトウキビを国内外で効率的に活用することが推奨されます。また、ブータンの地政学的リスクや近隣諸国との関係性を考慮しながら、農業以外の収入源を模索することも全体的な持続可能性を高める一助となるはずです。
結論として、ブータンのサトウキビ栽培は、現在深刻な低迷状況にありますが、適切な政策と世界の先進的な農業技術を参考にすることで、依然として回復の可能性を秘めています。国際機関の支援や他国からのノウハウの導入を通じて、ブータンはこの課題を克服し、農業経済を再び成長軌道に乗せることが期待されます。