国際連合食糧農業機関(FAO)が公開した最新データによると、ブータンの天然蜂蜜生産量は2014年から2018年にかけて順調に増加しましたが、2019年を境に停滞や減少傾向がみられます。特に2020年以降は生産量の減少が顕著で、2022年には37トンと過去10年間で最低水準となりました。この変化は、環境要因、農業の取り組み、さらには地政学的背景や疫病など複数の要因が絡み合った結果である可能性があります。
ブータンの天然蜂蜜生産量推移(1961-2022)
年度 | 生産量(トン) |
---|---|
2022年 | 37 |
2021年 | 43 |
2020年 | 44 |
2019年 | 66 |
2018年 | 66 |
2017年 | 48 |
2016年 | 42 |
2015年 | 33 |
2014年 | 25 |
ブータンの天然蜂蜜生産量は、2014年の25トンから2018年の66トンに至るまで安定的に増加しました。この伸びは、ブータン政府の有機農業推進政策や環境保護意識の高まり、伝統的な養蜂業の普及が主な要因と考えられます。さらに、国際市場における天然蜂蜜の需要が増加したことも、生産性向上への原動力となりました。しかし、この成長は2019年を境に鈍化し、2020年以降は減少に転じています。
生産量の減少は、まず気候変動の影響が大きいと推測されます。気温の上昇と降雨量の変化は、蜜源植物の減少を引き起こし、蜜蜂の活動や生育に重大な影響を及ぼします。特にブータンのような山岳地帯では、生態系が繊細であるため、こうした環境変化が迅速に影響を及ぼす傾向があります。また、近年多発している異常気象による災害が、養蜂業の基盤を破壊している可能性も否定できません。
さらに、新型コロナウイルスによる物流の停滞や労働力不足も、生産量減少の一因として挙げられます。2020年以降、国際的な貿易や国内農業活動が制限されたことで、養蜂に必要な資材の供給や技術指導が滞る問題が顕著になりました。同時に、蜜蜂に影響を与える疫病や寄生虫の発生も報告されており、これらが総合的に減少傾向をもたらしていると考えられます。
また、ブータンの地政学的な位置も影響を与えている可能性があります。インドと中国という巨大市場に挟まれたブータンでは、これらの国々の農業政策や貿易慣行が間接的な影響を与えることがあります。例えば、インドからの養蜂関連製品輸入の制限や価格変動は、ブータンの養蜂業に多大な影響を及ぼします。これに加え、蜜源となる植物の領域拡大のために必要な国境地域の土地利用が、地政学的リスクや交渉事項となる可能性もあります。
課題解決のためには、いくつかの対策が考えられます。まず、養蜂業者が気候リスクに対応できるよう、新しい技術やノウハウの提供を強化する必要があります。具体的には、耐気候性のある蜜蜂や蜜源植物の育成が重要となるでしょう。また、政府が養蜂業を支援するための補助金政策や、小規模事業者向けの融資制度を整えることも大切です。さらに、養蜂業を持続可能な形で発展させるため、地域間協力の枠組みを設立し、近隣諸国と連携して知見の共有や市場拡大を目指すことが求められます。
結論として、ブータンの天然蜂蜜生産量にみられる近年の減少傾向は、多くの課題が絡み合った結果です。しかし、適切な政策と組織的な取り組みによって、減少を食い止め、さらに発展を遂げることは可能です。特に、環境保護を重視するブータンの政策方針をうまく活用し、地域特有の強みを活かせば、国際市場における競争力も高められるでしょう。今後は、政府、民間、地域社会が一体となり、包括的な解決策を進めることが不可欠となります。