ITU(国際電気通信連合)が発表したデータによると、ベトナムにおける人口100人当たりの携帯電話の契約数は1992年には0.001と非常に低い数値でしたが、その後急速な増加を見せ、2009年には100人当たりの契約数が113を超えて普及の臨界点を迎えました。2022年には139.95と安定した数値を示しており、特に2000年代中盤から2010年代前半にかけての急速な発展が目立ちます。このデータから、携帯電話の普及が経済成長やデジタルインフラの整備の進展と密接に関連していることが伺えます。
ベトナムの100人当たりの携帯電話の契約数推移
年度 | 100人当たりの携帯電話の契約数 |
---|---|
1992年 | 0.001 |
1993年 | 0.005 |
1994年 | 0.017 |
1995年 | 0.031 |
1996年 | 0.091 |
1997年 | 0.21 |
1998年 | 0.288 |
1999年 | 0.42 |
2000年 | 0.998 |
2001年 | 1.567 |
2002年 | 2.359 |
2003年 | 3.365 |
2004年 | 6.025 |
2005年 | 11.538 |
2006年 | 22.504 |
2007年 | 53.118 |
2008年 | 87.47 |
2009年 | 113.576 |
2010年 | 127.639 |
2011年 | 144.108 |
2012年 | 147.449 |
2013年 | 137.076 |
2014年 | 149.227 |
2015年 | 130.514 |
2016年 | 129.501 |
2017年 | 127.632 |
2018年 | 148.175 |
2019年 | 142.237 |
2020年 | 143.752 |
2021年 | 138.865 |
2022年 | 139.95 |
1992年におけるベトナムの人口100人当たりの携帯電話契約数はわずか0.001で、当時の携帯電話が非常に珍しく、高価な通信手段として限られた層への提供にとどまっていた状況を反映しています。しかし、2000年代初頭から急激な増加が観測されており、特に2006年の22.504から2007年の53.118への倍増は、通信事業の競争促進や国の政策変更、経済成長が普及を押し上げたものと推察されます。この時期には、世界的にも多くの国で通信技術が急速に進行しており、中国やインドなどの周辺国でも類似の成長傾向が見られています。
2009年には、ついに契約数が100人当たりの人口を上回る113.576に到達しました。これは、人口全体ではなく、契約回線数が基準であることに起因しています。多くの人が複数の電話番号を所有し始めた点や、地域における急成長が携帯電話の普及のさらなる加速に寄与していたと考えられます。この時期はベトナム自身が急速な経済発展期にあり、携帯電話が雇用機会や商業機会の促進に重要な役割を果たしていました。そして、スマートフォンが市場に浸透し始めたことで、さらなる普及が促進されました。
2013年以降、契約数にはやや減少傾向が見られ、安定期に移行したと考えられます。例えば、2013年は137.076であったのに対し、2022年には139.950と、この範囲内での推移が続いています。この背景には、経済的な格差緩和の一環としてのモバイル普及政策や、データ通信の増加が契約数の伸びを緩やかにすると同時に、通話やSMS契約からデータ型契約への変化があると考えられます。他国と比較すると、ベトナムの契約数は日本(2022年推計で180程度)に比べてやや少ないものの、インド(約85程度)に比べると依然として高い水準です。
しかし現状、安定期に入った契約数にもいくつかの課題が見受けられます。一つは、都市部と農村部の間での情報通信格差です。特に農村部では通信サービスのアクセスが制限されており、地域間でのデジタルデバイドが生じています。また、インターネットを利用したデータ通信が広がる中で、通信インフラの老朽化やサイバーセキュリティの脆弱性に関するリスクも増しています。さらに、パンデミックによる社会的課題や、気候変動がインフラに与える影響も軽視できません。
政策提言としては、まず最優先で地域格差を埋めるための通信インフラの整備が必要です。5Gや衛星通信などの次世代テクノロジーを農村エリアに導入することで、サービスのアウトリーチを改善できます。また、国家主導でのサイバーセキュリティ対策強化や、国際的な協力枠組みの中での高度デジタル人材育成を進めることも重要です。教育分野においてモバイル端末を活用した遠隔学習の機会をさらに拡充すれば、若年層のICTリテラシー向上にもつながります。
地政学的背景から見ると、ベトナムはASEAN内でのデジタル経済発展をリードする国の一つと位置付けられており、中国やアメリカといった主要国からの投資や協力を取り付けることは重要です。しかし、地政学的な緊張や地域衝突が通信インフラ整備に与える影響には注意が必要です。例えば通信衛星技術へのアクセスや海底ケーブルの構築が、将来的に紛争の取引材料となるリスクを孕んでいます。
結論として、ベトナムは携帯電話の契約数において世界平均を大きく上回る普及率を示しており、これは同国のデジタル成長を象徴する重要な指標の一つです。しかし、今後も普及の安定とともに、地域間格差や通信インフラの強化に関する課題対策が必要です。国際協力や政策革新を通じて持続可能なデジタル環境を実現することが、将来的な持続可能な成長の鍵となるでしょう。