ITU(国際電気通信連合)が発表したデータによると、パキスタンの人口100人当たりの携帯電話の契約数は、1990年時点で0.0017件に過ぎませんでしたが、その後大幅に増加し、2022年には81.75件に到達しました。特に2000年代半ばから2007年頃にかけて、契約数が急増しています。その後も全体として成長を続けていますが、成長率は近年鈍化し、80件前後で横ばいになる傾向が見られます。
パキスタンの100人当たりの携帯電話の契約数推移
年度 | 100人当たりの携帯電話の契約数 |
---|---|
1990年 | 0.001 |
1991年 | 0.007 |
1992年 | 0.011 |
1993年 | 0.012 |
1994年 | 0.019 |
1995年 | 0.03 |
1996年 | 0.049 |
1997年 | 0.095 |
1998年 | 0.134 |
1999年 | 0.177 |
2000年 | 0.198 |
2001年 | 0.466 |
2002年 | 1.04 |
2003年 | 1.44 |
2004年 | 2.943 |
2005年 | 7.324 |
2006年 | 19.378 |
2007年 | 34.551 |
2008年 | 47.339 |
2009年 | 49.621 |
2010年 | 51.007 |
2011年 | 54.83 |
2012年 | 59.42 |
2013年 | 62.208 |
2014年 | 65.191 |
2015年 | 59.676 |
2016年 | 63.921 |
2017年 | 66.792 |
2018年 | 70.079 |
2019年 | 74.075 |
2020年 | 77.3 |
2021年 | 81.551 |
2022年 | 81.746 |
パキスタンの人口100人当たりの携帯電話の契約数は、1990年代まではほとんど存在感がないほど低い水準にとどまっていました。しかし、2000年代に入ると、携帯電話技術の進歩や通信インフラの拡充、さらにデバイスコストの急激な低下が相まって、契約数は急激に増加しました。特に2005年から2007年にかけては、年間平均20ポイント以上増加するという著しい拡大を見せました。
この大幅な普及は、国内外の複数の要因に支えられています。まず、政府が通信インフラ拡大を政策課題の一つとして捉え、外資の通信事業者を積極的に誘致したことが大きな影響を与えました。また、多国籍企業による安価な携帯端末の供給が進んだことや、料金制度の柔軟化も普及を後押ししました。さらに、労働市場の広がりと、国内外の送金ネットワークに携帯通信が必要不可欠となったことが需要を押し上げました。
しかしながら、2015年には59.67件に減少するという一時的な下落が見られました。この背景には、国内の政治的不安定さやテロリズムなどの地政学的リスク、そして経済的な困難が影響したと考えられます。一部地域では通信インフラの破壊やサービス中断が発生しました。しかし、その後は再び緩やかに増加を続け、2022年には81.75件に達しました。
2022年の段階で、パキスタンの契約率は南アジアの主要国インド(約84件)に近づきつつありますが、世界平均の約113件(ITU統計)にはまだ遠い水準です。隣国の中国や韓国はそれぞれ約150件、130件を超えており、日本の約120件も含め、多くの先進国よりも依然低い状況にあります。こうした差が生じる理由には、国内の所得格差や都市部と農村部とのインフラ整備の不均衡が挙げられます。都市部では80%以上の普及率を記録している一方で、農村部では60%に満たない地域もあり、地域間での格差が課題となっています。
さらに、地政学的な懸念も無視できません。特に紛争地域や恒常的な治安リスクを抱える地域では、通信ネットワークの維持管理が難しく、普及率の向上の足枷となっています。また、新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、オンライン教育やリモートワークの需要を高めつつも、移動の制限や物流の混乱により、機器の普及やネットワーク改善が遅れるという影響もあったと考えられます。
今後の課題としては、地方エリアへのインフラ整備拡大、携帯通信料金のさらなる引き下げ、そしてデジタルデバイド(情報格差)の是正が挙げられます。特に、農村地域での教育や経済活動を支援するためには、低コストのデータパッケージの提供や、再生可能エネルギーを利用した通信施設の設置が有効な対策となるでしょう。また、政府と通信企業の協力により、公平な通信環境を保証するための法的枠組みや補助金政策が必要とされています。
結論として、パキスタンの携帯電話契約数は今後も増加が予想されますが、成長の鈍化や地域間の不均衡といった課題を抱えています。これらの課題に対処することが、将来的な人々の生活向上や経済発展に直結する重要なポイントとなるでしょう。国際機関や隣国との協力も視野に入れ、持続可能で包括的な通信インフラの発展を目指すべきです。