国際連合食糧農業機関(FAO)が発表した最新データによると、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)のCO2排出量は1990年の約1億5989万トンから2020年の約5685万トンに大幅に減少しています。この30年間で総排出量は約3分の1に縮小しており、特に急激な減少が見られるのは1990年代後半です。一方で、2010年代以降は緩やかな増減を繰り返しながら、概ね横ばいの傾向を示しています。
「朝鮮民主主義人民共和国」のCO2排出量推移
年度 | CO2排出量 |
---|---|
2020年 | 56,540,012トン |
2019年 | 56,873,857トン |
2018年 | 54,969,565トン |
2017年 | 54,047,753トン |
2016年 | 63,443,803トン |
2015年 | 58,306,388トン |
2014年 | 64,022,130トン |
2013年 | 58,874,466トン |
2012年 | 68,841,064トン |
2011年 | 67,693,070トン |
2010年 | 80,759,094トン |
2009年 | 83,697,772トン |
2008年 | 103,417,784トン |
2007年 | 95,614,496トン |
2006年 | 110,458,408トン |
2005年 | 108,555,746トン |
2004年 | 103,737,650トン |
2003年 | 100,960,899トン |
2002年 | 99,026,694トン |
2001年 | 101,774,050トン |
2000年 | 98,539,010トン |
1999年 | 91,961,181トン |
1998年 | 85,211,678トン |
1997年 | 92,885,233トン |
1996年 | 96,256,334トン |
1995年 | 107,065,227トン |
1994年 | 115,694,828トン |
1993年 | 126,717,196トン |
1992年 | 136,305,769トン |
1991年 | 154,031,325トン |
1990年 | 159,893,867トン |
北朝鮮のCO2排出量推移を振り返ると、1990年代を通して顕著な減少が見られるのが特徴です。この時期は、冷戦終結後の地政学的変化や、主要な貿易・援助国であったソビエト連邦崩壊の影響で経済規模が縮小した結果、エネルギー消費量が著しく減少したことが主な要因と考えられます。当時の北朝鮮では、エネルギーを中心としたインフラ面での供給不足が慢性化しており、火力発電や工業生産の減少が排出量減少に大きく寄与しました。
2000年代に入ると一部で経済活動の復興や工業生産の再開が進み、CO2排出量は一時的に回復傾向にありました。ただ、2007年以降は再び全般的な減少が見られました。この背景には、北朝鮮を取り巻く経済制裁の強化や、それに伴う燃料輸入の減少、さらには国内産業基盤の制約が影響しています。また、2010年代中盤には国際的な関心が高まった核実験問題や制裁措置の影響も否定できません。
比較の観点から見ると、北朝鮮の2020年の排出量は約5685万トンであり、経済や人口が近い隣国の韓国(約5億5000万トン)や日本(約10億トン)に比べても桁違いに少ないことが分かります。この差異は、北朝鮮の経済規模が限定的であること、工業化の進展が他国に比べ著しく遅れていること、さらに近年ではエネルギー不足や制裁の影響で燃料消費が抑制されていることに起因します。
北朝鮮が抱える課題として、まず産業基盤の脆弱性が挙げられます。同国では再生可能エネルギーの導入がほとんど進んでおらず、エネルギー源の多くを石炭などの化石燃料に依存しています。実際、石炭燃焼によるCO2排出が大部分を占めており、これが環境負荷を高める要因となっています。また、気候変動への対応策や環境政策が国際的枠組みから大きく遅れていることも問題です。他国が進めている炭素税導入や再生可能エネルギーの整備といった施策に対して、北朝鮮からの具体的な取り組みはほとんど報告されていません。
未来の課題として、気候変動がもたらす影響は北朝鮮にも例外なく顕在化することが予想されます。特に、自然災害の頻度や規模の増大が、既に可処分資源の限られている地域社会にさらなる打撃を及ぼす可能性があります。加えて、経済制裁と地政学的リスクがエネルギーシステムの改善を妨げている現実も見逃せません。
それでは、解決策として何が考えられるでしょうか。具体的には、北朝鮮内部での省エネルギー技術の普及促進や、周辺諸国との共同枠組みを活用した再生可能エネルギー源の導入支援が挙げられます。同時に、国際社会との協調の確立によって技術移転や資金拠出を可能にし、条件付きながらも気候政策へのコミットメントを徐々に促していく道筋が必要です。北朝鮮が国際協調路線を取ることで、環境問題のみならず、周辺地域の安全保障や持続可能な成長に向けた一助ともなるでしょう。
結論として、北朝鮮のCO2排出量の先細り傾向は一見すると環境負荷の軽減と捉えられがちですが、実際にはエネルギーや経済基盤の弱体化を示しています。そのため、同国における持続可能なエネルギー政策の指針策定と、周辺諸国・国際機関による適切なサポートが不可欠です。このような多面的なアプローチを通じて、北朝鮮が地球規模での環境目標達成に寄与できるような未来を描くことが重要です。