サハ共和国の凍土地帯とは
サハ共和国はロシア極東部に位置し、その面積は3,103,200平方kmで、ロシアの約1/4、日本の約9倍にも達する、世界最大の地方行政です。その多くが永久凍土に覆われており、冬季には気温が-50℃以下になることも珍しくありません。この過酷な環境は、古代の生態系を保存する「冷凍庫」の役割を果たしてきました。
近年、永久凍土の調査を通じて、マンモスやサーベルタイガーの完全な骨格が発見されるなど、驚異的な発見が相次いでいます。さらに、埋もれた植物や微生物の分析により、気候変動や進化の歴史を解明する手がかりが得られています。これらは、科学界にとって「宝」といえる発見です。
眠る「宝」:マンモスの牙と象の密猟問題
マンモス象牙の価値と市場動向
・高い価値:永久凍土から発見されるマンモスの牙は、象牙取引の合法的な代替品として注目されています。
・需要の増加:特に中国やタイなど、象牙需要の高い地域でマンモス象牙の人気が高まっています。
・規制の対象外:ワシントン条約(CITES)の規制により、アフリカ象やアジア象の象牙取引は厳しく制限されていますが、マンモス象牙は規制の対象外であるため、合法的な取引が可能です。
マンモス象牙需要増加による象の密猟問題への影響
・需要刺激の懸念:国際自然保護連合(IUCN)の報告によれば、マンモス象牙の合法取引が象牙市場全体の需要を刺激し、密猟象牙の違法流通を助長する可能性が指摘されています。
・混在取引の報告:中国やタイなどの象牙需要の高い地域では、マンモス象牙と密猟象牙が混在して取引されるケースが報告されており、密猟業者が密猟象牙を合法品に偽装する手口が横行しています。
マンモス象牙と密猟象牙の識別困難性
・外観の類似性:マンモス象牙と密猟象牙は外観が非常に似ており、見た目だけでは識別が困難です。
・鑑定の難しさ:両者を区別するための専門的な鑑定が行われることは稀であり、市場では混在して取引されることが多いのが実情です。
・識別マニュアルの存在:環境省は、象牙とマンモス牙の識別方法を紹介するマニュアルを公開していますが、実際の取引現場での識別は容易ではありません。 (ENV.GO.JP)
象の個体数の減少と国際社会の対応
・個体数の減少:IUCNの報告によれば、象の個体数は1900年の1,000万頭以上から2024年には約40万頭まで減少しています。
・国際的な議論の必要性:サハ共和国で発掘されるマンモスの牙は経済的利益を生む一方で、象の密猟問題への影響を考慮し、国際社会での議論と規制が必要です。
時限爆弾:永久凍土が解けるとき
一方で、この「冷凍庫」が解け始めると、地球規模での深刻な影響が懸念されています。永久凍土には大量のメタンガスが閉じ込められており、地球温暖化の進行に伴い、これらが大気中に放出されるリスクが高まっています。メタンガスは二酸化炭素の約25倍の温室効果を持つため、気候変動をさらに加速させる恐れがあります。
また、永久凍土の融解による古代病原体の復活も懸念されています。2016年には、シベリアで解凍されたトナカイの死骸から炭疽菌が発生し、数十人が感染する事態が発生しました。さらに、2024年の最新研究によると、永久凍土には未知のウイルスが多数封じ込められており、温暖化によるリスクが増加していることが示されています(米アラスカ・フェアバンクス大学調査報告より)。
サハ共和国の凍土地帯は、科学的発見や経済的価値を秘めた地域であり、同時に地球温暖化による危機が加速する現場でもあります。マンモスの牙を巡る象牙取引の影響や、解凍によるメタン放出と病原体の復活は、国際的な議論と行動を必要としています。
未来に向けて、永久凍土の保護と利用のバランスを見出すことが、地球規模の課題解決に不可欠です。この地に眠る「宝」と「爆弾」を理解し、私たちはいかに対処すべきかを問い直すときが来ています。