国際連合食糧農業機関(FAO)の最新データによると、フィリピンにおける馬肉生産量は1961年の241トンから、1976年に3,562トンのピークを記録しました。その後減少傾向に転じ、近年では約600トン前後で推移しています。2023年の生産量は574トンです。この推移は、経済、文化、地政学的要因が複雑に絡み合った結果と考えられます。
フィリピンの馬肉推移(1961年~2023年)
年度 | (トン) | 増減率 |
---|---|---|
2023年 | 574 |
-3.07% ↓
|
2022年 | 592 |
-0.55% ↓
|
2021年 | 596 |
-0.54% ↓
|
2020年 | 599 |
-0.86% ↓
|
2019年 | 604 |
-4.08% ↓
|
2018年 | 630 |
10.02% ↑
|
2017年 | 572 |
-13.81% ↓
|
2016年 | 664 |
-2.34% ↓
|
2015年 | 680 |
-2.28% ↓
|
2014年 | 696 |
-3.94% ↓
|
2013年 | 725 | - |
2012年 | 725 | - |
2011年 | 725 | - |
2010年 | 725 | - |
2009年 | 725 | - |
2008年 | 725 |
2.94% ↑
|
2007年 | 704 |
1.49% ↑
|
2006年 | 693 | - |
2005年 | 693 | - |
2004年 | 693 | - |
2003年 | 693 | - |
2002年 | 693 | - |
2001年 | 693 | - |
2000年 | 693 | - |
1999年 | 693 | - |
1998年 | 693 | - |
1997年 | 693 |
4.69% ↑
|
1996年 | 662 | - |
1995年 | 662 | - |
1994年 | 662 |
4.92% ↑
|
1993年 | 631 | - |
1992年 | 631 | - |
1991年 | 631 |
5.17% ↑
|
1990年 | 600 | - |
1989年 | 600 | - |
1988年 | 600 | - |
1987年 | 600 |
20.83% ↑
|
1986年 | 497 |
30.39% ↑
|
1985年 | 381 | - |
1984年 | 381 |
-41.11% ↓
|
1983年 | 647 |
-22.24% ↓
|
1982年 | 832 |
-22.17% ↓
|
1981年 | 1,069 |
31.98% ↑
|
1980年 | 810 |
-34.36% ↓
|
1979年 | 1,234 |
-31.14% ↓
|
1978年 | 1,792 |
-20% ↓
|
1977年 | 2,240 |
-37.11% ↓
|
1976年 | 3,562 |
251.98% ↑
|
1975年 | 1,012 |
169.15% ↑
|
1974年 | 376 |
-21.99% ↓
|
1973年 | 482 |
32.42% ↑
|
1972年 | 364 |
32.36% ↑
|
1971年 | 275 |
-54.92% ↓
|
1970年 | 610 |
77.84% ↑
|
1969年 | 343 |
-74.09% ↓
|
1968年 | 1,324 |
-3.15% ↓
|
1967年 | 1,367 |
96.69% ↑
|
1966年 | 695 |
89.37% ↑
|
1965年 | 367 |
-29.56% ↓
|
1964年 | 521 |
-9.23% ↓
|
1963年 | 574 |
202.11% ↑
|
1962年 | 190 |
-21.16% ↓
|
1961年 | 241 | - |
フィリピンの馬肉生産は、時代や環境要因に応じて大きく変動してきました。最も注目すべきは1976年に記録された3,562トンの生産量で、この年がピークとなっています。この大幅な増加は、国内での消費拡大や輸出需要の高まり、特にアジア市場への供給増加が要因と考えられます。一方で、それ以降の減少傾向は、家畜資源の枯渇、畜産政策の変更、あるいは経済条件の変化が影響している可能性があります。
1980年代以降は生産量が安定的に推移し、1990年代から2000年代にかけては600トン台が主流となりました。これには、フィリピンでは馬肉が主流ではないという食文化的背景が影響しています。同地域では鶏肉や豚肉の方が圧倒的に消費されており、馬肉市場が大きな規模を持っていないという特徴が存在します。また、近年では動物愛護団体や国際的な倫理指標の影響から、家畜としての馬への評価が変化しつつあることも、生産量の減少に関わっていると思われます。
2020年以降、新型コロナウイルス感染症の影響により食肉全般の生産および流通に支障をきたし、馬肉生産もわずかに減少しています。これは感染症対策による流通制限や、経済の停滞に起因しており、回復には過去数年で見られる経済的要因の改善が必要とされています。
現在の課題としては、馬肉生産が減少し続けていること以上に、その持続可能性をどのように確保するかが挙げられます。農畜産業はフィリピン経済における重要なセクターであり、適切な資源管理を行うことで国内需要を賄うだけでなく、国際市場への供給も視野に入れる必要があります。また、馬の繁殖および健康管理を支える技術革新や、畜産における環境負荷の軽減も最重要課題です。
他国の事例を見ると、日本では馬肉が一部の地方で「馬刺し」として親しまれる一方、全体的な消費量は限定的です。中国や韓国では馬肉需要はさらに小さく、食材というよりも一部の特定地域や嗜好品として流通しています。一方で、海外、とりわけフランスでは高級食材としての需要が一定数ある点は興味深いところです。フィリピンが輸出市場を開拓するためには、こうした国々での需要に合わせ、質の高い馬肉生産に注力する必要があるかもしれません。
地政学的な観点から見ると、フィリピンは南シナ海という戦略的に重要な地域に位置しており、これが食糧自給率や輸出政策にも影響を与えています。例えば、領海内での安定した資源利用や貿易ルートの確保が、畜産産業全般の発展に影響を与える可能性があります。さらに、気候変動による災害リスクや、農業従事者の高齢化といった課題も見逃せない問題です。
持続可能な馬肉生産を実現するためには、輸出市場の構築、飼育技術の革新、地域間の協力体制の強化が必要です。また、地元の馬肉需要を喚起するためには、食文化としてのプロモーションや、消費者への認知向上がカギになります。さらに、馬の健康管理やワクチンプログラムの充実を通じて、疫病リスクを最小限に抑えることが求められます。
総じて、2030年までに安定した生産基盤を構築するためには、政府および民間セクターの協力が欠かせません。例えば、資金援助と技術共有を目的とした国際連携プログラムの設立や、小規模生産者を支援するための国内政策の充実が効果的かもしれません。このような取り組みによって、フィリピンの馬肉生産は、国内外での需要に応える形で再び安定した発展を遂げられる可能性があります。