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ブルガリアの牛飼養数推移(1961-2022)

国際連合食糧農業機関(FAO)が発表した最新データによると、ブルガリアの牛の飼養数の推移には、歴史的・経済的背景が色濃く反映されています。1960年代から1980年代にかけて飼養数は増加の傾向を見せ、1982年には過去最高の1,806,885頭に達しました。しかし、1990年代以降は急激に減少し、2020年頃には一時的に増加傾向が見られたものの、2022年は579,860頭とピーク時の約32%にまで減少しています。この長期的な減少傾向は、ブルガリアの農業政策の転換、社会経済の変化、欧州連合(EU)加盟後の影響など、複合的な要因によるものと分析されます。

年度 飼養数(頭)
2022年 579,860
2021年 611,200
2020年 588,910
2019年 527,190
2018年 542,120
2017年 557,866
2016年 550,201
2015年 552,807
2014年 575,584
2013年 526,112
2012年 557,641
2011年 544,456
2010年 539,555
2009年 564,904
2008年 602,056
2007年 628,271
2006年 621,797
2005年 671,579
2004年 728,336
2003年 691,230
2002年 634,466
2001年 639,778
2000年 681,661
1999年 671,376
1998年 611,720
1997年 582,055
1996年 631,739
1995年 638,238
1994年 750,395
1993年 973,727
1992年 1,310,454
1991年 1,456,900
1990年 1,575,107
1989年 1,613,116
1988年 1,648,605
1987年 1,678,364
1986年 1,705,685
1985年 1,751,305
1984年 1,777,951
1983年 1,782,649
1982年 1,806,885
1981年 1,795,669
1980年 1,786,823
1979年 1,762,509
1978年 1,736,127
1977年 1,721,691
1976年 1,656,317
1975年 1,553,968
1974年 1,454,195
1973年 1,441,093
1972年 1,378,905
1971年 1,278,598
1970年 1,255,481
1969年 1,296,823
1968年 1,362,706
1967年 1,384,665
1966年 1,450,145
1965年 1,474,020
1964年 1,494,171
1963年 1,582,207
1962年 1,581,518
1961年 1,451,855

ブルガリアの牛飼養数データを追うと、1960年代から1980年代中頃にかけて牛の飼養数が上昇した時期があることがわかります。この期間はブルガリアが社会主義体制下にあった時期であり、政府主導の農業集団化政策が徹底されていました。集団農場(コルホーズ)による大規模な畜産業が展開され、畜産頭数の増加がその成果と言えるでしょう。しかし、1989年に社会主義体制が崩壊したことが転機となり、以降の飼養数は急激に減少しました。

1990年代以降の急激な減少は、社会主義体制崩壊後の市場経済への移行が主要因と考えられます。農業集団化が解体される中で、多くの小規模農家が経営を維持することが困難になり、畜産業が縮小していきました。データによると、1993年には大幅な減少が顕著となり、わずか973,727頭まで減っています。さらに、ブルガリアが欧州連合(EU)へ加盟した2007年以降、EU基準に合わせた農業政策が実施されるようになり、小規模農場にとって新基準への対応が大きな負担となりました。このため、多くの農家が生産活動を停止する結果となった可能性があります。

2020年ごろから一時的な増加傾向が見られるものの、これは統計上の波であると考えられ、長期的な減少傾向を覆すものではありません。この背景には、経済的な要因だけでなく、ブルガリアの畜産業が直面する課題が複雑に絡み合っています。牛の飼養数の減少は、畜産物供給量の低下、地方経済の衰退、さらには社会的格差の拡大にもつながっています。

特に、ブルガリア国内では都市部への人口集中が進んでおり、地方部で農業や畜産に従事する労働力が減少しています。また、気候変動による農業環境の変化も、飼養数の減少に影響を与えている可能性があります。乾燥化や異常気象などの気候リスクにより、飼料作物の生産が不安定になり、畜産業の経営リスクが高まっています。

一方で、EUの補助金制度を活用した畜産業の近代化や、輸出市場の開拓などの新たな取り組みもみられます。これらは一定の成果を上げていますが、特に小規模農家の経済的負担を軽減する政策や、地域社会との連携を強化するための制度設計が不足している点が、改善の余地として指摘できます。

今後の対策としては、まず農家の技術支援体制を強化することが挙げられます。例えば、EUの補助金を専用の教育プログラムや設備投資に充てることで、生産効率の向上を図ることができます。また、気候変動への対応としては、耐旱性飼料作物の開発や灌漑設備の導入を進めることが考えられます。さらに、都市部への人口流出の抑制には、地方経済の魅力を高める政策が欠かせません。畜産業の安定した発展を目指し、地域の観光業や特産品のブランド戦略と連携させる手法も有効です。

長期的には、ブルガリア国内の農業従事者と政策立案者が協働し、持続可能な畜産業モデルを構築することが必要です。国際機関や近隣諸国との協力を強化し、知見を共有することで、ブルガリアの畜産業が再び成長路線に乗る可能性があります。地政学的リスクや気候リスクにも対応できる柔軟な政策展開が求められる中で、これらの取り組みがブルガリアの農業全体の復興にもつながると考えられます。