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パキスタンの大豆生産量推移(1961年~2023年)

国際連合食糧農業機関(Food and Agriculture Organization, FAO)が2024年7月に更新した最新データによると、パキスタンの大豆生産量は長期にわたって大きな変動を見せています。1960年代は低い水準から徐々に増加し、1990年代半ばには最高値の8,229トンを記録しました。しかし、その後の生産量は著しく減少し、2022年にはわずか9トンにとどまりました。この変動の背後には、気候条件、農業インフラ、政策方針など多岐にわたる要因が存在します。

年度 生産量(トン) 増減率
2023年 7
-22.22% ↓
2022年 9
-81.25% ↓
2021年 48
-76.12% ↓
2020年 201
1240% ↑
2019年 15
-46.43% ↓
2018年 28
47.37% ↑
2017年 19
-52.5% ↓
2016年 40
81.82% ↑
2015年 22
-65.08% ↓
2014年 63
-3.08% ↓
2013年 65
1.56% ↑
2012年 64
-28.09% ↓
2011年 89
74.51% ↑
2010年 51
64.52% ↑
2009年 31
6.9% ↑
2008年 29
-9.38% ↓
2007年 32
-92.4% ↓
2006年 421
59.47% ↑
2005年 264
-28.84% ↓
2004年 371
5.7% ↑
2003年 351
-72.27% ↓
2002年 1,266
-9.83% ↓
2001年 1,404
-8.65% ↓
2000年 1,537
-0.45% ↓
1999年 1,544
-81.24% ↓
1998年 8,229
12.56% ↑
1997年 7,311
171.38% ↑
1996年 2,694
-62.73% ↓
1995年 7,228
36.43% ↑
1994年 5,298
123.26% ↑
1993年 2,373
78.82% ↑
1992年 1,327
40.27% ↑
1991年 946
11.43% ↑
1990年 849
-27.37% ↓
1989年 1,169
-23.39% ↓
1988年 1,526
-59.58% ↓
1987年 3,775
46.03% ↑
1986年 2,585
61.36% ↑
1985年 1,602
1.97% ↑
1984年 1,571
16.37% ↑
1983年 1,350
-12.05% ↓
1982年 1,535
14.38% ↑
1981年 1,342
1.21% ↑
1980年 1,326
-24.44% ↓
1979年 1,755
36.05% ↑
1978年 1,290
109.76% ↑
1977年 615
52.61% ↑
1976年 403
-9.03% ↓
1975年 443
-55.79% ↓
1974年 1,002
-13.55% ↓
1973年 1,159
24.36% ↑
1972年 932
0.54% ↑
1971年 927
3% ↑
1970年 900
5.88% ↑
1969年 850
13.33% ↑
1968年 750
15.38% ↑
1967年 650
18.18% ↑
1966年 550 -
1965年 550
10% ↑
1964年 500
11.11% ↑
1963年 450 -
1962年 450 -
1961年 450 -

パキスタンの大豆生産量の推移を見ると、まず1961年から1970年代初期にかけてはゆっくりと上昇していることがわかります。この期間の増加は、緑の革命(Green Revolution)と呼ばれる農業技術革新の導入が背景にあります。1970年代後半から1980年代に入ると、生産量はさらに拡大し、1986年には2,585トン、1987年には3,775トンを記録しました。しかし、1980年代後半から1990年代には不安定な変動が頻発し、1994年から1998年にかけては比較的高い生産量を維持したものの、その後劇的な減少傾向が始まりました。2000年代以降の生産量はほとんどが1,000トン未満で、2010年代後半以降はさらに深刻な低水準に陥り、2022年にはわずか9トンという事実を示しています。

この生産量の極端な変動にはいくつかの重要な背景があります。第一に、パキスタンでは経済的な優先順位や農業政策が繰り返し変化してきた結果、大豆の栽培が戦略的に重要視されなかったことが挙げられます。大豆は主に油脂や飼料として使用される作物であり、米や小麦のような主食作物に比べて政策的支援が不足していました。また、地政学的な面では、パキスタンはインドと隣接しているため、水資源の争奪や地域衝突が農業に影響を及ぼしています。この他、主要輸出先市場の需要変動や国際価格の動向も地域の農業生産に大きな影響を与えたと考えられます。

さらに、気候変動による天候の不安定化も重要な要因の一つです。パキスタンは極端な暑さや乾燥、さらには洪水被害にも悩まされています。2010年には洪水が国全体の農業生産に壊滅的な影響を与え、それ以降も自然災害が続いています。このような環境問題に直面する中、農家は高い報酬が望める作物に転向するケースも増え、大豆生産のモチベーションが低下しました。

新型コロナウイルスの影響も無視できません。パンデミック中は世界的な供給網が混乱し、農業資材の輸入が難しくなり、農民が本来の生産活動に集中できない状況が続きました。これも2020年以降の生産量減少に影を落としています。

このように、大豆生産量の低迷は複合的な要因によるものですが、これに対する具体的な対策が求められます。まず、政策的には、大豆を同国の農業生産の中心的な作物として位置づけることが必要です。例えば、農家への融資や補助金を拡充し、近代的農業技術の導入を促す支援を強化することが有効です。さらに、気候変動に対する適応策として乾燥地帯でも収穫可能な大豆品種の研究開発を進めることが重要です。地域協力の観点からは、隣国インドや中国の技術協力を得て生産効率を高める取り組みも期待されます。日本やアメリカのような先進国からの技術移転や専門家派遣も効果的です。

このデータから導き出される結論は、パキスタンの大豆生産が現在のままでは自給自足もままならない水準に陥っているという点です。このままでは大豆製品の需要が増加している世界市場において競争力を喪失するリスクが高まります。今後、パキスタン政府は農業政策の構造的な見直しと国際協力を通じ、持続可能な生産基盤の確立に取り組む必要があります。また、国際機関も同国の農業セクターを支援する具体的なプロジェクトの構築に関与すべきです。これらの取り組みにより、大豆生産の回復と強化が期待されます。