Food and Agriculture Organization(国際連合食糧農業機関)が発表した2024年7月更新のデータによると、ブルネイ ダルサラームの牛乳生産量は、1961年の116トンから、長期間にわたって減少と増加を繰り返してきました。1990年以降に一時的大幅な増加を見せ、1999年には398トンのピークに達しましたが、それ以降はほぼ減少傾向にあります。近年では2022年に172トンと過去最低に近い水準まで減少しています。
ブルネイ ダルサラームの牛乳生産量推移(1961-2022)
年度 | 生産量(トン) |
---|---|
2022年 | 172 |
2021年 | 177 |
2020年 | 229 |
2019年 | 230 |
2018年 | 233 |
2017年 | 255 |
2016年 | 260 |
2015年 | 266 |
2014年 | 234 |
2013年 | 224 |
2012年 | 228 |
2011年 | 252 |
2010年 | 305 |
2009年 | 292 |
2008年 | 280 |
2007年 | 316 |
2006年 | 302 |
2005年 | 331 |
2004年 | 340 |
2003年 | 397 |
2002年 | 404 |
2001年 | 415 |
2000年 | 373 |
1999年 | 398 |
1998年 | 297 |
1997年 | 299 |
1996年 | 243 |
1995年 | 240 |
1994年 | 228 |
1993年 | 225 |
1992年 | 236 |
1991年 | 244 |
1990年 | 41 |
1989年 | 40 |
1988年 | 40 |
1987年 | 40 |
1986年 | 40 |
1985年 | 96 |
1984年 | 96 |
1983年 | 96 |
1982年 | 96 |
1981年 | 96 |
1980年 | 108 |
1979年 | 112 |
1978年 | 104 |
1977年 | 104 |
1976年 | 104 |
1975年 | 112 |
1974年 | 128 |
1973年 | 120 |
1972年 | 124 |
1971年 | 126 |
1970年 | 128 |
1969年 | 126 |
1968年 | 120 |
1967年 | 112 |
1966年 | 108 |
1965年 | 82 |
1964年 | 90 |
1963年 | 112 |
1962年 | 124 |
1961年 | 116 |
ブルネイ ダルサラームは経済規模が比較的小さく、かつ資源収益に依存する形態の国ですが、その農業および酪農分野も同様に小規模であり、国内の自給自足率が低い国です。牛乳生産量の歴史を振り返ると、1961年から1980年代半ばまでは小規模で停滞傾向が続き、平均100トン前後で推移していました。しかし、1986年には40トンと急激な減少が見られます。これは、農業技術の遅れや、近隣諸国からの輸入製品への依存度が高まったことが主な理由として考えられます。また、この時期は資源収益に基づいた輸入依存の経済構造が国内生産の必要性を低下させた可能性があります。
その後、1990年代になると牛乳生産は劇的な増加を見せ、1999年までには398トンのピークを迎えました。この時期の要因として、国際市場における食品価格の変動や、国内政策による自給率向上の取組みが考えられます。ただし、2000年代初頭から生産量は再び減少に転じ、2022年には約172トンに落ち込みました。この減少傾向は、ブルネイ特有の地理的条件や農業の困難性、特に土地の限界、気候変動の影響の可能性が影響していると考えられます。更に、ブルネイの政府が酪農部門への投資を限定的にしてきた点も重要な要素です。
ブルネイの状況を他国と比較してみると、例えば日本では牛乳生産量が年間約700万トン前後を記録しており、ブルネイとは規模が全く異なるものの、国内需要を満たすための酪農政策が重要視される傾向が国の規模に関係なく分かります。隣国のマレーシアでも自給率向上のため牛乳生産を支える政策を進めていますが、ブルネイは農業技術やインフラの不足から遅れをとっているようです。
ブルネイ ダルサラームの牛乳生産は、地政学的な観点でも考える必要があります。同国は地理的に東南アジアの一角を占め、物資輸送の依存度が高い地域に位置しています。そのため、輸入牛乳や乳製品への依存が、安全保障や地政学的リスクに直結する可能性があります。特にパンデミックや国際物流の混乱が起きた場合には、供給網の脆弱性が浮き彫りになり、国内生産の必要性が見直される可能性があります。
課題としてはまず、酪農に従事する労働者や農業技術の確保、そして気候変動への適応が挙げられます。同地域における気温上昇や降雨パターンの変化は、牛乳生産に必要な飼料や水資源にも影響をあたえるからです。また、人口規模が比較的小さいブルネイでは、酪農における効率化と持続可能な投資の仕組みが欠如していると思われます。
具体的な提言としては、まず国内の酪農政策を見直し、農家への柔軟な助成金支援や、現代的な農業技術の導入を進めることが重要です。また、近隣諸国との協力の枠組みを作り、技術交換や資源共有を行うとともに、将来的な地政学リスクに備えた輸入品への依存削減を目指すべきです。特にASEAN地域での農業技術協力プロジェクトを活用し、ブルネイの規模に合った小規模でかつ効率的な酪農モデルを構築することが現実的です。これを実現するためには、ブルネイ政府と国際機関、そして地域諸国との連携が不可欠です。
最後に、ブルネイ ダルサラームにおける牛乳生産量の減少傾向は単なる統計データではなく、食料安全保障や経済的な持続可能性の重要な指標であるといえます。この課題に取り組むことで、安定した乳製品供給の確保だけでなく、国民の健康や自給率向上が期待されるでしょう。また国内産業の振興を通じて、ブルネイの経済の新たな柱として酪農が設けられる可能性も秘めています。