Skip to main content

ボスニア・ヘルツェゴビナの天然蜂蜜生産量推移(1961-2022)

ボスニア・ヘルツェゴビナにおける天然蜂蜜の生産量は、1990年代において安定しない低水準の生産傾向を示しましたが、2000年以降、生産量は急激に増加しました。その後、一時的な減少や年による変動があるものの、2010年代半ばには激増し、一部の年には4,000トンを超える高水準を記録しています。ただし、直近のデータである2021年からは減少傾向が見られ、2022年には2,560トンとやや回復したものの、2010年代後半の水準とは開きがあります。この生産推移は、政情不安の影響や気候変動、環境変化によるものと考えられます。

年度 生産量(トン)
2022年 2,560
2021年 1,876
2020年 2,687
2019年 3,359
2018年 3,992
2017年 2,635
2016年 3,148
2015年 4,926
2014年 2,678
2013年 3,644
2012年 3,107
2011年 3,059
2010年 3,340
2009年 3,261
2008年 2,571
2007年 2,773
2006年 3,017
2005年 2,635
2004年 2,296
2003年 1,150
2002年 1,086
2001年 990
2000年 876
1999年 830
1998年 791
1997年 684
1996年 604
1995年 450
1994年 420
1993年 400
1992年 470

国際連合食糧農業機関(FAO)が2024年7月に更新した最新データによると、ボスニア・ヘルツェゴビナにおける天然蜂蜜の生産量は過去数十年にわたり大きな変動を経験しました。1990年代の初め、国が内戦の影響を受けた時期には、1992年から1995年にかけて生産量が年間400トンから470トン程度と低水準に留まりましたが、戦後復興が進むなかで1990年代後半には生産が回復し、1996年以降は600トン以上に増加しました。この上昇は、経済安定化と農業支援政策が影響を与えたと考えられます。

2000年以降、生産量はさらに加速し、2004年に2,296トンと劇的な上昇を見せました。この増加は、養蜂技術の改善、農業インフラの再整備、EU圏との協力強化が背景にあると推察されます。その後、2010年には3,340トン、さらに2015年には4,926トンという過去最高の値を記録するなど、ボスニア・ヘルツェゴビナの蜂蜜生産は世界でも注目を浴びる存在となりました。

一方で、2010年代後半以降は生産量に波があり、2015年のピークを境に減少や変動が目立ちました。2021年には大幅な落ち込みが見られ、生産量は1,876トンにまで下がりました。この減少要因としては、気候変動による影響、蜂群崩壊症候群(蜂の大規模な減少)の影響、さらには新型コロナウイルスのパンデミックによる物流・労働力不足が挙げられます。ただし、2022年には2,560トンに回復しており、一定の生産再建が進められていることが伺えます。

地域的な課題も多く指摘されています。ボスニア・ヘルツェゴビナの養蜂産業は、小規模な家族経営による生産が中心であり、大規模な農業インフラや資本の導入が不足しています。また、農地や緑地の開発が進むことで、蜜源植物の減少が進行しています。他国と比較してみると、例えばドイツの最新データの年平均生産量は約20,000トンとされ、ボスニア・ヘルツェゴビナの生産規模はこの十分の一に過ぎません。また、中国やインドは世界最大の蜂蜜生産国であり、それぞれ年間数十万トンを生産しています。このため、ボスニア・ヘルツェゴビナの蜂蜜は国内消費を主とし、輸出市場では規模の面で競争力に限りがあると言えます。

地政学的な背景として、1990年代の内戦によって農業基盤が大きく損なわれた歴史があります。これに加え、気候変動による影響も相俟って、近年の収穫低下が生産者にとって深刻な課題となっています。地中海性気候に近い温暖な条件は蜂蜜生産に適していますが、近年の異常気象や干ばつが蜜源植物や蜂の活動に悪影響を及ぼしています。

この状況を受け、ボスニア・ヘルツェゴビナではいくつかの具体的な対策が必要です。まず、持続可能な農業形態を推進するため、養蜂技術への投資や教育が求められます。地元の養蜂家向けに気候変動に対応する技術指導を導入することも重要です。また、EUや国際機関との提携を強化し、蜂蜜の輸出市場を開拓するとともに、国内生産の効率化を図るべきです。さらに、生態系の保護を重視し、蜜源植物の保全プログラムを推進する施策も欠かせません。

総じて、ボスニア・ヘルツェゴビナの天然蜂蜜産業は長期的に成長の可能性を秘めていますが、その実現には政策面での支援や持続可能な取り組みが不可欠です。国や国際機関が協力して、気候変動や経済環境の変化に柔軟に対応することで、将来的な安定的成長への道筋を見出すことができるでしょう。