レソトは南アフリカに囲まれた山岳国
レソト王国は、南部アフリカにある内陸国です。海へ面していないだけでなく、国境の全周を南アフリカ共和国に囲まれています。
国土面積は30,355平方キロメートル。レソト政府は、地形を高原、丘陵、山地が中心と説明しています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 国土面積 | 30,355km² |
| 最低標高 | 約1,400m |
| 最高標高 | 3,482m |
| 最高地点 | タバナ・ントレニャナ山 |
| 平均標高 | 2,161m |
| 標高1,800m超の国土 | 約80% |
| 周囲の国 | 南アフリカ共和国 |
最低・最高標高はレソト政府の脆弱性評価委員会、平均標高と1,800m超の割合は世界銀行資料に基づきます。
国の最低地点が約1,400m
レソトの標高は、およそ1,400mから3,482mです。
ここで注目したいのは、最高地点ではなく最低地点です。
多くの国では、海岸が海抜0mに近い最低地点になります。内陸国でも、川の谷や盆地に数百メートル以下の土地があることは珍しくありません。
ところが、レソトには海抜1,400mより低い土地がありません。国連へ提出されたレソトの基礎文書も、同国には1,400mを下回る土地がなく、国の最低地点として世界で最も高いと説明しています。
レソトの「最低地点」は、ほかの多くの国なら高原や山地に分類される高さなのです。
「世界で唯一」は条件を付けて説明する
レソトは「国土全体が標高1,000m以上にある世界唯一の国」とよく紹介されます。
より正確には、「国際的に承認された独立国の全領域を比較した場合」と条件を付ける必要があります。海外領土、自治地域、領有権が争われる地域などを含めると、比較対象の定義が変わるためです。
その条件では、レソトは次の二つの特徴を持ちます。
- 全領域が海抜1,000mを超える唯一の独立国とされる
- 最低地点の標高が最も高い独立国とされる
「世界で最も標高が高い国」とだけ表現すると、平均標高、首都の標高、最高峰など別の比較と混同します。レソトの特徴は「国土全体」と「最低地点」にあります。
最高地点は3,482mのタバナ・ントレニャナ山
レソトの最高地点は、タバナ・ントレニャナ山(Thabana Ntlenyana)です。標高は3,482m。
日本最高峰の富士山3,776mより294m低いものの、山頂の高さだけを比べればかなり近い数字です。
ただし、富士山は周辺の平地から大きくそびえますが、タバナ・ントレニャナ山は、もともと標高の高いマロティ・ドラケンスバーグ高地の上にあります。
レソトの特徴は、一つの巨大な山だけが高いことではありません。国土の土台そのものが高く、そこへさらに山や谷が刻まれていることです。
なぜ国全体が高いのか
レソトの大部分は、南部アフリカの内陸高原とマロティ・ドラケンスバーグ山地に位置します。
南アフリカ政府も、同国の内陸部が平均約1,200mの高原で、東側に3,000mを超えるドラケンスバーグ山地がそびえ、そこにレソトの高原が連なると説明しています。
レソトの国境は、単純な等高線ではありません。王国の形成、周辺勢力との関係、19世紀の植民地化などを経て現在の形になりました。しかし、その領域が高原と山地の上に残ったため、国全体が高いという珍しい地理が生まれています。
レソト政府によると、モショエショエ1世が19世紀前半に人々をまとめ、のちにバストランドとしてイギリスの保護下に入り、1966年10月4日にレソトとして独立しました。
地質と地形が高い土地をつくり、歴史が現在の国境を形づくった。二つを合わせて考えると、「国全体が山の上にある」理由が見えてきます。
レソトにも「低地」がある
国土全体が高いにもかかわらず、レソトの地理資料には「低地(Lowlands)」という言葉が出てきます。
これは海抜の低い土地という意味ではなく、国内の高山地帯と比べて低い地域です。
FAOの資料では、レソトの農業生態地域を低地、山麓、山地、センク川流域などに分けています。低地は主に西側にあり、比較的平らで土壌が深いため、集落や耕地が集まりやすい地域です。
首都マセルも西部の低地側にあります。
レソトで「低地へ行く」といっても、標高1,000mを下回る場所へ下りるわけではありません。国内基準の相対的な呼び方なのです。
国土の約80%が標高1,800mを超える
世界銀行の事業資料によると、レソトでは国土のおよそ80%が標高1,800mを超え、平均標高は2,161mです。
標高1,800mは、山歩きなら天候や気温の変化を意識する高さです。それを超える土地が、国土の大部分を占めます。
高地は一様ではありません。FAOの山岳農業調査では、標高1,750~2,500mの台地と、2,500mを超える高山帯などが区別されています。2,500mを超える地域は主に夏の放牧に使われ、調査当時、恒常的な集落はほとんどなく、季節的な家畜の拠点が置かれていました。
西部の比較的低い地域に人口と農地が集まり、東部・中央部の高地では放牧や水源保全が重要になるという、標高に応じた土地利用が見られます。
アフリカ南部でも冬には雪が降る
レソトは南緯およそ28~31度にあり、緯度だけを見れば比較的温暖な地域です。しかし、標高が高いため、気候は周辺の低地より冷涼です。
レソト政府は、気候を次のように案内しています。
- 冬:涼しい、または寒く、乾燥する
- 夏:暑く、雨が多い
- 高標高地域:冬に雪が降ることがある
国連資料は、高地で厳しい冬と大雪が起こり、集落が保健サービスや食料供給から一時的に切り離される場合があるとしています。
「アフリカだから一年中暑い」と考えると、レソトの気候を見誤ります。緯度だけでなく標高を見ることが大切です。
高地は暮らしと移動をどう変えるのか
山が多い国土では、地図上の直線距離が短くても、谷を回り、峠を越える必要があります。
FAOの山岳農業調査は、高地の一部で保健施設や学校が遠く、住民が徒歩や馬で長い距離を移動していたことを記録しています。
レソト政府の観光案内でも、バソト・ポニーと呼ばれる馬によるトレッキングが紹介されています。馬は文化的な象徴であると同時に、急な道や山間部と結び付いた移動手段です。
ただし、レソトの人々が全員、日常的に馬で移動するわけではありません。都市部や幹線道路では自動車交通が使われ、高地の道路や橋も整備されています。馬は、地域や用途によって今も重要性を持つと表現するのが適切です。
標高は農業の可能性と限界を決める
高地では気温が低く、霜が降り、作物を育てられる期間が短くなります。傾斜地では土壌が薄く、強い雨や不適切な土地利用によって侵食が進みやすくなります。
そのため、比較的平らで土壌の深い西部の低地や山麓には、トウモロコシ、ソルガム、小麦、豆類などの耕地が集まります。さらに高い地域では、羊、ヤギ、牛などの放牧が重要です。
FAOは、レソトの地域的な保全農法として「リコティ(likoti)」も紹介しています。畑に小さな植え穴を設け、水分や有機物を集め、土壌流出を抑えながら作物を育てる方法です。
高地は農業を不可能にするのではありません。作物、季節、斜面、水の使い方を土地に合わせる必要があるのです。
山から流れる水は国を支える資源
高い山地に降った雨や雪は、川となって谷を流れます。レソトを代表する川が、国内でセンク川、南アフリカ側でオレンジ川と呼ばれる水系です。
この水を利用する大規模事業が「レソト高地水利事業(Lesotho Highlands Water Project)」です。
レソト高地開発庁によると、事業は1986年にレソトと南アフリカが結んだ条約に基づき、次の二つを主な目的としています。
- レソト高地の水を南アフリカのハウテン地域へ送る
- 送水施設を利用してレソトで水力発電を行う
条約第4条にも、センク/オレンジ川の水を貯留・調整・導水し、南アフリカへ一定量を送るとともに、レソトで水力発電に利用する目的が記されています。
山は交通や農業に制約を与える一方、水資源と水力発電の基盤にもなっています。
高地の水は無限ではない
「水の豊かな高地」と聞くと、レソトには水不足がないように思えるかもしれません。
しかし、降水量は年や季節によって変動し、すべての集落がダムや水道へ容易にアクセスできるわけでもありません。干ばつ、激しい降雨、土壌侵食は、農業と水の安定供給を脅かします。
レソト政府は、気候変動に伴う長期的な干ばつ、不規則な降雨、深刻な土壌侵食、水不足を課題として挙げています。
高地に水源があることと、すべての人が安全な水を安定して使えることは同じではありません。ダム、配水設備、流域の植生、土壌を一体で守る必要があります。
高地には独自の生態系と世界遺産がある
レソト南東部のセラバテベ国立公園は、標高約2,200~2,600mに広がります。
レソト環境局によると、公園には高山・亜高山の草地、湿地、砂岩地形があり、湿地はレソトだけでなく南アフリカやさらに下流域へ流れる水の供給にも関わっています。
同公園は、南アフリカ側のウカランバ・ドラケンスバーグ公園とともに、国境を越える世界遺産「マロティ・ドラケンスバーグ公園」を構成します。
ここでは、高地の自然だけでなく、サンの人々が残した岩絵などの文化遺産も保護されています。標高は気候や植生を変え、人間の歴史が刻まれる景観も形づくってきました。
「天空の王国」は観光コピーだけではない
レソト政府は公式ページで自国を「The Kingdom in the Sky」と呼んでいます。
この表現は、国名がレソト王国であることと、国土全体が高地にあることを組み合わせたものです。
ただし、「空に近い美しい国」という印象だけで終わらせると、高地で暮らす現実を見落とします。
- 急峻な地形が道路や公共サービスを難しくする
- 冬の雪が高地の集落を孤立させることがある
- 耕作に適した土地が限られる
- 土壌侵食や干ばつへの対策が必要になる
- 高地の水が国内外の生活と産業を支える
- 山岳景観や生態系が観光・文化資源になる
標高は、利点と課題の両方を生みます。「天空の王国」は、その両面を知る入口となる呼び名です。
まとめ
レソトは、国土全体が高地にある南部アフリカの王国です。
- 国境の全周を南アフリカに囲まれている
- 国土面積は30,355km²
- 最低地点でも海抜約1,400m
- 最高地点はタバナ・ントレニャナ山の3,482m
- 平均標高は2,161m
- 国土のおよそ80%が標高1,800mを超える
- 独立国では唯一、全領域が標高1,000mを超えるとされる
- 国内の「低地」も、ほかの国なら高原に相当する高さにある
- 冬には高地で雪が降り、農業や交通にも標高が影響する
- 高地の水は南アフリカへの送水と国内の水力発電に使われる
レソトが「天空の王国」と呼ばれるのは、国の一部に高い山があるからではありません。
暮らし、農業、水、交通、文化を含む国全体が、高い土地の上に築かれているからなのです。
記事クイズ
第1問
レソトの最低地点の標高は、およそ何メートルでしょう?
- A. 0m
- B. 400m
- C. 1,400m
- D. 2,400m
答え:
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
正解:C. 1,400m
レソトには海抜約1,400mより低い土地がありません。独立国の最低地点としては、世界で最も高いとされます。
第2問
レソトの国土を取り囲んでいる国はどこでしょう?
- A. ボツワナ
- B. 南アフリカ共和国
- C. エスワティニ
- D. ジンバブエ
答え:
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
正解:B. 南アフリカ共和国
レソトは、国境の全周を南アフリカに囲まれた内陸国です。
第3問
レソト高地水利事業の主な役割として正しいものはどれでしょう?
- A. 海水を淡水化してレソトへ送る
- B. 水を南アフリカへ送り、レソトで水力発電にも使う
- C. 雪を人工的に降らせる
- D. インド洋まで運河を掘る
答え:
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
正解:B. 水を南アフリカへ送り、レソトで水力発電にも使う
1986年の二国間条約に基づき、センク/オレンジ川水系の水を南アフリカへ送り、その施設をレソトの水力発電にも利用します。