まず「内陸国」とは何か
内陸国とは、一般に、世界の海洋へ直接つながる海岸線を持たない国を指します。
隣国を通れば海へ出られる国も、国土そのものが海に面していなければ内陸国です。たとえばモンゴルはロシアと中国に囲まれ、ボリビアは南アメリカ内陸部にあります。
国連は、開発上の共通課題を持つ国々を「内陸開発途上国(LLDC)」として扱っています。内陸国という地理分類とLLDCという政策分類は完全に同じではありませんが、海港へ直接アクセスできず、通過国へ依存しやすい点が重要です。
「二重内陸国」は周辺国もすべて内陸国
二重内陸国は、英語で doubly landlocked country と呼ばれます。
条件は二段階です。
- 自国が外洋に面していない
- 国境を接するすべての国も外洋に面していない
たとえば、ウズベキスタンからイランのペルシャ湾岸へ向かう場合は、次のようになります。
<pre><code>ウズベキスタン → トルクメニスタン → イラン → ペルシャ湾</code></pre>
ウズベキスタンを出てトルクメニスタンへ入り、さらにイランへ入って初めて外洋につながる海岸へ到達します。
「2回国境を越えれば必ず港へ着く」という意味ではありません。選ぶ方向によっては、さらに多くの国やカスピ海・黒海のフェリーを経由します。二重内陸国という言葉が示すのは、外洋までに必要な越境回数の最小条件です。
ウズベキスタンを囲む5か国
ウズベキスタン政府によると、国土面積は44万8,900平方キロメートル。次の5か国と国境を接しています。
| 隣国 | 主な方向 | 外洋に面しているか |
|---|---|---|
| カザフスタン | 北・北東 | 面していない |
| キルギス | 東 | 面していない |
| タジキスタン | 東・南東 | 面していない |
| トルクメニスタン | 西 | 面していない |
| アフガニスタン | 南 | 面していない |
世界銀行も、ウズベキスタンを世界で2か国しかない二重内陸国の一つであり、中央アジアのほかの4か国すべてとアフガニスタンに接する唯一の国と説明しています。
どの方向へ進んでも、最初に入る国は内陸国です。
カスピ海に面する国も内陸国なの?
ここで疑問になるのが、カザフスタンとトルクメニスタンです。両国は地図上で「カスピ海」に面しています。
それでも二重内陸国の判定では、両国は内陸国として扱われます。
理由は、カスピ海が外洋へ直接つながらない閉じた水域だからです。欧州宇宙機関(ESA)は、カスピ海を世界最大の内陸水域と説明しています。
カスピ海で船を使うことはできますが、そこから外洋へ出るには、運河や河川、鉄道、道路など別の交通路を経由しなければなりません。
「海」という名前が付いていることと、「外洋へ直接出られる海岸線があること」は同じではないのです。
アラル海も外洋への出口ではない
ウズベキスタン北西部には、かつて広大なアラル海がありました。現在は大きく縮小していますが、名称には今も「海」が付いています。
アラル海も海洋から切り離された内陸水域です。歴史的に漁業や地域交通を支えたとしても、外洋の港へつながる出口ではありません。
2025年6月の国連海洋会議へ提出されたウズベキスタン政府代表の声明も、同国を世界に2か国しかない二重内陸国の一つと説明したうえで、アラル海をかつて世界第4位の大きさだった内陸水域と位置付けています。
外洋までは1,700km以上
国連の2024年9月5日付資料によると、ウズベキスタンは最も近い海洋から1,700km以上離れています。
この数字は、「最寄りの港まで道路で必ず1,700km」という意味ではありません。測る地点、目的の港、使える道路・鉄道、国境通過地点によって実際の輸送距離は変わります。
重要なのは、外洋まで国境と長い陸上区間が続くことです。
もう一つの二重内陸国はリヒテンシュタイン
世界でもう一つの二重内陸国とされるのが、ヨーロッパのリヒテンシュタインです。
リヒテンシュタインはスイスとオーストリアの間にある、面積160平方キロメートルの小国です。
- リヒテンシュタイン:スイスとオーストリアに囲まれる
- スイス:内陸国
- オーストリア:内陸国
したがって、リヒテンシュタインからも外洋へ向かうには、少なくとも2か国を通ります。
ただし、同じ二重内陸国でも、国土の規模、周辺の交通網、通関制度、利用できる港は大きく異なります。この分類は地理的な共通点を示すもので、両国の経済条件まで同じだという意味ではありません。
海までの経路を地図で考えてみよう
ウズベキスタンから外洋の港へ向かう方向は一つではありません。
| 方向 | 経路の例 | 到達する海域・港の例 |
|---|---|---|
| 南西 | トルクメニスタン→イラン | ペルシャ湾・バンダルアッバース港 |
| 東 | カザフスタン→中国 | 太平洋側・連雲港など |
| 北 | カザフスタン→ロシア | ロシアの海港 |
| 西 | トルクメニスタン→カスピ海→アゼルバイジャン→ジョージア | 黒海・ポティ港など |
| 南 | アフガニスタン→パキスタン | アラビア海・カラチ港などを目指す構想 |
ウズベキスタン運輸省が2019年に公表した国際鉄道回廊には、トルクメニスタンとイランを通るバンダルアッバース方面、カザフスタンと中国を通る連雲港方面、カスピ海・アゼルバイジャン・ジョージアを通る黒海方面などが掲載されています。
実際に使える経路や所要時間は、国境の運用、鉄道の接続、フェリーの便、国際情勢、貨物の種類によって変わります。
二重内陸国では、なぜ輸送が複雑になるのか
海上輸送を利用する輸出入品は、港へ着くまでに他国の領域を通ります。通過する国が増えると、必要な調整も増えます。
- 国境での税関・検査
- 貨物書類やデータ形式の確認
- 道路・鉄道・港の利用条件
- 鉄道の軌間や車両規格への対応
- 複数の運送事業者への引き継ぎ
- 国境や港の混雑による待ち時間
- 通過国の制度変更や交通障害への対応
国連は、内陸開発途上国が通過国のインフラと行政手続きに依存し、複数の国境や統一されていない手続きによって、高い貿易費用を負いやすいと説明しています。
世界銀行も、二重内陸国であるウズベキスタンは、国境を越える交通網と、その交通網が円滑に機能するかどうかへ強く依存すると指摘しています。
海から遠い一方、中央アジアの中央にある
二重内陸国という特徴は、弱点だけではありません。
ウズベキスタンは中央アジア4か国すべてとアフガニスタンに接しています。東の中国、西のカスピ海・ヨーロッパ、南のイラン・アフガニスタン、北のカザフスタン・ロシア方面へつながる位置です。
サマルカンドやブハラがシルクロードの交易都市として栄えたのも、海港ではなく、大陸を横断する陸上交通の結節点にあったからです。
海岸がないことは変えられませんが、「海から遠い場所」を「大陸交通の中央」に読み替えることはできます。
「ドライポート」は海のない国の陸の港
2026年7月1日、ウズベキスタン大統領府は、タシケント、ナヴォイ、ナマンガンで近代的な物流センターと「ドライポート」の整備が進んでいると発表しました。
ドライポートは、海に面していない内陸部に設ける物流拠点です。鉄道や道路で海港と結び、コンテナの積み替え、保管、通関などをまとめて行います。
名前に「港」とありますが、船が直接着く場所とは限りません。海港で行う機能の一部を内陸へ移す「陸の港」です。
大統領府資料によると、国内には国際的な通過回廊が約4,000km、鉄道網が約4,700kmあります。一方、国境検問所の処理能力、冷蔵・税関倉庫、コンテナ化、情報システムの連携には課題があるとされています。
中国―キルギス―ウズベキスタン鉄道は建設中
新しい東向きルートとして注目されるのが、中国―キルギス―ウズベキスタン鉄道です。
建設開始の式典は2024年12月27日に行われました。計画では、中国のカシュガルからキルギスのトルガルト、マクマル、ジャララバードを経て、ウズベキスタンのアンディジャンへ至ります。
ウズベキスタン政府の2026年7月16日発表では、工事は予定された工程に沿って進められていると説明されています。
これは完成済みの鉄道ではありません。開通時期、輸送量、所要時間などは計画・見込みであり、実績とは区別する必要があります。
インド洋への「南の出口」も構想段階
南側では、ウズベキスタンからアフガニスタンを通り、パキスタンのカラチ港やグワダル港へつなぐ「トランス・アフガン鉄道」が構想されています。
2026年7月1日の大統領府資料は、同プロジェクトを加速し、将来はパキスタンの港を通じてインド洋へアクセスする方針を示しました。
ただし、ウズベキスタンからパキスタンの港まで直通運行しているわけではありません。「完成した鉄道」ではなく、「計画・推進されている輸送回廊」と表現する必要があります。
2025年の通過貨物は1,530万トン
ウズベキスタン大統領府が2026年7月1日に示した数字では、2025年に同国を通過した貨物は1,530万トンでした。2021年と比べて54%増えています。
これは、ウズベキスタン自身の輸出入だけではなく、他国間を移動して国内を通過する貨物を含む「トランジット貨物」です。
二重内陸国は他国の交通網へ依存する一方、自国の鉄道や物流拠点を周辺国が利用する通過ルートにもなれます。
「海がない=孤立」ではない
地図だけを見ると、二重内陸国は海から閉ざされているように感じます。
しかし、現代の国際交流は海運だけで成り立っているわけではありません。
- 鉄道と道路で複数の海港へつながる
- 航空貨物で時間のかかる陸上区間を補う
- 国境手続きの電子化で待ち時間を減らす
- ドライポートで通関と積み替えを集約する
- 複数の輸送回廊を用意する
- デジタルサービスは物理的な港を通さず提供できる
二重内陸国という地理は変わりません。しかし、その影響はインフラ、制度、近隣国との協力によって変わります。
まとめ
ウズベキスタンは、世界でも珍しい二重内陸国です。
- 自国が外洋に面していない
- 隣接する5か国もすべて外洋に面していない
- 陸路で外洋へ出るには少なくとも2か国を通る
- カザフスタンとトルクメニスタンはカスピ海沿岸国だが、外洋への海岸線は持たない
- アラル海も外洋へつながらない内陸水域
- 国連資料では、最も近い海洋から1,700km以上離れる
- 世界でもう一つの二重内陸国はリヒテンシュタイン
- 輸出入では複数国の交通網と国境手続きに依存する
- 一方、中央アジアの大陸交通の結節点になり得る
- ドライポートや国際鉄道回廊の整備が進められている
シルクロードの時代から大陸交通の交差点だったウズベキスタンは、二重内陸国だからこそ、国境を越えてつながることの重要性が見える国なのです。
この記事に関するクイズ
第1問
「二重内陸国」の説明として正しいものはどれでしょう?
- A. 海岸線が二つに分かれている国
- B. 国内に二つの大きな湖がある国
- C. 自国も、隣接する国もすべて外洋に面していない国
- D. 国境を二つの国とだけ接している国
答え:
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正解:C. 自国も、隣接する国もすべて外洋に面していない国
外洋へ陸路で向かうには、少なくとも2か国を通る必要があります。
第2問
ウズベキスタンが国境を接している国はいくつでしょう?
- A. 3か国
- B. 4か国
- C. 5か国
- D. 7か国
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正解:C. 5か国
カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、アフガニスタンです。
第3問
ウズベキスタン以外の二重内陸国はどこでしょう?
- A. モンゴル
- B. ネパール
- C. リヒテンシュタイン
- D. パラグアイ
答え:
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正解:C. リヒテンシュタイン
リヒテンシュタインは、内陸国のスイスとオーストリアだけに囲まれています。