英国が4つの代表を持つのは王族のワガママ?
イギリスは正式には「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国(United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)」と呼ばれますが、実はイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドは歴史的に別々の国でした。サッカーが生まれた19世紀、各地に独自のサッカー協会が設立され、「我々こそが本家だ!」と主張し合う展開に。結果、統一されることなく、バラバラの代表ができあがったのです。
FIFAも思わず頭を抱えたイギリス問題
FIFAは当初、「1国1協会(=1代表)」を原則としていましたが、サッカー発祥国であるイギリスの影響力を無視できませんでした。1905年、イングランドがFIFAに加盟するまで、イギリス帝国は「自分たちはサッカーの母国であり、他国とレベルが違う」と主張し、FIFAに参加しませんでした。しかし、FIFAはイギリスの協力なしにはサッカーの国際大会を成立させることが難しく、例外的に英本土4協会をそれぞれ独立した加盟国として認めることにしました。この特例が後に、自治を持つ地域の協会もFIFAに加盟できる前例を作ることになりました。
その後、FIFAは自治権を持つ地域の協会も加盟できるルールを採用しました。例えば、デンマーク領のフェロー諸島、オランダ領のキュラソー、中国の香港、マカオや台湾(チャイニーズ・タイペイサッカー協会)などの地域協会として加盟しています。こうした地域の独立した代表権は、イギリスの特例がなければ生まれなかった可能性があります。
ラグビーはもっとカオスだった!?
サッカーだけではなく、ラグビーでも同じような状況が起こりました。ただし、ラグビーには「ブリティッシュ・アンド・アイリッシュ・ライオンズ」という謎の合同チームが存在。これは、4つの地域からスター選手を集めて南半球の強豪(ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ)と戦うためのドリームチームです。サッカーにはこんな仕組みがないので、「イギリス代表」は生まれなかったのです。
オリンピックではちゃっかり合同チーム?
ワールドカップには出場しない「イギリス代表」ですが、オリンピックでは存在します。なぜなら、オリンピックでは「イギリス(Great Britain)」としてエントリーしなければならないため、仕方なく合同チームを編成しているのです。オリンピックのサッカー競技では、FIFAワールドカップと異なり、U-23(23歳以下)の選手を中心に構成することが求められ、加えて3名のオーバーエイジ枠が認められています。しかし、この合同チームの編成には毎回ゴタゴタがあり、スコットランドやウェールズの協会が「合同チームを作ると独立が危うくなる!」と反発しがちです。
2012年のロンドンオリンピックでは、開催国として男子と女子の「イギリス代表」が特別に編成されました。しかし、このチームもスコットランドの協会から強い反発を受け、選手の選出には政治的な影響が大きく絡み、イングランドとウェールズの代表のみで結成されることになりました。男子チームはグループリーグを突破しましたが、準々決勝で敗退。結局、この合同代表は一度限りの特例的なチームとなり、今現在のところオリンピックでの再結成はありませんでした。
イギリスがワールドカップで統一代表を持たない理由は、
・サッカーの誕生当初から「俺たちが本家!」とバラバラに発展した
・FIFAが「サッカー発祥国だから特別待遇」と認めてしまった
・ラグビーでは合同代表があるが、サッカーにはない
・オリンピックでは合同代表を作るが、毎回大揉めする
・イギリスの4協会特例が、他の自治領のFIFA加盟の前例となった
結局、イギリスの分裂代表制度は歴史と伝統、そしてプライドが絡んだ「ややこしい事情」の産物なのです。もしかしたら、未来のワールドカップで「イギリス代表」が誕生する日が来る…かもしれませんが、可能性は限りなく低いでしょう。