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【イスラム教】世界のモスクはなぜメッカを向いているのか? 驚きの理由とその秘密

 世界中のイスラム教徒が一日に5回行う礼拝(サラート)では、必ず「キブラ」(Qibla)と呼ばれる方向を向く必要があります。このキブラとは、サウジアラビアのメッカにある「カアバ神殿(Kaaba)」の方向を指します。そのため、世界中のモスクは設計時に必ずメッカの方向を正確に計算し、礼拝スペース(ミフラーブ)をその方角に向けて建設されます。

キブラの歴史と変遷

イスラム教初期、ムハンマドとその信者たちはエルサレムの「アル=アクサー・モスク」をキブラとして礼拝を行っていました。しかし、622年のヒジュラ(ムハンマドのメディナ移住)後、イスラム教徒のキブラはメッカのカアバ神殿に変更されました。この「キブラ転換」はイスラム教の独立性を強調する重要な出来事であり、以降すべてのモスクはメッカの方向を基準に設計されることになりました。

 モスクの礼拝室には、キブラを示す「ミフラーブ(Mihrab)」と呼ばれるくぼみや装飾が設けられています。これは礼拝者が正しい方向を向けるようにするためのものです。初期のイスラム時代には、簡単な天文学的な知識や地域の地理的特徴を利用してキブラの方向が決められていました。例えば、アラビア半島では太陽や星の位置を基に方向を判断することが一般的でした。しかし、科学の発展とともに、より精密な測定方法が登場し、現在ではGPSやコンピューターを使って正確にキブラを割り出すことができるようになっています。

世界各国のモスクとキブラの向き

地球上のどの地点にいても、メッカへと向かう最短経路は異なります。そのため、各国のモスクのキブラの方向も異なっています。

 例えば:

 ・ロンドンのモスクは、南東方向を向きます。

 ・ニューヨークのモスクは、北東方向です。

 ・東京のモスクは、西を向いています。

 ・シドニーのモスクは、北西方向です。

 このように、モスクが必ずしも「南」や「東」を向くわけではなく、その地域ごとに異なる方向を指しているのが特徴です。

建築における工夫と例外

一般的にモスクは、キブラの方向に正確に建てられますが、都市計画や地形の影響で完全にメッカを向けない場合もあります。こうしたケースでは、礼拝スペースの設計に工夫を凝らし、内部のカーペットの模様やミフラーブ(Mihrab, 礼拝の方向を示す壁のくぼみ)によって信者が正しい方向に向くことができるようになっています。

 また、歴史的なモスクの中には、建設当時の技術的制約からキブラの方向が若干ずれているものも存在します。しかし、イスラム法学者の解釈では「意図が正しければ問題ない」とされており、実際のズレが小さい場合には特に問題視されません。

・スペイン・コルドバのメスキータ

 スペインにある「メスキータ(La Mezquita)」は、元々イスラム教のモスクとして建設されましたが、後にカトリック教会に改修されました。興味深いのは、建物が厳密にメッカの方向を向いていない点です。これは、当時の技術的制約や建築的要因によるものです。

・中国・西安の大清真寺

 中国にある西安の大清真寺は、中国の伝統建築様式を取り入れたモスクでありながら、礼拝室の内部はしっかりとメッカの方向を向いています。このように、イスラム圏外でもキブラの概念は厳格に守られています。

・アメリカ・ワシントンD.C.のモスク

 アメリカの多くのモスクも同様にキブラを重視して設計されており、GPSを用いた正確な計算が行われています。特にワシントンD.C.の「イスラム・センター・オブ・ワシントン」では、建築の際に天文学的な測量が行われました。

 世界中のモスクがメッカの方向を向いているのは、イスラム教における統一性の象徴であり、信仰の中心であるカアバ神殿を敬うためです。歴史的にも、この方角はイスラム教徒のアイデンティティの一部として受け継がれてきました。現代の技術を駆使することで、より正確なキブラの決定が可能になり、どこにいても正しく礼拝できる環境が整えられています。